空の軌跡編

4


「あ、 !ちょうどよかった。」
「ジルさんにハンスさん。それに、クローゼさん」
入学して最初の試験が終わりをつげ、全員が解放感を得ている頃。後者1階にて声をかけられて、足を止めた。そこには同じ生徒会の2人と、最近レクター先輩の捜索に力を貸してくれているクローゼさんがいた。よく3人で探してくれているのを見つめる。
「どうかしましたか?」
「2時から生徒会のミーティングだって。よかったらその前に一緒に飯でどうかって」
ハンスさんの誘いに、私はうなずいた。
「ちょうどクラブハウスに行こうかと思っていたんです。ご一緒しても?」
「もちろん!」
それから4人で食事をとったあと、私たちは生徒会室へと足を踏み入れた。
「ちわ~。あ、珍しくレクター先輩がいる……」
「珍しいとは何だ、珍しいとは。オレはいつも、ここでダベってるだろうが!」
生徒会室にはすでに先輩たちがそろっていた。ジルさんが言った通り、珍しい光景だ。
「いつもここにいるなら、探す必要ないんですがね」
いないから探しているわけで。というか、仕事をしていないことは認めるようだ。
「ルーシー先輩、お久ぶりです~」
「ハンス君、元気そうね。試験の方は上手く行きそう?」
「あはは~、そんなのー……俺に聞かないでくださいよ~」
「……ダメだったわけね」
そんな会話をしているとレオ先輩からの声が飛ぶ。
「お前たち、さっさと席につけ。」
「「「「は、はいっ!」」」」
クローゼさんに空いている席を案内して、全員が座った。
「……全員揃ったようだな。それでは今日の議題だが、まずは…………」
「みんなの将来の夢を聞こうと思ってな!そこの4名!一人ずつ将来の夢を語れ!」
レオ先輩の言葉を遮るようにレクター先輩が声を発する。全員が無言になったのち、ルーシー先輩のこぶしが飛んだ。
「レオ君、続きを……」
「……まずは今年度の生徒会活動を一通り説明しておく。それから具体的な活動内容と年次予算の割り振りを詰めていく予定だが……」
「まずはジル、お前からだ!お前が今感じている、乙女のハートフルな想いを簡潔に表現してみせろ!」
しかしそれでは止まらないレクター先輩。せめてミーティングの邪魔はしないでほしいのだが。
「……打倒生徒会長です!!」
「グハッ…………!?」
「見ての通り、コレは戦力外だ。何も期待しないように。」
「それでは今年の活動内容だが例年通りならば来月から……」

「ああ、疲れた……」
「レクターさんを探すのも疲れるが、出席してるのも疲れるんだよな……。唯一の救いは、ルーシー先輩に会えたことだぜ。試験期間中は会えなかったからなぁ……」
「…………おいおい、今朝も必勝祈願とか言って会ってなかった?」
「ふふ、私もお見かけしましたよ?」
「私もです。まぁルーシー先輩と同室なので……」
クラブハウスから出て、そんな会話を楽しむ。クローゼさんも、手伝いをしてもらっているとはいえ、実質の生徒会役員の気がする。
「それじゃあ、私は図書室に行かないといけないので」
「あ、うん。またあとでね」
本日の仕事は、今年度の予算案の作成だ。まずはクラブの予算をまとめないといけない。図書室には過去の支出額をまとめたものがある。生徒会室にも一部はあるが、詳細がまとめてあるものは図書室の一角にある。私はそれを取りに、3人と別れるのだった。



