03(仮題名)

02の3年後の長編予定。try.ならびにラスエボとは設定だけ拝借したパラレルワールドです。

 1999年のお台場霧事件をきっかけにして徐々に知れ渡るようになってきたデジタルモンスター。その存在は、2002年に世界中に現れたことでさらに助長され今ではほとんどのものがそれを知ることとなった。しかし、その生態はいまだに謎に包まれており、映像においても確実性のあるものが残っていないことから一種の都市伝説のような噂話だと信じる者もいる。だがその存在は日本の、とく東京においては周知の事実として存在していた。子供達を中心に広まったデジタルモンスター、通称デジモンは世界中のいたるところに存在している。そして、とても身近に。

「ねえ、太一。」
「……アグモン」
「僕はね、太一と一緒だったらなんでもできるよ。」

これは、そんなデジモンと、大人への階段を上り始めたかつての少年少女の物語。



 2005年7月。東京、お台場。その上空に巨大な生物が飛行していた。形だけを見ればクワガタのようにも見えるが、大きな鋏のほか、手足と思わしき場所には鋭利な爪。そして全体は赤色系に染まっており、日本でよく確認される自然色に紛れやすいクワガタとはまったく違う存在だった。そして何よりその大きさ。人よりも一回り、二回りも大きいそれは、上空から地上へと滑空するだけで周囲の電柱や信号機をなぎ倒していく。周囲の人間は逃げまどい、周辺は混乱で満ちていた。
 そんな中、駆けだす人々とは逆方向に向かって走り去る1人の青年がいた。制服に身を包んだ青年は、上空の生物を見ながらその方向へと駆け出す。人の足では追いつくことは難しいが、その生物は蛇行しながら、というよりも何かを探しながら飛行しているのか、青年は徐々に距離を詰めていっていた。そうして最終的にたどり着いたのは、お台場フジテレビ。フジテレビの頂上、球体展望台の上へと生物は降り立っている。こちらも周囲に人影はなく、ほとんどが屋内や離れたところに逃げ出しているようだった。青年はそれを確認して、近くに転がっていた手頃な石を拾うと、宙に放ったのちにそのまま足蹴りをした。本来であればきっとフジテレビのガラスを割る程度であろうそれは、青年の自慢の力によって宙高く飛び、結果としてこつん、と生物の頭へとぶつかった。それにより、生物は青年を視界に取られ、咆哮を上げるとそのまま青年に向かって降下を始めた。それを青年は正面から受け止め、そして。
「アグモン!」
 青年の声とともに、腰に付けたデジヴァイスが光り輝く。いつの間に現れたのか、青年の前には小さな黄色い怪獣が立っていた。怪獣は、アグモンと呼ばれたそれは、青年の声に答えるかのように顔を上げた。
“アグモン進化!___グレイモン!”
 そして、次の瞬間にはアグモンは一回り以上大きい、別の怪獣へと姿を変えていた。グレイモンとよばれるそれは、大きな腕を広げて、下降してきた生物__クワガーモンを受け止めた。その衝撃で、地面がえぐれるが、グレイモンはその体を揺らすことなく立ち合っていた。それから膠着するかのように、グレイモンとクワガーモンは互いを抑え込む。そんな最中、青年の携帯電話が鳴り響いた。青年はグレイモンたちから目を反らさずにその電話に出る。
『太一さん、今どこですか!?』
「フジテレビ前だ。あいつらはいつくる?」
『近くにヒカリさんがいます! 誘導しますので持ちこたえてください。』
「了解!」
 通話が終了すると同時に、クワガーモンがグレイモンの手から逃れ、再度空へとその身を飛ばす。羽をもつクワガーモンとは違い、グレイモンは空を飛ぶ術がない。その代わりに、グレイモンは口元へと炎をため込んだ。
“メガフレイム!”
 その炎は火炎玉へと姿を変え、一直線にクワガーモンへと激突する。硬い甲羅で守られた体でそれを受け止めるも、無傷とはいかなかったようでくすぶった甲羅を感じ取ったのか痛みに悶えだす。それによって飛行のバランスを崩したのか、徐々に地面へと下降し始めた。しかし、地面に落ちきる前に、まるで反撃とでもいうかのように、巨大な鋏がグレイモンに襲い掛かる。グレイモンはそれを両手で抑え込むと、まるで背負い投げのようにクワガーモンを地面へと叩きつけた。
「お兄ちゃん!」
 2体がしのぎを削っている最中、青年の後方から、息を切らしながら走ってくる少女の姿があった。緑を基調とした制服に身を包んだ少女は、青年の前方、グレイモンとクワガーモンの姿を視認すると、手に持った、青年とは形の違うデジヴァイス__D-3を握りしめる。
「テイルモン!」
“テイルモン、アーマー進化___微笑みの光、ネフェルティモン”
 少女の声掛けで、一緒に走ってきたのであろう白いネコ型__本当はネコ型ではないのだが__の生物が姿を変える。テイルモンは、翼の生えたスフィンクスのような姿へと変化した。そして、そのまま1度宙を駆けると、グレイモンの補佐をするかのように、上空からクワガーモンを抑え込んだ。その間に、少女は肩にかけていたバッグを開く。中から取り出したのは小型のノートパソコンだった。それを開いたのちに、D-3を掲げる。
「お兄ちゃん、準備できたよ!」
「わかった! グレイモン、そのままゲートに投げ飛ばすんだ!」
 少女の声にうなずいた青年はグレイモンへと声をかける。それと同時にネフェルティモンはクワガーモンから体をどかした。起き上がろうとするクワガーモンを、グレイモンは力任せに振り回す。
「デジタルゲート、オープン!」
 少女は抱えていたノートパソコンを、クワガーモンらのいる方向へと向ける。ノートパソコンの画面には、まるで向こう側に別の世界があるかのように、今いるこことは違う景色が映し出されていた。グレイモンはその方向へと、クワガーモンを投げ飛ばす。少女が反射的に目を伏せるが、クワガーモンは少女に衝突することもなく、画面の中に吸い込まれるように消えていった。
 そうして、あたりには多少損害を受けた地面や建物と、青年らだけが残った。大きく形を変えていたグレイモンやネフェルティモンも、最初の少し小型な姿へと変化する。
「助かったぜヒカリ」
「ううん。間に合ってよかった」
 一騒動が終わり、青年と少女__八神太一と八神ヒカリは、パートナーデジモンであるアグモンとテイルモンと一緒にほっと一息つくのだった。

