scary things

怖いもの


夢を見る。夢は意味のあるものであったり、全く意味がないものであったりと様々だ。ジーンが車にひかれそうになる夢を見た後も、何度か夢を見た。朝起きて覚えている夢もあれば、夢を見たという感覚だけが残っているものもあって、よくわからなかった。

夢を見ている最中に夢だ、ってわかるものと、わからないものがある。大体、夢だとわからなくて、起きてから夢だとわかる夢は、未来を示していた。

僕はひたすら走っていた。なにかから逃げていたのかもしれないし、追いかけていたのかもしれない。理由はとうに忘れていた。岩場に足を引っかけながらも、膝をつくことはなく、ただ懸命に斜面を登っていた。風の音と僕の吐息だけが聞こえる中、たどりついた場所は、広い空が一望できる場所だった。山頂、ではないけれど。白と黒だけで構成されていながらも、どれがなんなのかはっきりわかった。そこまでたどりついて、一息ついてから、僕はその絶壁へと向かう。目の前は海で、強い風のせいなのか高い波が押し寄せている。僕はその真下をじっと見つめて。
_____体を風に任せるように、飛び降りた。



「__________っあああああああああああ!」
ちょうど深夜を回った頃、2階に声が響いた。それによって起きた僕は、その声の持ち主が誰か知って、部屋へと駆け込んだ。
!」
声の持ち主であるは、布団の中で体を丸めて、ブランケットを震えた手で握っていた。近づいて背中をさすれば、ビックリしたようで体がびくついた。
、どうしたの?」
「ジーン・・・・・・」
の目には涙がたまっていて、僕に抱きつくと、大声で泣き出した。
「どうした?」
扉が開いて、現れたのはナルだった。手にはカップがある。ベッドの上で座り込んで僕に抱き着いているをみて、眉を寄せた。
「ゆめ」
「夢?」
聞き返せば、はうなずいた。顔をあげると泣いていたためか目が赤い。
「とびおりる、ゆめ」
ぽつり、ぽつりと。しっかりとした言葉じゃないのは、もしかしたら思い出したくないからなのかもしれない。
「崖から、海に向かって飛び降りるの。海に、からだが打ち付けられて……しんじゃう」
ぎゅっと僕の服を握る手に力がはいる。きっと、その夢の人物に酷く同調したんだろう。どういった形で夢を見たのかはわからないけれど、これまであんな大声を出すほどではなかった。
「……まずはティーでも飲んで落ち着こう。大丈夫、僕たちがいるから」
ナルの持っているカップをに渡せば、は受け取って一口飲んだ。
「ルエラたちには声をかけてある。上がってはこない」
「……ごめんなさい」
はうつむいて、小さな声で謝った。別に、僕たちは怒っているわけでもないのに。ナルは近くの椅子を引き寄せると僕たちの近くに座った。
「予知夢?」
「わかんない……どんなひとかもわかんなかった」
「遠目で見ていたのではなく?」
「僕が飛び降りた。追いかけられてた?わかんないけど……」
「これまでもそういった夢は見た?」
「見てない……いつも上からとか、眺めてるから」
ナルの質問に、はゆっくりと答えていく。きっとナルはの夢について調べたいんだ。意味ありげな夢を見たら必ず言うように、と話しているのを聞いたことがある。
「これまでの夢と共通しているのは?」
「……空気とか、感覚がある。ただの夢は、感覚とかない、と思う。あ、でも」
「でも?」
「まわりがモノクロだった。いつもは色もあるのに……」


は少しして眠くなってきたようで、ベッドに横にすればすぐに寝息をたて始めた。それを確かめてから部屋に戻ろうとすると、くいっと引っ張られるような感覚がする。見ればががっちり僕の服を握っていた。
「……ナル、カップお願いしてもいい?動けないかも」
「寝坊するなよ」
ナルは僕からカップを受けとると部屋を出た。一方で僕はを起こさないように横に寝る。シングルのベッドではあるが、子供2人ならまだ余裕があった。ぎゅっとを抱き締めれば、子供体温だからか温かかった。ナルとは大違い。
寝ているを眺めていれば、次第に眠くなって、いつのまにか瞼が閉じていた。





起きたら目の前にジーンがいた。大声を出さなかっただけ誉めてほしい。ジーンはぐっすりと眠っていて、軽く揺さぶっただけでは起きてくれなかった。時計をみれば丁度7時で。ジーンの腕を掻い潜りながらベッドから脱出した。
バタバタと足音をたてて1階に降りれば、すでに両親とナルは起きていた。挨拶を済ませてナルのいるソファに腰かけた
「おはよう」
「……ああ。ジーンは?」
「寝てる。揺すったけど起きてくれなかった・・・・・・」
ナルの手の中には本が握られていて、たぶんGCEの試験に向けてのものだとおもう。ナルもジーンも頭が良くて、特にナルは早く大学に行きたいみたい。やっとセカンダリースクールが始まったというのに、とっても気が早い。
「放っておけ。」
「でも、僕のせいで」
「ジーンの寝坊はいつものこと。休みなら放っておけ」
「・・・・・・うん。ナルも、ごめんなさい。」
昨夜のことを伝えれば、ナルはあまり気にする様子もなく、本に視線を落とした。たぶんこれは、問題無いという意味、だと思う。
隣からナルの持っている本をのぞき込んで、眉を寄せた。まだ習っていない記号がずらりと並んでいる。僕もいずれはナルやジーンに追いつきたいけど、まずは今やってることをどうにかしないと・・・・・・

「うん?」
急に声をかけて顔を上げれば、ナルと視線が合った。
「夢を見たら内容を詳細に残しておいてほしい」
「うん、わかった。日記みたいに書いておけばいいの?」
「ああ。覚えていなければその記述だけ。正確に」
「はあい」
そうしたら、ノートかなにか買ってこないといけない。真っ白なノートは今は持っていないから。今日、買い物一緒に行ってくれないかな、なんて考えている間に、母に起こされたであろうジーンが階段を降りてきた。
「おはよう。ジーン」
「おはよう・・・・・・、もう大丈夫?」
「うん。大丈夫。ありがとう」
そう答えれば、あくびをしながら降りてきたジーンにぎゅっと抱きつかれた。背中をたたいて必死に抵抗したけれど、しばらくは離してくれなかった。

2018/05/14


inserted by FC2 system