「迎えですか?」
「ええ。ハンス君からね。どうやらジルさんが向こうにいるみたい」
「え、門限過ぎてますよね。」
夜間、すでに門限も過ぎている時間だ。確かジルさんはクローゼさんと同室だった気がするが。なにかあったのだろうか。最近仲が良い気がしていたけれど。
「さすがに朝まで男子寮に女子がいるのは問題でしょう?」
「確かに……」
「その間に私はもう1つ寝る場所を用意するから」
「……わかりました。行ってきますね」
そろそろ夏に近づく時期ではあるが、夜になればさすがに冷えた。まっすぐ、寄り道をせずに男子寮へと突き進む。そうっと扉を開けば、1階のロビーにハンスさんとレオ先輩がいた。
「や、やっと来てくれた……」
「ええっと、ジルさんは……」
「俺たちの部屋……2階の一番端。このままじゃ外寝になる……」
がっくりとうなだれるハンス君と、とくに言わないレオ先輩。正直、何も言わないほうが怖いのだけれども。
とりあえず、ハンス君が話していた部屋へとノックをしてはいる。真ん中のベッドにうつぶせになっている女学生が1人。
「ジルさん。」
「…………」
「ジルさーん。帰りませんかー?」
「…………かえらない。あわせる顔なんてないし」
これは、クローゼさんと何かあったのだろう。学園生活もすでに3か月を超えている。だからといって、お互いをよく知っているわけではないが、それでも、この学園にいる生徒の中では、一番親しくさせてもらっているのがジルさんたちだ。
「今日は、とりあえず私たちの部屋に来ませんか?さすがに男子寮にいるのは……」
「…………」
「ルーシー先輩が、用意してくださっているので」
「……わかった」
声色は固いが、一応応じてくれたようだ。のそりと起き上がるジルさんを連れて、部屋を出る。出てすぐにハンス君と目があって、拝まれてしまった。
「おやすみなさい、ハンス君。レオ先輩」
「ああ。おやすみ」
「おやすみ。ジルのこと頼むな」
「あ、はい」
男子寮を出て、女子寮までの道を歩く。その間、ジルさんはうつむいたままだ。
「……、クローゼさんと何かありました?」
「……」
「経過をしらない私が言うのもなんですけど、ちゃんと話し合ったほうがいいと思います。」
は関係ないでしょ」
「関係あります。ジルさんもクローゼさんも、私の友達です。……そう思っているのは、私だけですか?」
「そんなことない!ない、けど」
「私も、そんなに友好関係が広いわけではないですけど。お互い、なにも言わないと、なにも伝わりません。相手のことも、自分のことも、話さなきゃ、伝わりません」
「……」
その後、部屋に戻ったあとにとりあえずジルさんをベッドに押し込んだ。完全な寝不足よりは、ある程度寝たほうがすっきりするだろうし、回らない頭で考えてもなにも出てこないのはわかりきっている。まぁ全部、経験談なんだけれど。
伝えなきゃ、なにもわからない。伝えてくれなきゃ、相手の気持ちなんてわからない。抱え込んだら、抱え込むだけ相手が苦しくなる。そのはけ口になれればと、ぶつかった回数は数知れず。全部抱えて、なんでも自分で解決しようとして、それでどれだけ私たちが心配したか。今も心配の対象だけれど。そこは両親にお願いするしかない。

翌朝。どうやらクローゼさんが最近外出している要因となっていることについて軽率なことを言ったらしく、それで怒らせてしまったらしい。クローゼさんが怒った、というのに正直驚いたのだが、でもある意味、よかったのではないかとも思う。
相手はぶつかってきてくれたのだ。自分の感情を伝えてくれた。本当に嫌って、関わりたくもないなら、感情さえぶつけない。
「んー……なら、その孤児院に行ってみたらどうでしょう?」
「それは……」
「知らないなら、実際に見てみたらいいと思います。百聞は一見に如かず、とも言いますから」
「……えっと、なんて?」
「あ、ええっと。百回聞くよりも、たった一度でも自分の目で見たほうが確かだ、という意味です。東方のことわざなんですけど。実際に見たほうが早いってことです」
そうと決まれば外出届をもらいましょう!といえば、まだ決まってないから!と返答が返ってきた。