 そんな2人の姿を、フジテレビの中から見つめる少女がいた。大きい鞄を腕に抱きながら、眼鏡越しの目はまっすぐに2人と、そしてデジモンを見つめていた。



___数日前
「ここ最近、不自然なデジタルゲートの出現が確認されています」
 月島総合高校のパソコン室にて、同高校の1年生である泉光子郎はパソコン室にいる面々にそう切り出した。
「以前のダークタワーのような特異点は確認されておらず、光が丘のようなゲートポイントでもなさそうです。ゲンナイさんとも連絡をとっていますが、原因はわからず……。けれど、どうやら日本の、東京に限定されているみたいなんです」
 パソコン室のプロジェクターに、光子郎は東京の地図を表示する。その中にはぽつぽつと赤い点が描かれている。法則性は見た限りなく、まばらに点在していた。
「デジタルゲートが開けるのは、大輔たちのD-3だけなのは変わりないのか?」
 椅子の背もたれを抱え込むようにして座っている八神太一がそう口を開く。現在、このパソコン室にいるのは4名。光子郎、太一、そして男女1人ずつ。全員が同じ制服を着ている。
「はい。僕たちのデジヴァイスではゲートは開けませんでした。それは今も変わりません」
 光子郎は太一の言葉にうなずいて、1度パソコンへと視線を向けた。その後、地図の赤い点のうちいくつかが青く色を変えた。
「ゲートが開くだけであれば、大きな問題はありませんでした。しかし、時々デジモンが迷い込んできてしまうようなんです。残念なことに、感知はできてもデジモンをデジタルワールドに送り返すためのゲートを開くことは僕たちにはできません。そのため、太一さんたちよりも前に、先に大輔くんたちに協力要請をさせてもらっています。幸い、成長期までのデジモンが迷い込んできただけだったので公にはなっていませんが」
「……だからタケルがここ最近忙しそうだったのか」
 金髪の髪の青年__石田ヤマトが納得したかのようにつぶやいた。
「しかし、その回数も少しずつ増えてきていて……。先日、2体同時に出現したケースを確認しました」
「そんな……。デジタルワールドの歪みも落ち着いて、ヴァンデモンも消滅したのに、どうして」
 メンバーの中での唯一の女性である少女__竹之内空がぐっと膝の上でこぶしを握った。空が思い出すのは、約5年前に空たちの力であった紋章を手放した時と、3年前の騒動だった。
「わかりません。しかし今後このようなケースが増えるとなると、大輔くんたちでは対応ができなくなります。できる限り、手数を増やしたい」
「それで俺たちの出番ってわけか」
 太一の言葉に、光子郎はうなずいた。
「東京にいるパートナーデジモンを持つ人の中で、戦えるのは僕たちだけなんです」
「よし! そうと決まれば早速行動開始だ!」
「なーにが早速だって八神ぃ?」
 ガタン、と椅子を蹴とばす勢いで立ち上がった太一。しかしそれとほぼ同時にパソコン室の扉が開かれる。光子郎はとっさにパソコンの画面に広がったウインドウを縮小化した。
「げっ」
「西島先生」
 扉を開いた人物を見て、空が声を上げた。半袖に白衣を着た、見た目だけであれば化学を専攻していそうな男は、扉に体を預けながらも、まるで彼らの行く手を阻むかのように立っている。
「えっと?」
 見覚えがないのか、光子郎は首をかしげる。補足のために声を出したのはヤマトだった。
「書道科の先生だよ。今年4月に来た」
「あぁ、専攻していないのでお会いするのは初めてですね。あれ、でも太一さんは専攻していましたっけ?」
「私たちのクラスの副担任もしているのよ。」
 空の言葉で納得した光子郎はペコリ、と西島に頭を下げた。西島は軽く光子郎に対して手を挙げた。そうしてから太一へと向き直る。
「オープンキャンパスどこにいくか提出しろって言ったよな?」
「あ」
「忘れてたの?」
「さすがに申し込みはしただろ?」
 すっかり忘れていました、と顔に出ている太一にすでに抜かりなく済んでいる空とヤマトが口を挟む。2年になると、そろそろ進路を決めなければ進路先によっては手遅れになる時期でもある。そして一般的にはオープンキャンパスなどの見学先を絞る時期でもある。空もヤマトも、固まり切ってはいないもののいくつかの候補を見繕っている段階だった。
「申し込みはした! しました!」
「だったらはやくリストを出しなさい。学校からのフォローがなにもいらないなら別だが」
「すぐ出します!」
 そういうと、太一は鞄を引ったくるようにして掴むとパソコン室を飛び出した。それを見送って、西島は残った3人に邪魔したな、と伝えて去っていく。
「どうしようか、光子郎君」
「とりあえず、説明は先にしているのでテントモンたちに会いにいきませんか? アグモンは、ヒカリさんにお願いして引き取ってもらいましょう」
 3人もまた、それぞれ荷物をまとめる。とはいっても、パソコンを広げていた光子郎くらいしか、まとめるものもないのだが。そうして、パソコン室から出るタイミングで、ふと光子郎が思い出したように声を上げた。
「そういえば、皆さんの携帯に入れてほしいアプリがあるのですが……」

