Some kind of a tragedy

ある種の悲劇


「ナル、スプーン曲げだって。僕にも出来るかなぁ」
「あれ、ってばなに見てるの?」
「あ、ジーン。なんかね、昔のテレビの特集?っていうやつ。昔はやった、スプーン曲げだって」
「ああ、ユリ・ゲラーのスプーン曲げだね。」
「あれって、PKなの?ぐにゃって曲がったよ」
「んー・・・・・・彼の能力については賛否両論かな。特にそのスプーン曲げについてはね。」
「ええー。ねえナル、ナルは出来るの?あのスプーン曲げ」
「・・・・・・、スプーンを持ってこい、2つ」
「2つ?わかった。」
「あれ、ナル。実演するの?」
「実際にやるまででもない。方法を教えたらでもジーンでも出来る」
「あ、それ力学応用のやつだ。それなら僕も知ってるよ。!僕が教えてあげるよ」
「うん?なあに?」
「まず、スプーンをこうやってもってね_____」


今回、ナル達が訪れたのは、湯浅高校と呼ばれる日本の学校。日本では、6歳くらいから学校教育が始まって、基本飛び級制度はない。高校、と呼ばれるのはキーステージの最後とか、シックスフォームにいく年齢の人が通っているみたい。年齢で言うと15~18歳くらいらしい。そう考えると、ちょうどナルやジーンと同い年くらいなのだろうか。麻衣ちゃんとも年が近い?
そんな湯浅高校ではたびたび怪事件が起きるらしい。ポルターガイストとかも。けれど、そのデータがうまくとれているわけでもなく、調査は難航しているらしい。そりゃそうだ。僕と同じような存在が、あまり感じられない。いる場所にはいるけれど、それはきっと許容範囲だろうし。だからなのか、協力してくれている霊媒師の人があまり信用出来なくなってきていて、いや、もしかしたら最初からそこまで信用してないのかもしれないけれど。

ジーンを呼べばすぐなのに。

2人が揃えば、きっと事件はなんでもすぐ解決できる。幽霊関係だったらジーンが見ればいいし、それ以外はナルがどうにでもできる。お互いがお互いを信用しているから、気疲れもしない。けれど、英国にいて一応は勉強しているジーンを呼ぶわけにはいかないと、多少はわかっているらしい。僕に付きそうと言っていたジーンを英国に返した手前、呼べないというのもあるのかも。
あーあ。僕の声が、ナルに伝わればいいのに。そうすればどろっとした嫌なやつの場所とか、原因とか伝えられるのに。

___この騒動は、心霊現象じゃない。故意に起こされているものだ。

それをどうやったら伝えられるのか。何度も何度も、調査に奔走している人たちをみてため息1つ。だけど、あの霊媒師の人に見つかって除霊されるのは嫌なんだよね。だからすごい近くに行って感知されたくはない。うんうん悩んでいると、ふとベースに彼女が1人だけになって暇をもてあましているのを見つけた。
そういえば、彼女がいた。

うとうとして、夢の世界に旅立っている彼女を確認して、その場所にもぐりこむ。潜り込んだ先は、なぜか遊園地だった。オールトン・タワーズだったら昔行ったことがあるけれど、彼女が入った鏡だらけのアトラクションはあったっけ?看板にはミラーハウス、と書かれている。とりあえず中に入って、ある程度進んだところで動きを止める。ばたばたと、誰かが走り回っている音がする。いや、あくまで音がするのではないか、という考えだ。実際に音が鳴っているわけではない。夢の世界は、ひどく曖昧で、けれど時々真実を示してくれる。意味の無い夢であったり、意味のある夢であったり。考えもしなかった世界が、夢の中では広がっている。その中で、自分の求めているものを見つけるのは、ひどく難しい。きっと、彼女も。
「出られないよ」
彼女がこちらに気がついたのか近づいてくる。
彼女の、しいてはナルの、求めているものに少しでも近づけるように。すいっとある方向を指さす。そこは、今彼女がいる学校だ。けれど、そこは学校ではない。
白と黒で構成されたその学校は、実際には存在しない。学校に点在する、蒼い光も。あくまでこれは、現実にある学校を例えたものだ。一致するとは限らないけれど、全てが違うわけではない。
「あれは・・・・・・何?」
「どろどろしたもの。麻衣ちゃんならわかるよね」
彼女はすっと一瞬、顔色が悪くなった。きっとわかったのだろう。あの光は、きれいなものじゃない。邪悪な意思。
彼女がそれを自覚したあとすぐに、彼女のすがたは霧が晴れるように消えていった。消えた後も、僕は少しの間、あの光を見つめた。なにが原因で、あんなどろどろしたものを作ったのだろうか。
残念ながら、そこまではわからない。きっとこれは、生きている人間がしていることだから。でもまぁ、きっと。ナルだったらちょっとしたきっかけがあればすぐ気がつくだろう。
あーあ、僕もあの場所にいたいなぁ。

2018/05/02


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