Do you know who I am?

私が誰か知ってる?


1年たった。ナルが日本にきてから。___僕が事故にあってから。
長いようで、あっという間だったと思う。今の僕には時間の概念がないし、ただふらふらしているだけで数日、数ヶ月すぎていたってこともある。ナルが調査している間は、がんばって起きてるけど。
僕の体の状態は、依然変化していない。ナルに憑いている状態だから、ずうっと体の側にいるわけではないけれど。でも、ナルは時々、僕の体が寝ている病院に来ている。じっと僕のことを見ていて、なにを思っているんだろう。バカとか、そんなこと思われてるかも。

なあに?ナル。あ、もしかして早く起きろって?ナルってば無茶ばかり言うんだから。
心配、させているんだと思う。僕が夢をみてうなされていた時も、泣いていたときも、表だって側にきてくれたのはジーンだけど、普段だったらまったく見向きもしないナルもこちらを見ていたから。ナルだって実験で嫌な思いをいっぱいしているのに。だから大丈夫だよ、なんて言えば、余計に眉間のしわが濃くなって。
がんばって、早く起きるからね。まってて。



ジーンだ!なんて言っても誰にも伝わらないけど。ナルに急遽連絡が入って、東京に呼び戻され、そこにいたのはまどかとジーンだ。森まどか。ナルとジーンの上司に当たるひと。けれど機械関連はまったくだめで、すぐに壊してしまう。だから機械に関することは一切触らない、というか触らせてもらえない。そんなまどかはともかく、なんでジーンまで日本にいるんだろう。学校はいいのかな。
とんとん拍子で話が進んでいく。その中で、あの禍々しい光があった学校の生徒会長さんであった安原さん、という人も登場して、なんでかナルの身代わりをすることとなった。なんで?って思ったけど、どうやらナルたちには依頼の解決とは別にお仕事があるらしい。それにジーンが必要なのか、と思えば、単純に野次馬らしい。怒られてもしらないぞっと。
「・・・・・・それと」
ナルが騒いでいる他の調査員や協力者を横目に重い口を開く。ほんっとうに嫌なんだろう。
「今回、調査員が1人加わることになる」
その言葉と共に、奥の、いつもナルのいる部屋からでてきたのはジーンだ。ただし、他の人からしてみればそっくりさん。
「え」
「初めまして。渋谷です。弟がお世話になってます」
「ええええええ!?」
事務所に大声が響き、ナルが本気で嫌な顔をした。たぶん、不本意なんだろうなぁ。実際、この仕事、調査はついでだから、ジーンの力がどうしても必要ってわけではないだろうし。
「弟が、ってことはナルの兄貴!?」
「兄弟いたの!?」
「・・・・・・話を続けていいでしょうか?」
「あはは。本当にナルって呼ばれてるんだ。」
「・・・・・・」
「ごめん。」

ナルたちが訪れたのは、長野、という場所だ。そこにある、何度も改築をし続けてきた不気味な屋敷。なんでも、日本の元トップが関係している屋敷らしい。そのためか、外出とか、外との通信とかの制限がかけられていた。まぁ、そこらへんは多少不便ではあるが、穴はある、と思う。そしてそこに集められた20名ほどの霊能力者関係者たち。彼らでこの屋敷の異変を解決して欲しい、というのが依頼だそうだ。けど、ナルとしてはその依頼には消極的で。目的はきっと、自己紹介で注目を浴びていた、”オリヴァー・デイヴィス”だ。高齢の男性で、通訳はもっぱら付き添いの日本人。この時点でもし僕があの場にいたら大笑いしてると思う。僕も一応、デイヴィスだしね。そしてナルとジーンも、本名はデイヴィスだ。いやぁ、面白い偶然なんてあるんだなぁ、とか思っちゃいけない。正真正銘、ナルがオリヴァー・デイヴィスだからだ。これがあるから、ナルにこの仕事を依頼してきたんだろうし、かつジーンが野次馬をしにきたわけだ。ナルの表情は変わらないけど、ジーンはどこかにやにやしている、気がする。もしかしたら2人だけの内緒話で色々話しているのかも。残念ながらそこらへんはわからない。

ナルはジーンが霊媒であることを伝える気はないようで、ただの一般人として扱っていた。なにかわかれば、きっとホットライン、だったか、2人の内緒話で話しているのだろうけど。一応、霊媒師の女の子もいるから、どうにかなると思っているのか。というより、依頼はどうでもいいと思っているのか。それでもまぁ、カメラとか色々準備しているけど。そしてその準備には、無論ジーンもかり出されている。
「ナル」
「・・・・・・何だ」
「この屋敷、なにか変だ」
「変?」

ちょうど部屋にはナルとジーン、そしてリンだけになったとき。その間だけが、3人が普通に話す時間だ。言語も、日本語から英語に変貌している。
「なにか中央に渦のようなものがある。具体的にはわからないけど・・・・・・それと、血のニオイがする」
「・・・・・・見取り図が出来ないと動けないな」
「でも、ウィンチェスター館よりもめちゃくちゃだよ」
「別に、本命が片付けばそれでいい」
「まったくもう」

