閃の軌跡編

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5月に入り、ようやく学院での動きにも慣れ始めたころ。Ⅰ〜Ⅴ組は例年通りのカリキュラムでの授業体制をしている中、Ⅶ組は特別実習などの新しいカリキュラムが組まれ、他クラスとは違う動きをしているようだ。赤の制服はやはり異色なのもあり目立ってはいるが、それぞれがそれぞれの部活にも打ち込んでいるようだ。
「単位表ですか」
「うん。Ⅶ組用がやっとできてね。届けてもらってもいいかなぁ?」
放課後、生徒会室へと入った私はトワ会長に数枚のプリントを渡される。1枚見てみると先月配られたものと一部内容は違っているが、学院の単位表であった。取得単位の一覧が書かれている。ほとんど自分が持っているものと同じようだが、特別実習の関係か時間配分等は違っているようだ。
「昨日のうちにできていたら、リィン君にお願いしていたんだけど……」
「ああ、生徒会の仕事を手伝っているようですね」
自由行動日、各部活が盛んにおこなわれている中、リィンは生徒会から回された手伝いをしているようだった。内容は、どっちかというと雑務に近いものだが、生徒会の、特に会長の仕事は膨大なのでちょっとだけでも片してくれるのは助かる。こちらにもいくつか仕事は回ってはくるが、それでも手伝いきれないのが実情だったりするので。
「うん!とっても助かってるよ。そういえばちゃんとはきょうだいなんだよね。」
「そうなります。ふふ、遠慮なく、リィンにも私にも仕事振ってくださいね」
「あはは、気持ちだけでも十分だよ」
「それでは、行ってきますね」
「うん、お願い」
単位表を持って生徒会室を出る。本来であれば教員から渡されるものなのだが、まぁきっと、いろいろな裏事情があるのだろう。特にⅦ組担当のバレスタイン教官は通さなくていいらしいので、まずはⅦ組の印である赤い制服を探すこととする。すでに授業時間はだいぶ過ぎていて、大体は寮へと戻っている時間帯だ。誰かしら残っていればいいが、いなければ最悪第3学生寮に向かう必要もあるか。
Ⅶ組の教室を開けてみればやはりといっていいか誰もいなかったので、そこから生徒がいそうな教室などを回る。サロンにもある程度生徒はいそうだが、Ⅶ組の生徒は出入りしている様子はない。
Ⅶ組の貴族といえば、アルバレアとアルゼイドだったか。片方は四大名門、もう片方も子爵家。どちらもサロンに来ている様子はない。他は平民だが、ファミリーネームを聞いた感じでは有名人の子供だったりもいるようだ。ちなみに名前は本人から聞いたわけではなく、生徒名簿を見た。リィン以外のⅦ組とは対面していない。
学院ないでは嫌というほど貴族と平民が分けられているわけだが、それすらなくしたⅦ組は、正直心理的負担が少なくてうらやましい。家格ではなく、個人として見てもらえる環境が、今ではなによりも懐かしく感じた。

図書室に入って、ようやく赤い制服の生徒を見つけることができた。眼鏡をかけた、三つ編みの学生だ。足元には黒猫がいるが、ペットかなにかだろうか。
「すみません、Ⅶ組の方ですよね」
「は、はい。そうですが……」
彼女がこちらを向いたと同時に、黒猫も顔を上げた。人の声が聞こえて顔を上げたのだろう。
「生徒会の者です。Ⅶ組の単位表の用意ができたので届けに来たのですが」
「単位表ですか……。すみません、ありがとうございます」
Ⅶ組全員分の表を渡すと、彼女もまたその内容にかるく目を通し始める。ふと彼女の向かっていた机に目を向けると、予習か復習か、教科書とノートが開かれている。確かにここの勉強は結構大変なので、予習復習は欠かせない。Ⅶ組には結構優秀な生徒が集まっているらしいという話も聞くが、彼女がそうなのかもしれない。
「ほかのⅦ組の方へもお渡しください」
「わかりました。」
彼女の返答を待って、私は軽く会釈をするとそのまま図書室を後にする。Ⅶ組の生徒数は少ないが、誰かしらいるだろうと思っていたのだが、まさか本校舎に誰もいないとは思わなかった。とにかく、Ⅶ組には渡せたので問題ないだろう。トワ会長がまた遅くまで残らなければいいと思いつつ、そのまま生徒会室へと戻ることにした。



「あの方は、先輩でしょうか?」
「彼と一緒にいるのは見たけど。どうかしらね」



2021/1/29

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