「じゃあ私、外にいますので」
「やっぱり、一緒には来てくれない、よね」
「部外者が入るわけにはいきませんから。大丈夫です。待ってますから」
孤児院へとジルさんを同行させ、そのまま押し込む。ちょっと最近強引になってきたわね、といったのはすでに孤児院の中へと入ったジルさんの言葉だ。学園生活で成長した、ということでお願いしたい。こうも強引になってきたのは、連行する必要のある生徒会長が悪い。たぶん、きっと。
しかし、孤児院か。あまり縁のないところだ。人気も少ない。あまり子供はいないのだろう。いない方がいい。孤児院に子供が多いということは、それほど親が失われているのだ。戦争のあとなどに、女子供だけが残ってしまう、という場合もよくある。母親がいればいい、けれどもどちらもいなくなった子供が行く先は、こうした孤児院か、または。
世界は明るい話だけじゃない。暗い話も多い。まだ対面はしたことないが、噂くらいはきく。リベールでは法律で禁止されていることもあり、猟兵団はないとこのことだが、他はそうではない。帝国では普通に聞く。あまりいい話ではないけれど。ここにいる子供たちは、百日戦役に関連するのか、それとも。
そこまで考えて、ふと空に何かがいるのに気が付いた。上を見上げると、そこには白い鳥。種類でいうと、ハヤブサだろうか。鷹狩は知っているので多少野鳥の知識もあるが、ハヤブサはそういえば扱ったことはなかったか。眺めているとハヤブサは鳴いて近くの柵に止まった。近づいて嘴の下の部分をなでれば、気持ちよさそうに再度鳴いた。よくしつけもされているし、人に慣れている。そういえば、クローゼさんがシロハヤブサを連れていることもあったか。おそらくは彼女が連れている子だろう。しかし、ただのペット、というよりは本当に鷹狩にでも使うような感じがする。リベールでも鷹狩の文化があるのだろうか。今度調べてみるのもいいのかもしれない。シロハヤブサ、確かリベールの国鳥だった気がするが、どうだろう。
「ええと、確か……ジーク、でしたか」
クローゼさんたちが呼んでいた名前を記憶の中から掘り返してみれば、その通りだとジークは鳴いた。こちらの言葉もある程度わかる。本当によくしつけられている。
「小さいころは、怖くて近づけないこともありましたっけ」
鷹狩用の防具は持ち合わせていないが、腕を差し出せばちょいちょいと軽い足取りで柵から腕に飛び乗った。つかむ強さも人に合わせてある。本当に、ただのシロハヤブサではなさそうだ。鷹狩が趣味の貴族が、または。
「……軍用?」
疑問に思いながらも首を傾げたら、ジークも一緒に首を傾げた。



「あ、 !」
「お帰りさない。無事にお話は終わりましたか?」
ジルさんの声が聞こえたほうへと向くと、そこにはジルさんとクローゼさんの姿があった。2人とも、仲直りをしたようだった。
さん。すみません、心配おかけしました」
「いえ。私は何も。あとでハンスさんや先輩方にはご挨拶したほうが良いとは思いますが」
「あー、ハンスはいいわよ。わかってるだろうし」
軽く腕を振れば、ジークもわかっているのだろう、すっと空へと飛びだった。その様子を見てクローゼさんが少し驚いた表情をしたのが見える。
「まずは学園に戻りましょうか。それとも、少し町の方にでも行きますか?」
「ええっと、正直昼寝したい気分なのよね……」
「孤児院の中でも少し眠そうにしてましたね」
「さすがに夜遅かったですからね。それじゃあ戻りましょうか」
それから3人で帰路につく。雲一つない空でちょうど暖かく、外に出るのには絶好の天気だった。海道には魔除けのオーブメントもあり、魔物が襲ってくることもない。平和、そして長閑といってもいい。
「というか、 も呼び捨てでいいって言ってるのに、いつまでたってもさん付けなんだから」
「そういえば、確かに……」
「せっかくクローゼにも呼び捨てにしてもらえたし、 も呼び捨てでいいわよ?」
「えっ、ええっと、それは……」
「なにか問題でも?」
「問題というか、その……年上を呼び捨てにするのはちょっと……」
「え?」
「ん?」
「そういえば、話していませんでしたっけ? 1187年生まれなんです。飛び級制度を利用しているので、ジルさんたちの1つ下になります」
「……ええ!?」

2021/1/18
主人公(&α)はクローゼやエステルの1つ下設定

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