閃の軌跡編

10


・シュバルツァー。少しいいだろうか」
「はい?」
あれから数日。エリゼも翌日には問題なく帝都へと帰って行った。そんな中、職員室を出てすぐに声をかけられる。振り返れば、そこにはパトリック・ハイアームズの姿があった。首をかしげていると彼は大体30度程度腰を曲げた。
「すまなかった」
「え」
「入学してから今までの言動、思うところがあってな……。」
顔を上げた彼は、入学時くらいの高圧的な態度は多少身を潜め、まぁ普通の貴族、といった感じだ。Ⅶ組に負けたこと、そして先日の出来を受けて少し考えが変わったということだろうか。まあ、私も彼に対して少々棘があったのは感じていた。でもこう謝られるとは思ってもいなかった。
「……私も、少々言い過ぎた部分があります。こちらこそ、謝罪させてください」
そういってから
「でも職員室の前だと少し目立ちません?」
「う、うるさいな!分かっているさ!」

ちょっとした好奇の眼で見られながらも、とりあえずはとその場を去る。そうして校舎の外で一息つくこととした。
「いやまあ、場所を選ばなかったのは、すまないと思っている……」
「私は別に構いませんけど。」
「ぼ、僕がかまうんだが」
「それはパトリックから声をかけてきたのでそちらのせいってことで」
「うぐっ」
自販機からお茶を2つ買って、1つを彼に渡す。金銭を出そうとする彼に、今日はおごりだと返答する。
「エリゼを一緒に探してもらったお礼」
「……分かった。受け取ろう」
あまり貴族としてはこういったスタイルで飲むよりはちゃんと腰を落ち着けて飲むのが普通だろうが、今食堂とかに行ったらまた同じ目に遭いそうなので今回くらいは我慢してもらおう。
「……ところで、リィン・シュバルツァーらは今日から帝都だそうだな」
「ええ。夏至祭中は帝都で実習みたいね。祭を楽しむ時間があればいいんだけど。パトリックは行くの?」
「ああ。明後日の園遊会に誘われている。そういう君はどうなんだ」
「……」
「?」
「……招待されているわ……当主の名代として参加するつもり……」
「な、なんでそんなにいやそうなんだ……?」

「なるほど、社交界初で当主名代か……責任重大だな」
「まったくよ。一応、明日帝都に行く予定。戻りがいつになるかわからないから、念のため授業免除の申請をしてきたの」
「ああ、だから職員室から出てきたのか」
今回の夏至祭の社交場がデビューになることなどなどを話せば、心から同情された。名代として参加することは、パトリックはほとんどないだろう。ハイアームズ家の人間として、ならきっとあるのだろうけれど。また、デビューは親も別途参加しているケースもあるため、それすらもないということに対しても言われているのだろう。まぁそこは期待していないし、逆に参加してたらよけいに緊張しそうなのだけれど。
「……ま、パトリックがいるなら、ダンスのお相手は困らないかしら」
「……いや、最初に踊る相手はよく考えた方がいいぞ。婚約者とかはいないのか」
「いないわ。全く知らない人が相手で色々言われるよりは、学友ってのがわかったほうが波風立ちにくいかなと思って」
「まぁ、君がいいならいいが……。そうだ、君が園遊会に出て、リィン・シュバルツァーは実習。エリゼさんは参加されるのか?」
「エリゼ?」
「ああ。その、リィン・シュバルツァーに聞いたら、その……」
もごもごと歯切れが悪いがよくよく聞くと今日の朝にそのことをリィンに聞いたらバッサリ切り伏せられたそうだ。うーん、自覚のないシスコンはちょっと問題かもしれない。
「あー……まだオフレコよ。園遊会にアルフィン殿下の付き人として参加されるようね」
「そ、そうなのか!」
「ええ……」
私の言葉でふっと明るくなった声に、少し違和感を覚える。そうしてから、リィンの行動はある意味正解だったかな、なんて考えてしまった。
___パトリック、エリゼに恋しているのでは……?
正直それは大丈夫なのだろうか心配になるのだけれど。まぁ、私は別にいいのだけれど、リィンを頑張って乗り越えてほしい。エリゼの気持ちはどうかはわからないけれど。



・シュバルツァー殿
元気にしているだろうか。
今回、君の父上に対して招待状を送らせてもらった。無論、参加していただいてかまわないのだが、僕としては是非君にも会いたいと思っている。話すこともたくさんあるだろうからね。
園遊会には僕は参加しないため、別の場所で再会を祝したいと思っている。帝都への到着日時に合わせてミュラーを送ろうと思うので、日程がわかったらぜひ教えてほしい。

遅くなったがジェニス王立学園の卒業、そしてトールズ士官学院への入学おめでとう。

オリビエ・レンハイム



2021/2/13

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