クールな君へ5のお題

1.高嶺のクールビューティー

朝学校から登校して早々、何人かのクラスメイトに囲まれた。何事かと思えば口々に出てきた人物名は、とある奴だった。
「未来!未来って甲斐くんとどんな関係なの!?」
「え?」
何を言っているのかわからず首をかしげると、先手を切った彼女は誤魔化さないで、と少々怒りの声をだす。
「知ってるのよ、昨日、甲斐くんと二人でいたのを!」

私と甲斐、甲斐刹那との関係は、正直言って誰にも話せないものだ。本当の事を言ったところで信じてくれるわけでもないし、それで噂が独り歩きしても困るために言わないというのは2人での決まり事だった。だから私たちの関係はお隣さんであり友達でありクラスメイトであるってことだけだ。本当のことを知ってからすでに3年。中学生になっても昔通りに過ごそうと決めていたからこそ、同じクラスになってもほかの異性の友達と同じような関係であると見せていこうとしていた。
けれど、それがうまく行かない可能性があることも知っていた。
おそらくそれが今なのだろう。確かに昨日、私と彼は一緒にいた。けれどもそれは私が担任に頼まれた授業で使った教材を片しているのを目撃され、手伝ってくれたというだけなのだが、中学生の女の子というのはそういった話が大好きだ。しかもそれが、影で人気のある人物だったらなおさら。

「甲斐って、甲斐刹那君でしょ?1年生の時も同じクラスだったけど、かっこいいよね!知ってる?先週のサッカー!」
「知ってる!サッカー部の子を掻い潜ってゴールを決めたんだよね!私も見たかったなぁ」
他の女子がワイワイと彼の事で盛り上がる。確かに先週の体育はサッカーで、大いに彼がチームに貢献していた。だがその時女子は隣のコートでドッジボールをしていたはずで。いつ見ていたのやら。
「……彼とは特になにもないわよ。あの時だって教材片付けるのを手伝ってくれただけだもの」
「えー!だって未来、甲斐くんと小学校も一緒だったんでしょ?」
「そうなの!?」
それから少しのらりくらりとかわしながらも、彼女らは彼の話で盛り上がる。遠目で男子が少し引いた表情を見せているのがわかり、それでも彼女らはそれに気が付かない。
「甲斐くんって本当にかっこいいよねぇ。顔も良くてスポーツも出来て……いいなぁ」
「彼氏として最高だよねぇ」
「告ったら?」
「無理だよぉ!絶対振り向いてくれないもん。」



「ってことらしいけど。」
「いや、なんでそれを俺に言ったんだ」
魔界セントランド城の一室。朝に焼いたスコーンと、城のコックが用意した紅茶をおやつにして、私と彼は一緒にいた。足元には互いの相棒であるベールとクールがいる。
「結構とっつきやすいと思うんだけどなぁ」
あの後、私は彼女らにあることを聞いた。彼女らはあんなことを言いながらも彼に近づくことはなく、ただ遠目に見ているだけだったから。すると彼女らは決まっていった。“自分は甲斐君のそばにふさわしくない”と。何だったらふさわしいのだろうと首をかしげたが、彼を知っている身からすれば、その疑問は解決しない。
「少しキャラ変えてみたら?女子と話しているのめったに見ないわよ」
「別にいいよ。話す内容もないしな」
「もう……」
彼はそういってスコーンを口に入れた。そばに置いてある苺ジャムの量が減っている。そばにはオレンジやらリンゴやらが置かれているのに、彼は苺しか使っていない。
じっと見つめていると、彼は眉を寄せてこちらを向いた。
「なんだよ」
「んーん。なんでもない」
彼女らにとって彼は高嶺の花というものなのだろう。近寄りがたい感じは昔はあったけれども、今は落ち着いているから私はそう思わない。学校であまり話さないことも関係しているだろうか。

「ね、私が仲介役になってあげよっか?」
「いいって!余計なことすんなよ!?」

2015/05/03

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