空の軌跡編

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「ジルさんに、ハンスさんですね。よろしくお願いします」
「よろしく。って、同学年なんだし呼び捨てでいいって」
「そうそう。こっちこそよろしくな、
クラブハウスの2階にある一部屋。そこで私は2人の同学年の生徒と対面していた。同じ社会科の生徒であり、本日から同じ所属になる。
生徒会役員。それが今日から私につく肩書だ。どの学園にもあることが多いが、生徒が主体となって運営する組織の1つ。よりより学園生活を送れるようにと場所によっては学園の予算なども掌握するようだが、ここではできたとして寄付金などの分配について学園長に進言するくらいだ。あとは学園祭の主催、各行事での生徒の代表としての役割くらいか。それでもやはり、普段の授業とはべつにやらないといけないため、希望者はそこまで多くない。ただ希望者が多ければ選挙戦が行われ、生徒会役員の座を巡って演説なども行われる。今年度の1年生は希望者はいても定員内に収まったので、形だけの選挙戦と演説にて終わりを告げた。一方、すでに決まっていた生徒会長の座は、前年度の終わりに2名の立候補者が争ったらしい。その結果レクター先輩が勝ち取ったようだが、それは相手がそこまで熱意を持っていなかったのか、それとも口だけはうまいレクター先輩が周りを魅了したのか。負けた先輩の尊厳を守るためにも、後者であってほしいと願うまでだ。
「対面は終わったか」
1年生の生徒会役員は私を含めて3名。そのほかに先輩たちがいて、会長がレクター先輩。しかしその生徒会長はこの生徒会室にはおらず、代わりに指示を出しているのは書記のレオ・E・ローレンツ先輩だ。もともと会計も兼任していたようで、手際の良さは見習いたいと思うほどだ。
「では最初の仕事だ」
レオ先輩はそういって結構な厚みのある紙の束を机に置いた。文字が多く書かれており、一番上に置いてあるのは昨年度の卒業生の進路先の一覧のようだ。ただ枚数的に、それだけではないだろう。
「1人はこれを種類別に分けてもらう。残り2人は一緒に別の仕事だ」
好きなほうを選ぶといい、とレオ先輩は言った。思わず3人で顔を見合わせる。ジルさんとハンスさんの顔が少し引きつっているのは、紙束に引いているのか、生徒会に入って早々の仕事で驚いているのか。
「ええっと、書類整理の経験はあるので、私がやりましょうか?」
とりあえず、1人よりは2人のほうが安心感は違うし、経験者がやるのが一番いいのでは、という考えのもとにそう口にする。それにたぶん、書類整理って先輩と一緒の部屋で、ってことになるだろうし。
「えっ、やったことあるの?」
「はい。といっても家の手伝い程度ですけど」
「だったら任せたほうがいいか?」
仕事内容はわからないし、最初は先輩らの指示に従うのが一番だろう。生徒会役員の中枢としての動きはきっと2年生からが本番のはずだ。今は社会でいう下積みの段階だろうか。
「では、残り2人の仕事だが」
「「はい!」」
2人がレオ先輩の言葉ですこし背筋が伸びた。端的な言葉は、すこしこちらを委縮させる。
「レクターを捕まえてこい」
「……えっ」
これから先、この命令が各先輩から後輩によく飛ぶようになる。私は最初のレクター先輩との出会いを思い出し、残り2人はその意図がわからず、しばらく硬直することとなる。

「レオ先輩、一通り終わりました。こちらの書類はあと生徒会長の印で終わりになります」
「助かる。」
1時間もかからずに、書類の仕分けは終わりを告げた。広げてみると、教員に渡すものから、ファイリングするものまでさまざまな書類があった。そして中には生徒会長の印が必要なものまで。聞いてみるとレクター先輩がまとめて放っておいたもののようで、その中身はレオ先輩でも知らなかったようだった。
「ファイリングするものは棚のファイルに仕舞えばいいですか?」
「ああ。すべて表紙に目次があるのでそれに従ってくれ」
「わかりました」
レオ先輩の指示のもと、書類をしまうべくファイルを取り出す。これは年代順に入れればいいようだ。そうしてファイルを広げていると、生徒会室の扉が開いた。それに気が付いて視線を向けると、疲れ果てた2人の姿と、レクター先輩の襟元をつかんだルーシー先輩がいた。
「お疲れ様です……?」
「早かったな」
「ええ。1年生が追いかけてくるのは想定外だったみたいね」
レクター先輩を生徒会長の椅子へと座らせ、ルーシー先輩は席へとついた。そのあとを追う形で2人も椅子に座り、机に突っ伏した。
「だ、大丈夫ですか?」
「つ、疲れた」
「なんなんだあの人は……」
レオ先輩は2人の様子にはとくに触れず、先ほどまとめた書類の一部をレクター先輩の机の上に置いた。
「これを片付けない限り夕食はないと思え」
「勘弁してくれー」
レクター先輩の情けない声が、生徒会室に響くが、それに答える人はいなかった。

2020/09/23

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