閃の軌跡編

14


アイゼングラーフと呼ばれる特別列車にのり、クロスベル入りをすることとなる。最初は遠慮したのだが、つもりはなしもある、という理由付けでオリヴァルト殿下と同じ車両に乗車することとなった。
ちなみに、集合場所でトワ会長に見つかり、ひどく驚かれた。まぁ、クロスベルに行くと話していなかったので、問い詰めには甘んじて受けることにした。
クロスベル駅にて、オリヴァルト殿下とミュラーさん、そしてトワ会長とともに列車を下りる。クロスベルの案内の元、車へと乗り換えた先には、ヘンリー・マクダエル議長と、ディーター・クロイス市長が待っており、オルキスタワーの正式的なお披露目も、実施されることとなった。
そうして、西ゼムリア通商会議は始まりを告げた。といっても本日は昼食会と懇談会で、議案するのは明日になる。だからといって、今日も夜まで色々あるので忙しくなるだろう。なのだか。
「ひゅ〜。さすがは放蕩皇子ってか?」
昼間、それぞれの首脳もクロスベルのいたるところに顔を出している最中。案の定というかなんというか、オリビエさんが姿を消した。理由があるのかないのか、ミュラーさんの監視も潜り抜けて、だ。レクター大尉とともに行動していた私にもその連絡が入る。
「……向かっても、問題ないですかね」
「んー、まあお前さんが行かなくても見つかるだろうが……せっかくだし行ってきたらどうだ?あいつらにも会えるだろうし」
「(あいつら?)わかりました。要件があれば連絡をください。」
すんなりと許可が下りたため、そのままオルキスタワーのエレベータへと乗り込み、クロスベルの市内へと入り込む。ミュラーさん曰く、とある場所に依頼を回した、とのことだが、遊撃士だろうか?
クロスベル市内は正直まだ地理把握もできていないので、地図を見ながら候補を確認する。第一候補は歓楽街だが、そんなわかりきったところで遊んでいるとも考えにくい。港湾区から歓楽街、裏通りを通って中央広場まで、とりあえず行ってみることとする。
それにしても、結構賑やかだ。まぁ通商会議がある以外に、タワーのお披露目もあり、無論、軍関係者などは多少の緊張ムードではあるが、住民に関してはそうじゃないだろう。非日常的な動きにそわそわしているようにも見える。けれど、そんな2通りくらいしかないはずの気配の他に、なにか様子の違うものも混ざりこんでいるようだ。帝国解放戦線しかり、猟兵団も混じっているか。
レクター大尉曰く、帝国側のテロリストの他に、共和国側でも反移民政策主義という団体が反発をしており、国内で問題になっているらしい。それに合わせて黒月、赤き星座と呼ばれる者たちもクロスベル入りしているという。細かく言えば、それ以外にももともとクロスベルの裏に潜んでいたものたちもいるので、警戒対象は極めて多い、とのことだ。それもあり、クロスベル警察、警備隊、遊撃士が巡回に当たっているとのことだが、クロスベルの歴史にも関連して軍組織がないこともあり、どこまで耐えられるか、といったところらしい。そこらへんは帝国と共和国も関係しているので、深くは突っ込まないことにする。まあ、なんでもする宰相のことだ、なにかあればそこらへんを突っついていきそうだが。
ただ、今回の警戒対象のメインはあくまでテロリスト。猟兵団らに関してはテロリスト以上に気にかける必要はない、とのことだった。
「……さて、どうしようかな」
港湾区ではみっしぃというキャラクターが子供たちの前で踊っている。どうやらクロスベルでは人気のキャラクターらしい。帝国では耳にすることのない名前だ。それを横目にとりあえずは歓楽街へと向かう。ここでは今夜、アルカンシェルという劇団の演劇を鑑賞することになっているようだ。まああくまで護衛なのでがっつり見ることはできないだろうけれど。まぁ、オリビエさんが好きそうなもの、だろうか。後はカジノ。これはどっちかというとレクター先輩の方がいそうだ。……あの2人が組んだら、大変なことになりそうだなぁ。
人は多いが、オリビエさんの気配は感じられず、そのまま裏通りへ。バーなど、正直未成年者では無縁の店が立ち並んでいる。正直、入るのは控えたほうが問題にならないだろう。トールズの制服じゃなければ、ちょっとは問題なかったかもしれないけれど。
「こんなところで学生さんがどうかしたの?」
ただ探さないわけにはいかないので店の外を見ていると、前方からの集団に声をかけられた。全員ではないが、服にクロスベル警察のマークが書かれている。学生がこんなところにいる、ということで声をかけてきたのだろう。ただ……
「……人探しをしていまして。この近くにいるんじゃないかとおもって探しているんです」
「未成年でこんなところに来る奴か?」
「いいえ。探している人はすでに成人されていますから。その、大変申し訳ないのですが、ここらへんで、金髪の、20代くらいの男の人を見かけませんでしたでしょうか。場合によってはリュートを持っていると思うのですが」
「「「「「……」」」」」
土地勘のある人に聞いてみよう、という感覚だったのだが、向こう側はなにかしらの心当たりがあったのか、黙り込んでしまった。もしかして、なにかしら問題というか、色々起こしたばかりだろうか。
「あの……」
「いや、すまない。もしかして、オリビエ・レンハイムという人かな?」
「ええ、そうです。ご存じなのですか?」
茶髪の方がすんなりとオリビエさんの名前をだした。向こうも知っているらしい。
「ああ。ミュラーさんという人に頼まれてこちらも探していてね。」
「あの速さ、手慣れてやがるぜ本当に」
「あはは……すみません。ご迷惑をおかけしています」
けれど、警察の方なのに、オリヴァルト殿下ではなくオリビエさんを探しているのか。殿下であることを知っているのかはわからないけれど、でもこういった探し物はどっちかといと遊撃士に頼んだ方がスムーズな気もするが。警察、という部署は色々ある、というだけだろうか。
「裏通りですと、バーとか、あとは楽器が置かれている場所を好むかと思うのですが、心当たりありますか?」
「……ああ。一緒に行こうか」
「お願いします」



