黒子のバスケ

5


はて、ふと今までの素行を振り返ってみると、俺って昔っからこんなに面倒なやつだっけか。部活には顔出さないし遅刻常習犯とかどこの問題児だよ。大学行くの大変になるんだぞ。って思っても今更か。
海常との練習試合が終了してから数日が経過している現段階で分かったことと言えば少ない。それでも燻っている訳にはいかずに一応ランニングとかストバスとかには行っている。なら部活行けと言われそうだけどなんかね。なんというか意地を張ってるというか、そうしなきゃいけないような。どうして行きたがらないのかの本当の理由は自分でも分からない。たぶんだけど、""が拒否しているんだろう。俺じゃない俺が。
そこまで思考を巡らせて、俺は考えるのをやめた。のんびりと学校から帰宅してからランニングを開始する。近くのストバスまでいければいいかと思ってスポドリその他の入った鞄を腰につけてから走りだす。家の近くには誠凛に通う知り合いがいないからばれなくていい。

「あー!まただめだぁ」
「ボール届いてないじゃん!」
「くっそぉ」

ストバスまで来て、ふと子供の声が聞こえて足を止めた。ストバスのコート内に小学生らしい子供が3名ほど、バスケットボールを手にしていた。ゴールにかす らずに落下したボールがコロコロと転がり、入り口付近にいた俺のそばにまで転がってくる。何気なく手に取ると、ボールが小学生用の5号(ミニ)であること が分かる。ちなみに高校生は7号だ。

「あ、ごめんなさい」

1人がボールを取りに来たのでその少年にボールを渡す。

「バスケの練習?」
「うん。今度ゲームに出るの!」

俺がその少年と話していると2人の少年もそばに来た。

「でもゆーきのやつ、シュートできないでやんの」
「届かないんだもん!」

……はて、彼らは小学生で間違いないのだが、たしか日本ではゴールの高さは小学生と他では違っていたような。詳しい高さは覚えていないが、ミニバス等をやる所では低めになっていたはず。それなら彼がシュートできても不思議じゃない。伝えた方がいいのか。

「3人はミニバスをしてるの?」
「そーだよ」
「だったらゴールに届かなくても仕方ないよ」
「え?」
「ゴール、高いと思わない?」

3人は顔を見合わせた後ゴールを見る。1人が近づいて真下からゴールを見上げた

「なんか高そう」
「外にあるゴールと、君たちの使っているゴールは高さが違うんだよ。入らなくて落ち込む必要はないよ」
「えー!」

練習できないよう、と残念がる3人。いいねぇ小さい子ががんばろうとしているのは見ていて懐かしくなるよ。

「お兄ちゃんってバスケしてるの?」

けろっとした表情を浮かべた1人の少年が再び声をかけてくる。

「してるよ。」
「ダンクできる!?」

きらっきらの視線が痛い。

「友達も俺もだーれもできないから・・・見せてよ!」
「僕もみたい!」
「僕も!」
「ええ?」

はい、と向けられたボールを思わず受け取る。いや、これ小さいから片手でつかめるんですが。1度だけだから、と行ってゴールまで行ってボールをゴールに落とす。その瞬間後方から声が聞こえた。

「すっげええええ」
「ねえ、僕にもできる!?」
「けーはいつもゴールにボール入らないのにー??」
「とーまもできないくせに!」
「なーにぃー!」
「もー!2人ともストップううう」
「3人とも仲良しなんだな。」
「ご近所さんだから」

それから落ち着いた3人とともに話をして(どちらかというと俺が質問攻めにあっただけ)3人は近くの小学校にかよう小学2年生であることが分かった。部活動はまだ入れない年だから、どこかのミニバスに参加しているだけらしい。同学年との初めてのゲームがあって張り切ったらこんなことになったらしい。

「ねえ、お兄ちゃんまたくる?」
「うん?どうだろう」
「またきてよ!」
「今度お兄ちゃんが来るときにはゴールに入るようにする」
「俺も!」
「そっか。楽しみだな」

ゆーき君、けー君、とーま君と呼ばれていた3人はきゃっきゃと騒ぎながら帰りを促すチャイムによって帰路へとついた。知らない人にはついて行くなよーと思いながら本来ならば彼らにとっては俺も知らない人のはずなのだがと考える。防犯ブザー持った方がいいんじゃないだろうか。

これがちょうど5月の半ば。誠凛と新協学園との試合を間近に控えた時のことだった。
それから俺は、また夢をみるようになった。時間軸的にはおそらく、俺と花宮がキセキと戦った後だ。部活動に勤しみながら、俺と花宮の距離は少しずつ開いていく。そうすると、自然と他のチームメンバーとの距離が近くなる。
仕方ない。 キセキに勝てるわけがないんだ。 無冠っていってもキセキには勝てない。 マジになるほうがおかしい。
それは大差のある実力を見せられれば考えてもおかしくないことだった。しかし、それが、当時の俺と花宮の心を傷つける。見えない刃は、俺と、そして特に無冠の五将と呼ばれた花宮に刺さっていった。見えないように表情を作りながら、花宮を見れば、彼もまた、傷を見られないように表情を作った。その表情が、痛々しいと感じながらも、俺は花宮に声をかけることはない。
俺らみたいな平凡な人間が、あんな化け物に勝てるわけないじゃんな。
同じスタメンだった男がそう発した時、俺の、””の心に、なにかがストンと落ちた。


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