閃の軌跡編

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「久しぶりだね!君」
「お久しぶりです。オリビエさん。」
夏至祭前日。帝都のホテル一室にて、私は影の国以来の再会をした。まずはミュラーさん。日時を伝えたところ、駅まで迎えに来てくださった。あのバカのわがままに付き合わせてすまないと謝られもしてしまって、首を横に振るしかなかった。
そしてオリビエさん。オリヴァルト・ライゼ・アルノール。皇族の1人だ。といっても、初対面の時は知らなかったのでだいぶ粗相をしてしまって。殿下は気にしていらっしゃらないようだけれど。
「手紙でも伝えたが改めて、ジェニス王立学園の卒業、そしてトールズ士官学院への入学おめでとう。いやあ、まさかトールズに入ってくれるとは。良き縁を感じるね」
「トールズの理事長、でしたか。驚きました。」
「まあ名ばかりだが。さあ座ってくれ」

「さて、時間も惜しいから先に本題から入らせてくれ。まずはこれを」
「これは」
お互いにソファに腰を落としてから、オリビエさんは1つの機械を目の前に置いた。ぱっと見た感じだと、オーブメントだろうか。折り畳み式になっているのは確認できる。
「ARCUS__エプスタイン財団とラインフォルト社が共同開発した次世代の戦術オーブメントさ。まだ試供段階ではあるが、すでにⅦ組には試験的に配布させてもらっている」
「なるほど。一般販売されている新型よりも上の。」
ポケット内に忍ばせてある新型戦術オーブメントを取り出す。懐中時計のようなタイプであり、あくまで身体能力向上と、アーツ使用にしか用途はない。
「ああ。中央にマスタークォーツをセットすると所持者とARCUSが共鳴し同期する。それでようやく使えるようになるのさ。通信機能も搭載。ちなみにⅦ組設立にはこれの試験運用の目的も兼ねている。__戦術リンク。互いの感覚を共有し高度な連携を可能にする機能……君であれば、使いこなせるだろう」
「ありがとうございます。ですが、良いのですか?」
「なに、ここはちょっとしたコネでね。気にしないでくれたまえ」
一緒にマスタークォーツ、と呼ばれていた物も受け取ってしまう。設定はあとでやっておけばいいか。ARCUSの外側はカバーがかけられるようで、獅子のマークに白い背景のカバーがかけられていた。
「ちなみに、Ⅶ組は赤。君には特注で白にしておいたよ!」
「……ありがとうございます?」

「ところで、君は帝国に戻ってきてどう感じているかな」
「帝国について、ですか」
「ああ。現在の貴族派、革新派について」
「……そうですね。学院内はいまだ貴族勢力の方が強いのが現状です。ですがリベールの異変での軍の動きからすると、革新派の勢力は徐々に増してきているのではないでしょうか。鉄道憲兵隊、情報局。ここに来る前にも、鉄道憲兵隊の方の姿を見かけました。オリビエさんが気になさっているということは、やはり現在の貴族派と革新派の均衡は崩れてきているのでしょうか。ギリアス・オズボーン宰相によって」
帝国にいて、聞かないことはない名前。別名鉄血宰相。平民初の宰相であり、その改革は画期的と言われ、数多の合併や統合も成功させてきた人物。表向きは、帝国をよりよくするための政略。でもきっと、その背景にはおそらく反発もあるだろう。
「……その通りだ。おそらくだが、宰相は結社とつながっている」
「それは……」
「彼の行いのすべてが間違っているとは言わない。だが彼はこの帝国に戦禍を招こうとしている。___僕には、そう思えてしかたがないのさ」
___それから。他愛のない会話も挟みながら、私たちは会話に花を咲かせ、あっという間に時間は過ぎていった。
「おっと。そろそろか」
「あ、もうこんな時間ですか。オリビエさんは大丈夫なんですか?」
「残念ながらこれからちょっと会う人たちがいてね。せっかくだ、君も一緒にどうだい?」
「え?」
「トールズ士官学院Ⅶ組。ちょっとした伝手で今から会ってこようと思ってね」



「驚く顔が楽しみだね!」
「……ほ、ほどほどになさってくださいね」
聖アストライア女学院。初めてではないのである程度はわかるも、まさかオリビエさんと一緒に訪れることになるとは。屋内庭園にて、Ⅶ組とアルフィン殿下、そしてエリゼがいるのが確認できる。
「さて、行くとしよう」
さっと手には先ほどまで持っていなかったリュートを持ち、オリビエさんはにこやかに屋内庭園へと入って行ってしまった。後をついていくか悩むも、別で待機していたミュラーさんに止められた。
「どうせ別の場所での会食になる。そちらで待機でも問題ないだろう」
「……ありがとうございます。さすがにあの現場に入るには勇気がいりますね」
ミュラーさんに連れられ、アストライアの聖餐室へ通される。すでに日も暮れ初め、生徒の姿は見えなくなっていた。
「料理も提供できるが、どうする」
「此度はⅦ組との話の場。私は付き人的な役割でもします。オリビエさんがなんというかは別ですけど」
「正直、それは助かる。こちらは外での護衛になるからな。羽目を外しそうになったら遠慮なく止めてくれてかまわない。」
「ええっと、まぁ怒られない程度に……」
Ⅶ組9人と、オリビエさん、アルフィン殿下、エリゼで12名。テーブルの幅的にもこのくらいでちょうどいいだろう。オリビエさんと接点があるとはいえ、私はⅦ組でもないし、無理して関わる必要もない。
聖餐室の入り口にて待っていると、足音とともにオリビエさんが先導する面々が現れる。
君!後ろからついてきてくれていると思っていたのに、ああ、僕は悲しい」
「……準備はすでにできているようですので、どうぞおはいりください。」
そういってアルフィン殿下やⅦ組へと向き直って挨拶を交わす。ほぼ全員の驚いた表情を眺めながら、特に取り乱すこともなく、彼らを部屋へと招き入れることとした。
Ⅶ組とオリビエさんらの会話を聞きながら扉の前にて待機をする。そわそわとこちらをエリゼやリィンが見てくる様子も感じるが、まぁちょっとした関係の違いということで気にしないでほしい。
「ところで、その、とはどういう……?」
会話の一幕でふと私の名前が挙がった。私の名前が挙がるとは思っていなかったので、思わず首を傾げた。
「さすがに、気になるかな。」
「ええ、まあ」
「これにはね、山より高く、谷より深いわけがあって___」
「そんな理由があるわけではないでしょう、オリヴァルト殿下。」
ぱっと明るくなった顔をしたオリビエさんをみて、黙っておくと何を言われるかわからないと感じ、思わず口をはさむ。
「おや、あの運命的な出会いを、せっかくだから話しておいてもいいのではないかね?」
「運命的でしょうか?___先ほど話にも挙がっていたリベールの異変。その一端に関わらせていただいた関係で知り合ったというだけです」
「輝く環への突入作戦にも同行したというのに、一端ではないだろう」
「え」
「そ、それは……」
オリビエさんの言葉でⅦ組らが驚いた表情を見せた。といっても、結社と刀を交えたわけでもないし、全貌に関わっているわけでもない。
「あくまであの作戦は遊撃士がメインとなったもの。私はその端末の、協力者に過ぎません。」

君は妹の言葉で特に動揺していなかったね」
「……?ああ、ダンスのお相手のことですか?」
「それと、意中の相手」
「……まあ、リィンも年頃ですし、そういったこともあるのではないでしょうか。」

2021/2/14

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