「フッ……ご清聴、感謝する」
裏通りにあるバーへと入ると、ちょうどピアノ演奏が終わったところだった。客がはやし立て、店主が“音楽家としての”オリビエさんに出演依頼なんて出している。それを聞いて、警察の人たちが待ったをかけた。
「あ、あれれ。もう見つかってしまったか……」
警察の方々がオリビエさんと対面している間に、店の入り口でARCUSを取り出す。そのまま通信先はミュラーさんだ。見つかったことを簡単に伝え、こちらに来てもらうように依頼してから通信を切り、今度こそ店の内部へと入っていく。
「やれやれ……ここいらが潮時か」
「ずいぶん自由に過ごされていたようですね。ミュラーさんを困らせるのも、ほどほどになさっては……?」
「おや、君まで来てくれたのか。せっかくだ、ここで愛の逃避行でも……」
「お断りします。ミュラーさんにはすでに連絡をいれましたので。諦めてください」

「(えぇ……ミュラーさん、その恰好逆に目立つのでは……)」
バーの外にて、駅で待っていたらしいミュラーさんが裏通りに現れて、声には出さないも、ちょっとその服装に驚いた。まあ、殿下がこんなところにいるとバレるわけにもあまりいかないだろうけど。
「……諸君、ご苦労だった。おかげで大した騒ぎになる前にこれを回収することができたようだ。」
「はは……。こちらもお役に立ててよかったですよ。」
「フッ……言うに事欠いて“これ”とはね。まるでモノを扱うような言い草じゃないか。……いや、そういう扱いも趣があって悪くないかもしれない。これからもときどき、そういう扱いで頼むよ、ミュラー」
「黙ってろ」
うーん。相変わらずのオリビエさんである。帝国ではあまりこういった様子は見られないので、なんというかちょっと懐かしいというか……これが帝国の皇子か、とも思ってしまうのだが。
「……スミマセンデシタ」
「……すまない。この阿呆とは昔からの付き合いでな。毎度、調子の乗り方がエスカレートしてきているから、時々は厳しく躾けねばならんのだ」
「はは、なかなか苦労してるみたいッスね」
「なに、フォローしてくれる友人がいていつも助かっているさ。フッ、これもボクの人徳の賜物だろうね」
「ア、 アンタに言ったんじゃないんだけどな」
「フフ、反省なんてしてたまるかって感じだね。」
「……そのようだな。あとでみっちり説教してやるから覚悟しておけ」
「や、やだなあ。ほんの冗談だよミュラー。……キミたちも煽らないでくれるかな?」
「あ、あはは……」
きっとオリビエさん的には本心も入っていて、ミュラーさんもそれを分かっているだろうけれど。たぶん知らない人から見たらちょっと引かれるのではないだろうか。案の定、警察の方々は困っている様子も見られる。
「……では、そろそろ失礼する。忙しい中、世話になった。改めて礼を言わせていただこう。」
「いえ、それが俺たちの仕事ですから。なんというか、その……目を離さないように気を付けてください。」
「……心得た」
「ふぅ、やれやれ……楽しい時間もこれでおしまいか。今度こそ、さらばだ諸君。縁があればまた会うこともあるだろう。」
「は、はあ……」
「まあ、ボクとしては噂のテーマパークなんかも見物したかったんだがね。おお、そうだキミたち。今から案内を依頼できないかな? フフ、我ながら名案だ。楽しい気分で過ごせば、きっとミュラーの眉間のシワも……」
ぱあっと表情が明るくなったオリビエさんの背後へと周り、ミュラーさんの手が伸びた。
「あっ、ミュラー君!?ほ、ほんの冗談ダヨ? あ〜れ〜……」
「な、なんだかすごい人たちだったな。実際のところ、どういう人たちなんだろう……」
「……あの人が言うのですから、また機会があるのでしょう。此度は本当にありがとうございます」
ミュラーさんがオリビエさんの襟元をつかんで引きづっていく。行先は特に心配していないので、あとで合流すればいいだけの話だ。
「いや。君もミュラーさんへ連絡をしてくれてありがとう。そういえば、名前を名乗ってなかったかな。ロイド・バニングス。クロスベル警察、特務支援課の者だ。」
「エリィ・マクダエルよ」
「ランディ・オルランドだ」
「ノエル・シーカーです」
「ワジ・ヘミスフィアさ。ところで、ここら辺では見ない制服だね」
「ご丁寧にありがとうございます。・シュバルツァーと申します。制服は、その……まあクロスベル周囲のものではありませんから」
さすがにクロスベルにまでトールズの名前は広まっていないか。普通、知らない人は知らないから、あまり前なのだけれど。
しかし、特務支援課か。そういう部署がある、というだけだろうか。ミュラーさんが依頼した先、ということは多少なにかあるのだろうか。それに、警察としてある程度実技もしているのだろうけれど、ある程度の手配魔獣であれば問題なく倒せそうな雰囲気もある。ただの警察、というわけではないだろう。全員が全員、警察という雰囲気もなさそうだし。
「警察、ということは、通商会議では警護をなさるのですか?」
「え、ああ。管轄は違うけれど……」
「そうですか。でしたら、どこかでまたお会いできるかと思います。その時は、改めてよろしくお願いします」