「八神のやりたいことは?」
進路相談室、ではなく書道室において太一は西島と対面していた。といっても太一はふらふらと書道室を立ち歩いているし、西島はのんびりと墨を磨っていた。緊張感のかけらもない空気がながれるそこでは、太一の態度も自然と崩れていた。進路相談室に駆け込んで提出を済ませた後、なぜか太一は西島に捕まっていた。
「進路調査票は出したじゃないですか」
「ああ。早明大学だろう?ずいぶん偏差値の高いところを選んだと思ってな。勉強は頑張ってるみたいだが」
「……まだ足りないっすかね」
「今後受ける模試の結果次第かな。」
数か月前に提出をするようにと同学年全員に配られた進路調査票。空は母の母校でもある女子大を目指しており、ヤマトも学部までは太一は知らないが東京内の大学を目指している。太一は東京都内の早明大学、その政治経済学部に希望を出している。それを言うと、小学校時代を知っている友達からは基本驚かれる。勉強よりもスポーツばかりやってきた、というのも理由だろう。頻度は中学時代より減ってはいるが、サッカーも変わらず続けている。
「……国家公務員採用I種試験でしたっけ。それを受けたくて」
「公務員か。将来は安泰だな。」
国家公務員採用I種試験。名前の通り、国家公務員になるために受ける必要のある試験であり、大学を卒業する必要はないものの、その難易度の高さから合格者のほとんどは大学卒業生でもある。また、独学では合格は難しいともいわれ、狭き門である。
 そろりと、太一は腰につけたデジヴァイスを触る。過去、別れを経験した友達<パートナー>は、3年前からちょくちょく会っていた。ずっと会えなかった頃に比べたらそれでも十分すぎるものだ。
「友達のいる場所と、この世界の懸け橋になりたいんです。友達の居るところは、まだまだ知名度も高くないし、交流もそんなにないから」
 選ばれし子供のみが交流をもつデジタルワールド。けれどその存在は、少しずつ知られてきている。これまでの事件でも、映像には残らないとしてもいたるところで考察が述べられているのを見てきた。光子郎のように、デジモンの研究をしている者もいるという。
「となると……」
「外交官。外務省に入れたらって。まだ考えている最中ですけど」
「目標が高いことはいいことだが……」
 西島が口を濁す。難易度がとても高い、とでも言いたいのだろうが現実的ではないと思われているのだろう。太一もそれは薄々感じていたが、パートナーを想えばそんな周りの声など、聞こえなかったのと同然だった。
「友達が、俺のことを信じて頑張ってくれているから、俺はその想いに答えたいんです」

2022/8/18

私の考える03 tryとラスエボは一部の設定だけ利用してそれ以外はガン無視したものです。
デジモン熱が来たうちに書きたかった。誰もが想像する02の続編。tryは設定だけは優秀だと思うんです。古代の選ばれし子供達とか、デジモンが周知された世界情勢とか、やれることはきっとたくさんあった。
一番の課題は太一が外交官を目指した理由と、ヤマトが宇宙飛行士になる理由ができる事件の全貌。
どっちも入れると書ききれない気がしたので、太一の方はすでに心を決めた状態にしました。というより、高2で進路が決まっていないと外交官はちょっと現実的ではなさそうなので。
やりたいこと全部書ききれるかわからないけれど、せっかく1話ができたので公開。続きが文章になるかはわかりません。



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