知らない、知っている。

サイバースルゥース/ハッカーズメモリー

「どっか飯でもいくか」
無事に就職先が決まったフーディエのリーダー、龍司がそう言えば焼き肉だとか寿司とか声が上がる。
ここはハッカーチーム、フーディエの隠れ家でもあるネットカフェ。龍司の親が経営主ではあるが、実際は龍司とバイトをしている千歳、フーディエのリーダーと副リーダーが運営している状態だ。
そして、そのフーディエに入っているメンバーは2人。僕、ケイスケと優だ。超少人数で運営されている。
「前回は焼き肉だろ?次は寿司がいいなぁー。ケイスケもそう思うだろ?」
「んー」
「誰が奢るっていった。前回も俺にたかりやがって」
「がんばれよ先輩」
「よし今日は千歳のおごりだ。高いところいくぞ」
「ちょっとぉ!?」
店を千歳が好意を抱いているバイトさんにお願いし(後で土産を持ってくると約束した)、外へとでた。
季節は冬。日差しが強いこともあり、そんなに寒くはない。まぁ日陰に入るとやっぱり寒い。12月とかよりは暖かいけれど。
フーディエは池袋にある。すこし歩くだけで、買い物も観光もできる。水族館はちょっとした人気だ。
「つってもどこ行くよ?」
「あ、最近できたところは?」
「あそこか。」
寿司が良い、などと良いながらもなあなあでどこ行くかが決まる。これっきりな訳でもないし、特に誰かが文句を言うことはない。そうして歩いていくと、ふと龍司の足が止まる。疑問に思いながら優と僕は足を止めた。視線の先には、1人の少年がいた。たぶん、僕たちと同じくらいだろうか。
「・・・・・・真田」
「よう。龍司。偶然だな」
龍司の知り合いらしいが生憎僕たちは知らない。その様子に気がついたのか、千歳が近づく。
「真田アラタ。俺たちとはジュードで知り合ったんだ。ジュードの元リーダー。」
「え!?あの伝説のハッカーチームのリーダー?」
「なにそれ?」
「ケイスケ知らないのかよ、過去にあった伝説のチームだよ。何事にも縛られない、自由なチーム!もう解散したって話だけど。」
優のその声が聞こえたのか、彼はすこし視線をそらした。なにかしら思うところがあるのだろうか。しかし彼はすぐにその表情を消して、こちらを見た。
「なんだ、また新しい後輩が入ったのか」
「まあな。龍司もカミシロに就職が決まったんだぜ」
「カミシロに?へぇ、まぁ良いとこだとは思うけど。おめでとう」
「ああ」
少しというかどこか不思議な関係な気がする。具体的には言えないけど、不思議な感じだ。お互いがお互いのことを知っているけれど、なにかが食い違っている、ような。彼と会うのははじめてだから、なんともいえないけど。気のせいかもしれないし。
「っと、邪魔してわりぃな。」
「久々に会えてよかった。それじゃあな」
「今度どっか遊びにいこうぜ」
「ああ」
彼はそういってこちらの横を通りすぎようとする。そして、丁度僕のすぐ真横で足をとめた。
「そうだ、妹にもよろしく伝えてくれ」
「妹?俺に妹はいないが」
「誰かと間違えてるんじゃねぇの」
「___そうだな、わるい。別のやつと間違えてたわ。じゃあな」
今度こそ、彼は足早に去っていく。曲がり角を曲がったためか、すぐに姿は消えた。
「どうしたんだろうな?」
「さあな。おい、さっさといくぞ。」
龍司たちが先に進んでいく中、僕は彼が消えた方向に目を向けていた。単純に彼が間違えていただけだろうか。唐突に、フーディエの倉庫になった部屋を思い出す。本当に、フーディエはこのメンバーでずっとやって来ただろうか。やってきた、合っている過去を疑う。
「ケイスケ、どうした?おいていくぞー」
「あ、え、待って!」
声をかけられて、僕は3人のいる方向へと駆け出した。





「・・・・・・」
「わっ」
「うお!?なんだタクミか」
黙って一方方向を見つめていたアラタの背後から近づけば、驚きで肩が震えたのを見られた。アラタは本気で気がついていなかった様子だ。
「どうしたの?」
「いや、フーディエの連中を見つけてな。・・・・・・やっぱり、なにも覚えちゃいなかった」
「ふーでぃえ?」
聞いたことのない名前に首をかしげる。おたく知らないのか、なんて言われれば、うなずくしかない。
「ザクソンに関わっていたハッカーチームだ。便利屋とか言われてたみたいだな。タクミのところの依頼みてぇなもん請け負っていた。」
「へぇ。」
「あのときはリーダーだった龍司の妹がいたんだ。・・・・・・どういう経過かは知らないが、末堂と同様に存在がなくなってるみたいだな。」
末堂といえば、イーターと同化しそのまま人間として戻ってこなかった人物だ。新たな世界を求め、帰ってくるのを拒んだ。彼には、きっとそれがよかったのだろう。しかし、それと同じような選択をした存在がいるなんて。というか、選択したってことはそういう状況になったということだ。あの場所には俺たちしかいなかったけれど・・・・・・
「勘違いとかではなく?」
「間違いねぇよ。会ったこともあるからな。・・・・・・まぁ、フーディエもデジモンと関わりがあったチームだ。なにかがあったのかもな。龍司も、色々あったし」
そこまで言って、アラタは口をつぐんだ。どうやら詳しく話すつもりはないらしい。ジュードのことも、あまり詳しく話したがらないアラタ。俺は別にそれでもいいと思う。今は仲の良い友人でも、ずうっと一緒にいたわけでもないし。人間1つや2つや3つ位は隠したことがあるだろうし。
「ふうん?ところで、なんで池袋に?」
「ちょっくら暇つぶしにな。タクミは?」
それを聞いて、やっぱり声をかけて正解だったと気づく。
「バイト!ちょうどいいや。暇なら手伝ってよ」
「ああ?碌なことなら容赦しねぇぞ」
「ねこさがし」
手伝ってもらうつもりでそういえば、アラタはきびすを返した。
「んじゃ、帰るわ」
「いいじゃんよ暇でしょ!?」
「いや今やることができた」
「嘘つけ!」
「ほんとほんとーあーいそがしいいそがしい」
めんどくさいからやってやるか、という魂胆が見え見えのアラタの後をついていく。来んな、と怒られてもめげない。怒られるのはもう慣れた。きっとしばらくすれば諦めて手伝ってくれる。それが日が暮れる前だととても助かるのだけれど。

あの事件は、あの出来事は、この8年間のもう1つの歴史は、多くの人が経験しながらも、覚えている人はほとんどいない。あの歴史でしった人物が、今回はただの他人であったり、人生さえも違っていたりすることがある。けれど、それが俺たちの下した決断。それが本当によかったかなんて、誰にもわからない。覚えている俺たちも、覚えていない人たちも、きっとよかったと思う面と、良くないと思う面があるんだろう。しかしこの決断はもう揺らぐことはない。

もし僕が世界の命運を決められたら、漫画やアニメの主人公になれたら。そんなことを思っても、世界はどうにもならないし、過去は変わらない。大きな決断をしなくとも、人は皆、それぞれ小さな決断をして、未来を作っている。いくら後悔しようとも、懺悔しようとも、その決断はもう覆すことは出来ない。

ナニカが欠けていても、この世界を生きていくしかない。


2018/01/11


inserted by FC2 system