動く気ないね、なんてジーンが言えば、言葉は返ってはこなかったけど、さも当然とでも言いたそうな表情が帰ってくる。
「お前も」
「ん?」
「お前も早く片付けたいだろう。病院には行ったのか」
「・・・・・・行ってない。日本にきてすぐに事務所に行ったからね」
「だったら、なおさら」
「・・・・・・うん」





あたりは白いタイルで覆われていた。近くにバスタブがあって、バスルーム、だと思う。それだけなら、普通の所だ。おかしいのは、周囲が血まみれであること。血だらけで、ここで一体何があったのか。想像し得ない。部屋はいくつかに分かれていて、奥にはベッドが置かれている。それはこの部屋よりもさらに血だらけで、異臭もより一層強いだろう。そしてベッドにあるまじき、ロープの存在。その部屋を見ているだけで、おおくの人の悲鳴が聞こえてくるような気がした。
さすがにこれを、麻衣ちゃんに見せるわけにはいかない。
そうは思ったんだけれども、なぜか麻衣ちゃんはこれよりも鮮明なものをみた。僕がそれを知ったのは、屋敷に響いた彼女の悲鳴からだった。

たぶん、彼女の力は強くなってるんだと思う。なにかと同調しているのか、それはわからないけれど。それがいいことなのかも、僕にはわからない。ESPなんて、PKなんて、ない方がいいと思う人も、きっといる。けれど、それが無ければ今の僕や、ナルやジーンの生活はなかった。だから僕はESPをもっていることをうれしくかんじるけど、それが彼女にとっても同じか、と聞かれれば、僕にはわからない。


「僕がここにきたのは、大橋さんの依頼を受けたからじゃない。依頼自体には、さして興味を惹かれなかったし、現在もさほど面白い事件だとも思えない。起こっていることは深刻で重大だが、現象自体は死者が生前の行動を繰り返しているという、それだけのことだから」
「でも・・・・・・だったらどうして」
「僕は大橋さんの依頼を受けたわけじゃない。まどかの依頼を受けたんだ」
「まどか・・・・・・って森さん?」
「そう。彼女が南心霊調査会の連中が、デイヴィスの偽物を連れて歩いているようなのでしらべてほしいと。僕らの仕事は今、終了した。ここに危険を冒して残る理由がない。残ったところで面白い現象が見られるとも思えないし。引き揚げる」
「たばかったな・・・・・・てめー」
「まあまあ。撤収しよう。」

・・・・・・って、言ったら早く撤収してほしかった!!!
伝わらない思いを必死に伝えても意味はないので、とりあえず1人になって連れて行かれてしまった女の子、真砂子ちゃんの側に近づく。あぁ、こんなことになるならポルターガイストの1つや2つ、起こせるようになっておくべきだった。兎に角、ジーンとは全然繋がらないので、麻衣ちゃんが寝てくれることを願って、うたた寝をした瞬間突撃することにした。



「貴方は・・・・・・?」
初めて、だと思う。彼女の前に現れるのは。この淀んだ場所に、霊媒の子が1人でいるのはきっときついだろうから。彼女が戸惑っていることをいいことに、そっと手を握った。
「大丈夫。大丈夫だよ」
「貴方は、もしかしてここで?」
彼女の言葉に、僕は首を横に振った。
「すぐに助けが来るよ。大丈夫。」



「・・・・・・あれ?」
光が泳いでいく先に、何度も夢でみた少年がいた。名前もしらないけれど、何度も会ったことのある少年だ。
「真砂子を知らない?」
なんで、自分でも彼に聞いたのかはわからない。でも彼はいつもなにかしら教えてくれた。彼はあたしの言葉に、ちょっと笑った。白い手が動いて、右の方を指さした。
「そっち?」
少年はうなずいて、消えた。



「諦めちゃだめだよ。絶対に助けにくるからね」
「・・・・・・ありがとう。大丈夫ですわ。さっきまでここに、励ましてくれる男の子がいましたの」
「男の子?」
「ええ。大人びていましたが、きっと年下の。手を、握ってくれて」
「・・・・・・そっか」



無事、うん、無事に依頼も終了し、全員が帰路につく。ジーンも、少しは日本にいるけどすぐに英国に帰るそうだ。学校あるから仕方ないね。
「あ、ナル。帰る前に一緒に病院行ってもらっていい?」
「・・・・・・わかった」
「え、病院?さんどこか調子悪いんですか?」
渋谷サイキックリサーチの事務所内。相変わらずのメンバーに加えてジーンがいた。
「ううん。お見舞いにね」
「・・・・・・どういった事情か聞いても?」
「弟がね、入院しているんだ。そのこともあって、ナルはここで仕事をしている」
ジーンはそう言うと、座っていたソファから立ち上がった。それを横目にナルは奥の部屋へと引きこもる。
「たぶんそのまま帰るとおもうから。大変だろうけど、ナルのことよろしくね」
「あ、はい!」
ナルとは違って、満面の笑みを浮かべるジーンに、彼らはどう思ったのだろう。兄弟なのに性格は全然ちがうから、同じ顔でも印象は全然違う。趣味も、結構違うんだよね。
ジーンはそのままナルが引きこもった部屋にノックもせずに入っていった。怖い物知らず、と口にしたのは誰だったか。


2018/05/04


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