湧き水

創の軌跡番外編:時系列的に合致しないパラレル


「へぇ、結構熱いんだな」
「ほんとだ。でも普通に入れるくらいだね。あったかーい」
「……いやいやいや!おかしいだろうが!」
オーブメントによって魔除けもされていない脇道の奥。あたりは木々や岩壁に囲まれており、人が通るであろう道からは見えない場所。周囲に人影もないし、気配もないため特に問題ないと判断はしているが。
「もうちょっと場所を考えろ!特にリィン!」
同行してきた先輩はどうやらお気に召さないようで、特に全身浸かっているリィンに対して怒りを示していた。
ことの始まりは、なんてこともない。私とリィンが周囲の散策をしていて、それに暇だった先輩がついてきただけだ。そうして散策していた先に、ちょうどいいところがあってそこで休憩をとることにした。本当に、ただそれだけなのだが。
「あたりには魔物の気配もないし……」
「そういうことじゃねぇだろうが。温泉好きにしても度が行き過ぎてんだろ」
ちょうどいいところ。それは自然にできた温泉だった。こういうところは時々ある。どういう原理かは知らないが、湧き水のように吹き出ている温泉がみられることがある。そして、私はそこまででもないが、リィンはどっちかというと温泉マニアだ。男なのもあって自然な温泉につかることもある。今のように。それに対してどうも思ったりはしていなかったけれど、一般的ではなかったようだ。
「つかもなんか言えよ……」
「私にとっては珍しくない光景なので……」
「まじかよ。せめてのように足つけるくらいにしておけって」
「えぇ……」
岩に腰かけて、足湯のようにしている私にも、思うところはあるようだが、なんというか、あきらめの境地なのだろうか。
仕方ない、といった風にリィンが湯から上がる。タオルを渡せば、体をふきながら脱いであった衣類を着始めた。リィンがいなくなった湯の中で足を動かせば、パシャパシャと水しぶきが上がる。濁り湯ではなく、ほとんど透き通った湯は足をつけていても足先まで見通せた。
「お前ら、2人の時はいつもこうしてるわけ?」
「いつもというか……」
「私たちが一緒に行動するほうが珍しいといいますか……。トールズにいたときはクラスも違いましたし、まずこうやって外にいくこともあまりなかったですし。卒業後もリィンは教官として忙しかったので。」
も結構動き回っていたからな。」
「……いや、なんか、すまん」
「なんでクロウが謝るんだ?」
「魔物相手だと人数は多い方が助かりますが……」
「うっそだろお前ら」



「ということがありまして」
「あっはっは!そりゃあアームブラストも災難だなぁ」
ちょうど帝都に赴いた際に、偶然なんだか必然なんだかはわからないがレクター先輩に出会い、なぜか昼食をともにすることとなった。共和国との戦争が終わり、帝国はいまだ混乱の中にある。情報局に所属する彼もまた、忙しい身だ。鉄血の子供達としても、いろいろ大変だろう。今後、ミニ同窓会をすることも決まっていて、そのために時間を空けるのも、ちょっと一苦労しているみたいだ。
「なぜ謝られたんでしょう?特にクロウ先輩が悪いことをしたわけではないのですが」
「いやぁ、シュバルツァーはそうなのはわかってたが、もだとはなぁ」
「ええっと?」
首をかしげると、だろうな、と言葉が返ってくる。
「お似合いだってこと」
「はぁ……」

2021/4/21

時系列と状況からしてどう考えてもこういった場面はないので完全パラレル。
2人とも鈍感だね、って話です。


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