「彼女は……」
「どうしたの?ロイド。」
「いや……。腰につけてた太刀、アリオスさんと同じかと思ってね」
「ああ。八葉一刀流だったか。」
「た、たしかに、似たような武器を持っていらっしゃいましたね」
「(それに、なぜ通商会議のことを……?)」

「さて、君もこのまま同席してもらってもいいかな?」
「ええっと、どちらかに行かれるのですか?」
中央広場の方へと向かえば、オリビエさんとミュラーさんが待っていてくださった。合流を果たすと、来てほしい場所があるといわれる。特にレクター大尉から連絡は入っていないので、問題はないだろうと判断し、了承した。



オリヴァルト殿下としての所用に同行し、同席を済ませ、夕方時。
オリビエさんらと一緒に向かった先は、クロスベル空港、アルセイユだった。以前、輝く環への突入作戦でも乗ったアルセイユは、あのときと変わりなく、白く輝いていた。今回、リベール王国から、クローディア王太女を乗せてやってきた。なのでもちろん、そこでだれかが待っている、となれば大体候補は絞られていく。
『その、少しおくれていらっしゃるみたいで』
扉の向こうでの声で、なつかしさを感じる。卒業以来だ。もうすでに半年は経過しているが、元気にしているようでなによりだ。
「フッ……心配には及ばないよ」
リュートを鳴らし、そのまま部屋の中に入っていくオリビエさんの後ろを、ミュラーさんとともについていく。中には先ほどであった特務支援課の人たちもいた。
「ええっ!?」
「も、もしかしてさっきの支援要請の!?」
「あら、すでにご面識が?」
「ええ、その……」
「フフ、とんだサプライズだね」
オリヴァルト殿下であることには気がついていなかったらしい。まぁ私も、初めてオリビエさんと出会ったときは気がつかなかった。というかあんな感じで一国の皇子がいるなんてだれが思うか。
「__諸君、先ほどは失礼した。クローディア殿下も……遅れて申し訳ありませんでした。いつものように、この戯けが色々と首を突っ込んでいまして。」
「ふふ、まあ……」
ミュラーさんの詫びの言葉に、クローゼさんが笑った。まあいつものことだからだろう。時間が遅れたことに関してもとくに気にしている様子はない。
「__フッ、改めて自己紹介をさせてもらおう。エレボニア帝国、皇帝ユーゲントが名代、オリヴァルト・ライゼ・アルノールさ。もちろん、真の姿は不世出の天才にて漂泊の演奏家、オリビエ・レンハイムではあるがね!ハッハッハッ、よろしくお願いしてくれたまえっ」
「……」
「いや……あり得なくねぇか?」
「これが現実だ。極めて遺憾なことにな。___帝国軍、第7機甲師団所属、ミュラー・ヴァンダール少佐だ。クローディア殿下のお招きであるじ共々、参上させてもらった。よろしく頼む__特務支援課の諸君」
「戸惑うのは仕方のないことかと。エレボニア帝国軍臨時武官、・シュバルツァーです。どうぞ、よろしくお願いします」

2021/2/17

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