我儘な君へ5のお題

1.これではまさに世話係

要未来。彼女の事を周囲から聞けば、たいてい返ってくるのはこの言葉“新宿最強の小学生”または“新宿小最強”。意味合いはどちらも変わらないが。なぜそんなふうに呼ばれるようになったのかを、俺は知らない。本人に聞いても知らないようだが、おそらく過去に何かがあったのだろう。実際、彼女はデビルを蹴り飛ばしたりしているから、人間の女子小学生の中では最強クラスだろう。
だが、俺の中では強い女の子というよりはか弱い女の子に分類される。それはのちにわかった妹だから、という訳ではない。そして何か具体的な出来事があったためという理由も、ない。
俺が未来と出会ったのは、永久が熱を出して看病のために学校を欠席したときだ。おそらく近所である(しかもお隣さん)ことを知った教師が言ったのだろう。宿題とか学校からのお知らせのあるプリントだとかを未来がもって俺の家に来た。その時に、初めて未来を見た。にっこりと笑みを浮かべ、手には封筒を持っていた。未来は大きな声で、俺に声をかけた。
それからというものの、偶然家を出ればであったり、学校で出会ったり。同じクラスになったことはないけれど、仲良く話したことはないけれど、いつしかただの知り合い、ご近所さんから友達へと変化していった。だからといって一緒に遊ぶことはなかった。未来はクラスメイトとよく遊んだし、俺もサッカーをしたり、永久、弟と一緒だったりと違うことをしていたからだ。
そして、それはずっと、中学、高校へと上がっていっても変わらず、いつしか疎遠になっていくものなのだと思っていた。思っていた。

「……」
「ちょっと刹那。なにそこで立ってるのよ。手伝ってよね」

魔界・フォレストランド。俺と、そして未来の父がいる城の、台所。そこになぜか俺は未来と一緒にいた。未来の近くにはたくさんの材料と、オーブンとが置かれている。魔界にオーブンなんてあるのかと問えば、魔界のデビルたちは人型にもなれるからこうして人間界の物を買っているらしい。最も、そのデビルたちは上級の者たちなのだが。それはともかく。
未来に言われるまましぶしぶ近づくと、ボウルに入れられた生クリームと、泡だて器を渡される。

「つのが立つまで泡立ててね。あ、つのっていうのは、泡だて器を上にあげたときにクリームが垂れないことね。山みたいになるの。」
「……」
「私は生地を作るから。お願いね」

そういって未来はくるりと俺に背を向けると、小麦粉などの分量を量り始めた。俺はそっと溜息をつくと、近くの椅子に座って泡だて器を動かした。
現在、このキッチンには俺と未来しかいない。いや、本当ならコックがいるんだが、未来が全員追い出した。コックたちは扉の向こうからハラハラと見ていることだろう。もしかしたらこの城の主に言いに行っているかもしれない。おそらく何をするのかと気にしているのだろう。鼻歌を歌いながらなにかを作り出す未来を見ながら、俺は再び溜息をついた。そしてコックたちの言葉を思い出す。

「せ、刹那様!どうか未来様を止めてください!せめてなにかしないように見ていてください!」

小学5年生の俺に言う言葉か?とは考えたが、実際これが魔界にきて何度も繰り返される。聞いたところだと初めて出会ったデビルに対して蹴りを入れ、アイスランドのデビルにそれはもう怖い瞳の女だといわれ(実際これは演技だった)、未来の印象は良い方向とは言えない。それで未来は訂正なんてしないし、時には意地悪も始めるから拍車がかかる。そしてそれをさらに盛り上げていく人物もまた、いる。

「……」

きっと、未来はそんな彼女のお付け目役にされている俺の気持ちは考えていないだろう。実際この状況も魔界にいるときだけだし、さらに言えば俺と未来が一緒に来たときだけだ。一緒に来ることなんてないから、これは数えるくらいしかまだない。
だがしかし、この関係は魔界にいる限り続いていくのだろうと、いまだつのの立たないクリームを見ながら考えた。

2015/12/17

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