振り回されてばかりの君へ七題

4.南の島へ逃げたい


「はああああああああ」
「どうしたんだ?そんな長い溜息なんてついて」
「だってテストだよ?テスト!もーやってらんないいいい」

机の上でうなだれると、隣の席に座っていた三和が話しかけてきた。

「あーテストか。」
「なにその余裕そうな表情は」
「余裕じゃねーって。俺だってやべーんだから」
「えー?とか言いつつもどうせ櫂とカードショップ行ってるんでしょ?」
「うっ」

三和が大げさに目を合わせないようにしているのを見ながら、私は再度溜息をついた。

「あーあ。いっそ学校がなくなってしまえばいいのに。そうしたら楽しく遊んで過ごすのになぁ」
「あーそれいいねぇ。ずっとファイトとか?」
「それは櫂だけ。ずっととかそれはちょっと。」
「だよなぁ」

現在この場にいない櫂はもっぱらのヴァンガード馬鹿。いくらやっても足りないとでも言いたげな顔をされるから困ったものだ。

「そういえば、ヴァンガード狂がいるのに部活はやらないんだね。」
「一応入ってるんだぜ?」
「え、ウソ」
「まじまじ。でもほら、櫂のやつがさ」
「あー何、周り弱すぎとでも言ってるの?」
「似たようなもん。先輩たちに勝って挑発するもんだから敵視されまくりで」
「あらら。でも三和が中間に入ればいいんじゃないの?」
「おれが?」

高校生になり偶然再会した櫂にくっついてる三和。小学生時代とは思えない不愛想さを振りまく櫂に対して最初に近づいてきた人物。それが三和だ。正直、覚えている人間でも三和のように櫂に話しかけている人はいないだろう。三和がいなかったらボッチも免れなかったのではないかと思うほどだ。私だって同じクラスになって自己紹介されるまで全く気が付かなかった。気が付いてからは頻回に話しているが。
ともかく、そんな三和が間に入れば部活くらいなんとかなるのではないだろうか。確か今のヴァンガード部は3年のみで構成されていたはずだ。

「いやいや。が一緒なら何とかなるかもしれないけど、俺一人で?」
「いけるいける。それに私は今別の部活に入ってるし」
「その部活、ほとんど活動してないだろ」
「してるよー。1か月に2回」
「すくねぇ」

反面私の入っている部活は活動日数は顧問・指導くださる先生の都合で少ないが、先輩にも恵まれて充実している。男女の差というのも大きいのかもしれない。

「それでショップに入り浸り?ある意味充実してるね」
「でっしょー?それにそろそろショップ対抗での大会もあるじゃん?」
「あーヴァンガード・チャンピオンシップのことね。2人とも出るの?」

ヴァンガード・チャンピオンシップ。4名1チームで出場することのできるその大会は、それぞれ地区大会、全国大会に分けられている。地区大会に勝てば全国大会へと進むことができ、全国の強いヴァンガードファイターと優勝をかけて競うことになる。

「んや、俺は出ないけど、櫂が出るんだよ。チームQ4っつーグループ組んでな」
「へぇーどうやってきめたの?」
「ショップのトーナメントの上位4名だな。結構強者ぞろいだぜ?」
「あら、三和は上位じゃないのね」
「まーな。そういうは?」
「私?出ないよ」
「なんで?」
「だって面倒だし。ヴァンガードは趣味なの。大会まで行くつもりないよ」
「もったいねぇなぁ」
「三和もでしょ」

そんなたわいもない会話をしている所に、櫂が現れた。私たちの方を一瞥したあと、自分の席へと座る。

「おかえり、櫂。チャンピオンシップ出るんだって?」
「……三和か。」
「そうだぜ」
「チーム戦だからどうかわからないけど、中途半端に負けてこないでよ?」
「ふん、わかっている。……それよりもいいのか」
「何がだ?」
「テストまであと10分もないが」
「「……」」



「言わないでよー忘れてたのにいいい」
「櫂は勉強できるからな……」
「三和も要領いいだろ」
「櫂も三和も敵だ!もー南の島に逃げたいいい」


2016/01/04


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