黒子のバスケ

1


ー!?そろそろ起きないと遅刻するぞー!」
「……」

現在、7時40分。大学の開始時間、9時00分。通学時間、30分。
俺の位置、ベットの上。
……うん。まだ間に合う。
下から聞こえる兄(のはず)の言葉に曖昧に返事しながら、壁に掛かっている制服をつかむ。中にTシャツを着ながら、はて、自分の制服は学ランだっただろうかと思考を巡らせる。
自分が通っている高校は、たしかブレザーだったような。しかも季節は夏でワイシャツでの登校だった気がする。いやいや、それ以前に俺は大学生だってば。
……が、現在目の前にあるのは学ランで、かつ冬服である。
ゆっくりと部屋全体を見回して、相変わらずの漫画やゲームの羅列を見ながら、なにかが足りないことに気がつく。
黒子のバスケがない……だと。
ほどほどの数がある漫画消えることなんて滅多にない。きょろきょろと本棚を見回してもどこにもない。なぜに。

ー!!!!」
「……はーい」

とりあえず兄が怒らないうちに下に降りなければいけない。いつもよりもうるさい兄の声にあいまいに返事をしながら着替えを済ませて1階へと降りる。リビングには出かける準備万端の兄がいた。

「早くしろよ。今日から新学期だろうが」
「……うん」
「初日早々遅刻する気か?」
「……」
「俺はもう出るからなー。」
「……」

兄が鞄をつかんで家を出る。ばたんという音とともにドアが閉じてから、ようやく俺の思考は戻ってきた。朝食には手をつけず、両親と兄にと一緒に写っている写真の横にある写真に見入る。
男子学生が多々いる中に1人の女子学生が写っている。1人はふてくされたように、1人は笑みを浮かべ、そして他の生徒も嬉しそうにしていて。その中に無表情で写るは俺の姿。俺にはその写真に覚えがある。いや、覚えがなくてはいけないはずなのは確かだが、この写真に俺が写っていないやつに、俺は見覚えがあ る。

これ、黒子のバスケの誠凛高校バスケ部設立時に撮った写真じゃね……?

なぜこれに俺が写っているのか、心の中で思考を巡らしたところで答えてくれる人はどこにもいなかった。仕方なく、とりあえず家を出る。高校までの道のり知らないんだけど、という不安は、なぜか身体が覚えているという不思議現象のおかげでかき消えた。そりゃこの世界の俺は1年間通っているんだから当たり前か。
だが・・・自分の立ち位置がどうにも分からない。電車に揺られながら、過去のメールを開くと、"部活にこい"だとか"遅刻するな"だとか……どうやら俺は不良らしい。しかもそのメールに返信さえしていないという現実。ということはこうして時間に間に合うように向かっている俺は周りからしたらおかしいのではないだろうか……とは考えたが、今更なので仕方ない。とりあえず部活に出ない遅刻常習犯・・・それが俺、らしい。実際、バッシュやらなんやら持ってきていないので部活に出る気はないが。たぶん部屋にはあるのだろう。マンガに気を取られてしまってみてもいなかったが。
しかし、俺が誠凛バスケ部ねぇ。いやぁ一応中高バスケ部だったけど。そこまでつよくなかったぞ?

「……、くん?」
「相田……」

電車から降りて学校へ向かう途中。自身の名前が呼ばれる。自然と口から出た言葉は、バスケ部監督の相田リコの名前だった。彼女は少し驚いた表情を見せ、駆け寄ってきた。

「珍しいわね。遅刻せずにくるなんて」
「……兄に、起こされた」
「あらら」

相田とともに通学路を歩きながら、ふと中学が一緒でご近所であるはずの2人の姿が見えないことを思い出す。一緒に通学してるんじゃないのか

「日向や伊月は」
「一足先に学校。明日の新入生勧誘でちょっとね」
「ふうん」
「もちろん、くんも明日来るわよね?」
「……」
くん?」
「……気が向いたら」
「もう」

そうか、明日が入学式かつあの部活勧誘の日か。俺の高校、あんなことしなかったな……。されても困るけど
学校の校門をくぐり、なにげなく校舎に向かおうとしたら、思いっきり相田に腕を捕まれた。なにかと思って相田を見ると、彼女はにっこりと笑って引っ張ってくる。痛い痛いです。
ぐいぐいと引っ張られて向かった先は、やっぱりというかなんというか、体育館だった。ああ、なんでちょっと早めに学校についてしまったのか。

「おはよう!」
「おーカントク!はよー」
「おはよう」

体育館の扉を開くと、そこには学ランに身を包んでいる複数の生徒がいた。数名はすでに鞄を手に持っており、戸締まりの確認をしていた。

「あれ、。珍しいな」
「……ああ」

相田に腕を放され、ようやく解放された俺に声をかけてきたのは伊月だ。ふむ、やっぱり俺は滅多に部活に出てきていないらしい。俺、幽霊部員か。
俺がいるということを除けばすべて元の漫画と変わっていない。俺が入ってどこが変わっているのかを知るのはもう少し後になりそうだ。俺の立ち位置を知るのも、もう少し後だろう。木吉がいないバスケ部を見ながら、ちょっと過去のバスケ部の試合探して自分を見つけようかと思考を巡らせる。

「それじゃ、今日の放課後も集合してね!明日の準備あるから」

そのためか、相田が全員に向けて言った言葉を、俺は聞いていない。



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