Do you see me?

わたしが見えていますか?


ナルはとても気むずかしい。自分の気に入らないことはしないし、人にはとてもあたりが強い。けれど身内には甘いし、気になることがあればそれに一直線。だからこそ、研究者として優秀。
そんなナルは、彼女と出会った調査以降、彼女をバイトとして雇ったらしい。ナルが他の人を側に置いているのは、正直想像できない。そして、あの調査からだいたい3ヶ月くらいたってから、ようやく次の調査に移ることになった。そこまでの道のりは、おそらくナルにとっては面倒で、鬱陶しく、退屈だっただろう。論文を書く時間があった、という点では良さそうだけど。
幽霊屋敷。僕がのぞいたとき、感じたのはその一点だった。
僕は人の体を離れて、いわば幽体離脱・・・・・・いや、ニアデス・エクスペリエンス(臨死体験)をしているのだろう。そこから体外離脱をして、こうしてさまよっている。簡潔に言えば、生き霊としてこの世をさまよっているのだ。けれど僕にはこれが現実のようには見えず、薄い膜が張ったような状態で、世界が違うように感じていた。だから僕のことを、霊媒師は見ることができない。幽霊として、その場にいるのではないから。
だから、もしなにかを見てそれを伝えるとなったとき、一番に関われそうなのは彼女だった。ナルはまだ気がついていないけれど、どうやら彼女もESPを持っているようだ。具体的なものはわからないけれど、僕のいるこの世界に、来ることが出来る。彼女はそれを夢だと想っているようだけれど。この屋敷には幽霊がいる。それを伝えるまでもなく、ナルはその結論に行き着くだろう。必要であれば、ジーンも呼ぶ。でもナルは慎重だから、貴重なデータをとっておきたいと思うから、解決を伸ばすことも、ある。
___それだと、あの小さい女の子が危険だ。
この屋敷には、年齢が二桁にも行かない女の子がいる。どういう課程か、そういったことはわからないけれど。僕はここでも夢をみる。気がつくと眠っていて、何事もないような未来であったり、危ない未来であったり、そういったものを、みる。昔よりもその夢は頻回で、夢を見て起きた瞬間にはその夢の内容が起こっている、なんてことも、ある。これほど瞬時にナルに伝えられないのが、とてももどかしい。そして、なにより、その地で起こる昔が見えた。ナルができるサイコメトリのような。それを見て、真相を知って、これがきっと、ジーンがよく悲しんでいた理由なんだと気がついた。
だからふと、彼女の夢の中に潜り込んだ。そうすればあのときのように、話ができると思ったから。
「麻衣ちゃん」
僕がそう呼べば、ゆったりと眼があいた。まだ夢心地らしい。この夢の世界がいつまでなのか、正直わからない。だから簡潔に。長く話が出来たら、詳細を。
「あやみちゃんが危ないよ。1人にしちゃだめ」
「・・・・・・え?」
彼女はゆっくりと僕の言葉を反復して、驚いた表情を見せたとともに消えた。おそらく目が覚めたのだろう。これで、多少は伝わるといいんだけれど。
さぁ、あとはもう一仕事。この場所でなにが起きたのか、起きているのか。幽霊には幽霊にしかできないことをしよう。それがすなわち、ナルの手助けになる。無論、そのためには僕の持つESPも使っていかないとね。



ずいぶんと昔、この屋敷が建つ前。僕たちが生まれるよりもうんと昔。ここには仲むつまじい親子がいた。幼い女の子と、年配の女性。女性はなかなか子供に恵まれず、女の子はようやっと生まれた愛してやまない子供だった。
庭で遊んでいた女の子は、ふと男の人に声をかけられた。幼い子供だ、警戒心も無かったのだろう。女の子は、その男の人について行ってしまった。
人さらい
母親はひたすら子供を探す。けれど、消えた子供は帰ってこない。いくら探しても、いくらまっても、子供はこの場所に戻ってこない。ひたすら、ひたすら母親は悲しむ。
母親はすがりつくように井戸を覗く。井戸に子供がいるのだと、探すように。

そして、そこに駆けよろうと屋敷の中で動いた人影を、手で遮った。
彼女はそれに驚きを見せる。

母親は、涙を流して、ながして、一声叫んで、井戸の中へ
__そこまで見て、僕は目をつむった。



「こんにちは。」
「あ、ええと、これ、夢だよね?」
「そうだよ。」
「・・・・・・礼美ちゃん、大丈夫だよね?」
「大丈夫。すぐに終わるよ。ナルを信じて」
「ナルのこと知ってるの?」
「___うん。またね、麻衣ちゃん。」

2017/09/03


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