紫陽花

黒赤

もう何度も見慣れた風景を眺めながら、溜息ひとつ。それに気がついたのか、隣にいたパートナーがこちらを一瞥したが、これもいつものことなので何も言わなかった。
目の前の広いテーブルの一角を陣取って、城の主とその娘は団欒を楽しんでいる。テーブルの前には娘が作ったクッキーが並んでおり、茶請けとして役目を果たしていた。
__ね、・・・・・・
こうした時間が提供されるようになって早1年。これまでよく会話をしていたのは弟の永久だけで、クラスメイトとは学校の間だけだったのを考えるとこんなにも長時間一緒にいる人物は、俺の中では珍しい。それも相まってか、あまりこういった長時間の団欒は苦手だ。
__ってば
ましてや、娘は同じ学校に通うとはいえ、これまでクラスも違っていてそこまで親しくもない人物だ。男子と女子が一緒にいるだけであることないこと広まることを考えれば、縁はほど遠い人物だ。それがなぜこうなっているのか
___刹那ってば!」
「うお」
耳元で叫ばれて、立てていた肘が崩れた。視線を向ければ、少々不機嫌な娘・・・・・・否、異母きょうだいにあたる未来が立っていた。
「もう、聞いてた?」
「・・・・・・いや?」
「はぁ。まったく」
未来は溜息をついてもとの席に戻ると、再度口を開いた。
「ほら、来年度から中学生になるわけじゃない?」
「ああ」
「それでね、パパと一緒に制服買いにいこうと思って。刹那も一緒に行くわよね」
「ああ・・・・・・え。」
「やった。じゃあパパ、今度の土日空けておいてね!」
「もちろん」
「いや、まて、ちょっとまて未来、と、父さんと行くのか!?」
がたり、と思わず椅子をならして立ち上がった。一般人はわからないかもしれないが、俺たちはただの人間ではないし、ましてや父さんにいたっては人間ではなく、世間一般的に言えば悪魔と呼ばれる存在だ。そんな存在と、東京を平然とあるけと!?
「大丈夫よ。ゼットも人間界に降りてたじゃない。パパもよく来てたんでしょ?」
「2人の母親とは、人間界で出会ったからな。そちらには良く行っていた」
「なら大丈夫でしょ」
「・・・・・・・・・・・・」
姿的には大丈夫なのかもしれないけど、叔母さん夫婦に世話になっている俺としては全く大丈夫じゃない。いや、仕事が忙しくてここ1年は返ってきていないし、制服代は封筒に入れておいてあった。衣食住の面においてとてつもなく世話になっている叔母さんたちに、知らぬ長身の男と、隣の部屋の女の子と歩いている所を見られてみろ、というかその現場を誰かに見られてばらされてみろ、どういいわけすればいいのか。
「案外なんとかなるわよ。そうだ、永久君も一緒にいきましょうか」
「・・・・・・学校でなに言われてもしらねーから」
「ふふん。何言われようが関係ないわよ。家族水入らずで買い物してるだけなんだから」

2018/09/25


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