閃の軌跡編

7


6月23日。いろいろな意味で待ちに待った中間試験の結果発表だ。個別でテストが返却されるとともに、クラス順位や個人順位は掲示にて発表されることとなった。おかげで掲示板には多くの生徒であふれかえっていた。
結果として、クラス順位は1位Ⅶ組、2位Ⅰ組。個人順位も1位はⅦ組のようだった。人数が少ない分、1人でも点数が低いと平均点も下がってしまうが、それでも1位ということは全体的に点数が高かったことを意味する。他はその何倍もの人数がいるので、多少は補完されるが、点数が低い者が多ければ多いほど平均点は低くなる。よってクラス順位が高いクラスほど、個人順位でも上位に食い込む人数が多くなる。
「(あ、リィンが7位)」
ちなみにⅡ組はクラス順では4位だ。まぁ真ん中、といったところか。ブリジットがⅡ組の中ではトップ。釣りをしていることが多いケネスも上位ということは、もともと頭がいいだろう。私の成績も加味されていたらどうなっていたかはわからないが、きっと順位は変動しないだろう。一個人の成績でそこまで左右されるとは考えにくい。
「あら、の名前はないのね」
「ええ。全部の科目を受けていないので。」
「でも、全体的に成績よかったんだろう?も順位はよかったりして」
「どうでしょう?」
Ⅱ組の面々で成績順を眺めながらそんな会話をする。次回はもっと点数を取る、と意気込む者もいれば、順位に手ごたえを感じる者、逆にもっと勉強しなければと慌てる者と三者三様だ。ただ、Ⅱ組は、Ⅰ組ほど順位に強いこだわりを持ってはいなさそうだ。
つい先ほど、Ⅶ組の面々が成績順を見に来ている中、Ⅰ組生徒が、というよりもパトリック・ハイアームズが筆頭としてちょっと険しいというか、怖い表情をⅦ組に向けていた。Ⅶ組はとくに気が付いていなかったようだが、常に優秀であることに固着しているⅠ組からすれば、Ⅶ組は目障りなのだろう。今年度から発足されたクラスで、カリキュラムも違うとなれば、多少意識してしまうのはわかるのだが。



「……
「フェリス、どうしたんですか?」
午後の授業も終えたころ、後方から声をかけられる。振り返ればそこにはⅠ組のフェリスの姿があった。あの勉強会以降、少し仲良くさせてもらっているが、どこか表情が暗い。
「その、少しいいかしら」
声色も少し硬く、トーンも低い。彼女の誘いにうなずいてから、校内ではなく寮の自室へと招くことにした。あまり周囲に聞かれたくなさそうだったのもある。
「それで、どうしたんですか」
メイドからいただいた紅茶を提供しながら、彼女に向きあう。少し考えこみながら、ぽつりぽつりと話す彼女の言葉に耳を傾けた。
「今回の中間試験、わたくしたちⅠ組はかのⅦ組に大敗しましたわ」
「クラス順位ですか」
「ええ。わたくしは、平民に負けるわけがないと思っていましたわ。とも勉強しましたし」
「フェリスが努力家なのは存じています」
「なのに、個人成績でも、平民に負けてしまった。こんなこと、あってはならないことで!」
フェリス自身、今回の中間試験はすごく熱心に取り組んでいた。それは教科書や参考書のマーカーからも、使われ度からも見て取れた。一緒に勉強した際も、授業の理解度は高かったし、逆に私が教えてもらうこともあった。それなのに、1位がⅦ組の、しかも平民であったこということが、きっと彼女のプライドを傷つけているのだろう。もしかしたら、それ以外にもあるのかもしれない。
「午後、パトリックたちがⅦ組に交流授業を申し出たのです。ちょうどⅦ組は実技の最中でして。」
「ええっと、Ⅰ組の午後の授業は確か……」
「トマス教官の授業になりますが、急遽自習になったこともあって」
「ああ、だからちょっと騒がしかったのですね」
Ⅰ組とⅡ組のクラスは隣になる。大騒ぎしなければ声が隣のクラスに聞こえることはないが、何度か扉の開閉音がしたのは聞いていた。その後、大声ではないがざわついていたのも。
「そこでも、Ⅰ組は負けてしまった。教官にも窘められる始末。わたくしたちには、平民に劣るのでしょうか」
「……」
貴族と平民。その差は大きい。けれど、あくまでそうくくってしまったら、の話だ。確かにここでも、クラス分けという形で貴族と平民はわかれているが、それが優劣をつけているわけではない。成績順にしても、Ⅱ組はⅢ組にまけているし、もっと言えば貴族平民混合のⅦ組がトップ。貴族だから成績がいい、という証明にもならない。そして、もし本当に差別化をするのであれば、貴族と平民の学び舎自体、別々にするべきだ。でもここではそうしていない。全員が、帝国民として、ここに迎えられている。
「確かに、私たち貴族には、貴族としての使命や、想いがあります。家柄を継ぐこと、途絶えさせないこと、領地の民を導くこと、たくさんあるでしょう。ですがそれはすべて、貴族だけにあるものでしょうか。貴族だけではなく、平民にも同様の想いはあると思います。全く同じとは言いませんが、それをただ、家柄や、貴族と平民というくくりだけで見ていいものでしょうか。___私たち貴族はきっと、相手を家柄でしか見ていない。本来ならば、一緒にこの学院で切磋琢磨する学友として、一個人として相手を視る必要があるのに」
「……」
「私も、なにが正解なのかはわかりません。この帝国に、貴族制度があるのは事実で、家柄である程度のレールが敷かれているのも事実。その中で、私たちがどう、貴族社会以外と付き合っていくのか。少なくとも私は、それがここで学べることだと信じています」

2021/2/13

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