クールな君へ5のお題

4.では試しに挨拶から

「甲斐くん?」
「そ。要さんのお隣に住んでいると思うのだけれども」
放課後になって担任の先生に呼ばれ、職員室を訪れる。一時間目に眠ってしまったことを怒られるのかと思いきや、私に用事があったのはどうやら隣のクラスの担任の先生だったようで。担任の先生に手招きされる形で職員室に足を踏み入れ、そして目の前には1つの紙袋が置いてあった。
「どうしても今日までに渡しておかないといけないプリントがあってね。要さん、届けてくれないかしら?」
少し先生とプリントの入った袋を交互に見て、特に断る理由もないことからうなずく。ぱぁっと先生の顔が明るくなった。
「ありがとう!それじゃあお願いするわね」

自分の家の隣の部屋の前まで来て、足を止めた。隣に同い年くらいの男の子が引っ越してきたのは知っていたけれどそれが同じ学年で隣のクラスの子だということは今まで知らなかった。私も、そして彼もきっと近所付き合いというものを知らないからだろうとは思うけれど。
一度深呼吸をしてインターホンを押した。少ししてインターホンから声が聞こえる。
『はい』
「あ、えっと、隣の要です。学校のプリントを持ってきたんだけど……」
『……少しまって』
声は、とても落ち着いた男の子の声だった。親が出てくるのではないかと思ったが、まさか本人にあたるとは思わなかった。バクバクと胸の音が聞こえる。どうしよう、どうしようと頭の中が混乱する。再度深呼吸をし、ふと顔も覚えていない母の言葉がよみがえる。

ゆっくりと扉が開く。扉が完全に開いたところで、私は笑みを浮かべて。
「こんにちは!甲斐くん!」
母は言った、何事も挨拶からだと。笑顔で、大きな声で挨拶をするのだと。そうすれば、絆ができるからと。
少年は驚いた表情を見せながら、小さな声ではあったが言った。
「こんにちは。」

2015/05/04

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