Something bad is going on

なにか悪いことが起きている


ナルの調査では、あまり見たことのない精密機械が多く登場する。ボイスレコーダーは常時在るし、カメラ、計測器、モニター・・・・・・。一体いくらかけているのか、僕にはさっぱりわからない。その大量の機械を準備したところで空振りに終わることもあるし、空振りではなくても機械が壊されたり、写って欲しいものが写っていなかったりすることもざらだ。それでもやっぱり、研究には欠かせないものだ。
僕が研究に同行したときも、やっぱり荷物持ちとして動かされたなぁ、なんて。でも重い物とか、すごく重要なものは触らせてはくれなかった。少なくとも、引きこもりのナルよりは体力はある!と思うんだけどなぁ。
そんな機械を、リンや同行している人たちが運んでいる。夕方で、もうすでに暗いというのに。日本の学校は、ひどく閉鎖的だ。外部からの侵入を酷く警戒している。それはまるで、自分の領域を荒らされて怒る幽霊達と同じ。けれど、幽霊のほうがまだまし。幽霊は全力でこちらを拒んでくるし、時には害もなしてくるけど、こちらに与えてくるのは外的な物だ。けれど、人間は違う。外的な物もあれば内的・・・・・・心や精神にたいする攻撃もしてくる。あ、幽霊という存在が精神的にくる、っていう考えとは別にね。悪意を持って、ってこと。だって、幽霊がしたことに怖がるのは、受け身であるこちらが勝手にしていることだし。それで精神的に負荷が掛かっても、それはちょっと違うと思うんだよね。兎に角、人は時には残酷に、平然と、悪魔よりも恐ろしいことをしてくるんだ。その結果、なにが起こるのかも、考えもしないで。

どっちが悪い、とは言えないと思う。根源はきっとわかりきっているけれど、その結果行ったものも、わるい。そして無知もまた、悪だ。
ふらふらとしている麻衣ちゃんを見つけて近づく。そうすれば、向こうも気がついた。
「どうしたの?よく、会うよね?」
「こんにちは。麻衣ちゃん。」
夢の中だからか、彼女はぼうっとしている。だからこそ、僕のことを夢の中の空想の人物だと思ったりしている。いつかしっかり自己紹介したいとは思うけれど。
「ここは危ないよ。とっても危険。麻衣ちゃんは帰ったほうがいいよ」
「まさか」
「本当だよ。霊がいっぱい浮遊してる。」
彼女は僕の言葉をあまり信用していないみたいだった。そりゃそうだ。彼女ははっきりとした霊媒ではないから。
「みんなが祓ってるけど、あんまり効果はないよ。見てみて」
僕がすうっと指で道を示す。彼女の視線が、同じ方を向いた。白と黒の世界で、床がうっすらと透ける。けれど、床が消えたわけではない。それでも彼女は驚いたのか、その場にしゃがみ込もうとしている。ついそっと、手を握って、支えた。
「大丈夫だよ」
「・・・・・・どうなってるの?」
床も壁も全てが透けて、まるで自分たちが宙に浮いているかのように感じる。けれど、これは夢の世界。やろうとおもえばなんでもできる。けれど、なにもできない。
「ねえ、これは・・・・・・」
彼女の目には、どう写っているのだろう。青白い光。蒼い光。
「みて。たくさんさまよってるの」
2階にも1階にも、どこにも。光はたくさん浮遊している。ぱっと見て数えられるものじゃない。
「こんなにたくさん・・・・・・あれが全部、霊?」
「そうだよ」
窓の先、別の建物。体育館、という場所。その近くの部屋に、彼女のつれである女性たちがいる。蒼い光ではなく、少し黒ずんだ光。女性達が除霊を試みれば、光はすうっと部屋を出た。
「どういうこと?」
「逃げた。」
逃げた光を目線で追うと、それは別の部屋に入っていき、白い光と混じって、混じって、黒い光が白い光を飲み込んだ。そうして光は大きくなってくる。
「なんか、気持ち悪い・・・・・・」
「光が光を喰い合ってるんだよ。そうしてどんどん成長して大きくなってくる。」
その結果、もっと、もっと黒ずんで、禍々しくなっていく。
「あれは邪悪。すごいでしょ?」
「・・・・・・うん」
邪悪な光が、他の光を飲み込んでいく。喰らって、喰らって、いつしか大きくなって。それはきっと、取りかえしの付かないところまでやってくる。
「麻衣ちゃんは帰った方がいいよ。」
「え、でも、できないよ。あたしだけ帰るなんて」
「うーん・・・・・・それなら、誰かに退魔法を教えてもらって。」
「あたしなんかでも、使えるの?」
「弱い相手なら、たぶん。でも、気をつけてね、危険な所にいかないこと。」
「うん。・・・・・あ、まって、キミは____」
彼女がなにかを言う前に、彼女の姿はかき消えた。もうちょっとお話したかったけど、まぁお仕事が優先だからね。でも、彼女に帰ってほしいと思ったのは本当。光はどんどん喰いあって、大きくなって、いつしかこれを組み立てた人の願いを叶える。これは、そういうものだ。けれど、組み立てた人はその間に巻き込まれる人のことをなにも考えちゃいない。もしかしたら一緒に巻き込まれてしまえ、なんて思っているのかも。できれば、ナルやリン、麻衣ちゃんたちが巻き込まれないといいんだけれど。

____世の中、そう上手くはできていない。

「もう、危ないから帰ってって行ったのに」
「ええっと」
「そこはダメ。わかるでしょ?すぐにそこをでて」
「・・・・・・わかんないよ。これは、なに?」
麻衣ちゃんは周囲のお社に意識が向いている。もう、そういうの今はどうでもいいから!って思っても、理解してくれないのは悲しいなぁ。
そう、お社。狐が守護する神社。神社のことはくわしく知らないけれど、日本では有名らしい。そして遠くには学校が見える。
「危険なんだよ。退魔法は教えてもらった?」
「・・・・・・うん」
学校には、あの時彼女とみたものとは比べものにならないくらい大きい光がある。いや、もう光ではないと思う。禍々しい、鬼火。
「・・・・・・生まれる・・・・・・?」
「そうだよ。今までは寝てたけど、もうすぐ起きる。そうしたら、誰にも止められない。」
あのときあった多くの光は、大きな光に飲み込まれ、もう数えるくらいしかない。1つになるのも、時間の問題だ。
「あたし、戻らないと」
「・・・・・・気をつけてね。そこは、あれと同じくらい、危険だから」

そう、伝えたにも関わらず、運が悪ければ死んじゃうような目に、彼女は遭ったのだけれども。猪突猛進?お願いだからこっちの話を聞いて欲しいなぁ・・・・・・

2018/05/03


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