精進料理

FGO

このカルデアでは日本食が提供されることが多い。それはマスターである少女が日本人であるからも一つ、とあるスタッフが日本食が好きなのも一つ、日本に所縁のあるサーヴァントが多いのも一つ。しかし一番理由として大きいのは、カルデアの主戦力であるサーヴァントがどちらも純粋な日本人であった、ということだ。といっても、食堂の戦力は日本に所縁のあるサーヴァントだけではないため、あくまで他の国籍料理よりは多い、といった程度だ。

「おっはよー!」
「おはようマスター。今日の定食はAからDだ。タマモキャット殿に要望を伝えてくれ」
「はあい」
このカルデアの唯一のマスターは、食堂の台所に立つ唯一の男性サーヴァントに返事をすると、メニュー表に駆け出した。もともとサーヴァントは食事が必要ではないが、人間であるマスターにとっては死活問題となる。なので食堂を利用するのは人間だけ、であるはずなのだが、食事に興味があったり、過去の記録から食事を食べることが日常になっているサーヴァントも、多く食堂には見受けられる。逆にスタッフのほうが少ないくらいだ。
マスターはあたりを見回して、サーヴァントたちが食べている定食を覗いた。今日はステーキが人気、とマスターは理解し、ふととあるサーヴァントが食べている食事に興味がひかれた。そこにはこのカルデアの主力メンバーである、沖田総司と織田信長がいた。くるり、とメニュー表から背を向けて、2人のそばへと赴く。
「おはよう、沖田さん、ノッブ。何食べてるの?」
「おおマスター!マスターも一緒に食べるか?」
「おそらくエミヤさんにいえば出していただけると思いますよ。メニューにはない、特別仕様です」
2人の前には多くの小皿にのった多彩な料理が並べられている。他のサーヴァントからは物足りない、なんて言われそうなほどの量だ。
「なんの料理?豆腐とかはわかるけど……」
「精進料理、というものです。」
「うーんと、なんだっけ、仏教がかかわってるやつ?」
「その通りだ。といっても、現代ではあまり馴染みのないものだがね」
「あ、エミヤ」
マスターの後方から、エプロンを外したエミヤは現れた。片手で2人とおなじ料理を持ち、空いている席へと置いた。
「たまにはこういったものもいいだろう。座りたまえ、マスター」
どうやらそれはエミヤのものではなく、マスターに向けられたもののようだ。おそらく精進料理に興味を示したマスターをみて用意したのだろう。
マスターは素直に椅子へと座った。
「仏教の思想にある殺生の禁止や、五葷の禁止からこの形式の料理が生まれたんですよ」
「これのおかげで味が薄くてまずい料理がおいしくなったともいうな!」
「今の日本料理にこれの調理方法は多く活用されている。」
「へー、だからお肉とかないの?」
料理には主に豆腐やひじき、野菜が使われてはいるが、肉料理が一切ない。しいて言えば、ニンニクといった刺激の強いものも使われていないのだが、そんなに料理をしないマスターは気が付かない。
「でも急にどうして?日本食ならいつもエミヤと清姫が作ってくれるよね?」
「さあの。わしは冲田が注文していたから便乗しただけだからな」
「あ、そうなんだ」
織田信長の言葉で、マスターは沖田総司のほうを向いた。すでに食事を終え、のんびりと日本茶をすすっている。
「本日は5月17日ですから」
「……ええっと?」
「ごちそうさまでした。エミヤさん。」
「お粗末様。予定通り、四十九日まででいいかね?」
「はい。お願いします」
沖田総司はそういうと、すっと立ち上がり、マスターに一声かけてから食堂を後にした。食堂にあふれるサーヴァントで騒がしいこの空間が、なぜか静かに感じたと、のちにマスターは語った。
「……マスター、君は学生時代に日本史の勉強はしたかね?」
「へ?まぁある程度は。って忘れそうになるけど私はいまも学生だよ」
「では彼女の最期を、そして新選組に関する人物の最期は知っているかね?」
「え、まぁ。冲田さんのことは、うん。文献もよんだから、土方さんとかも、ある程度は」
 マスターとエミヤの会話を、織田信長は日本茶をすすりながら聞いていた。沖田総司ほどの理由がないため、厳密にやるつもりは到底ないが、今日くらいは付き合ってやろうとは思っている。今日の、そして今回の行動は、沖田総司なりのけじめだ。本来ならば、する必要がない。そしてエミヤとの四十九日まで、という言葉。そこまで言われれば、ある程度の想定はつくというもの。
「ふん、ここまで女々しいとはなぁ」

「え!?あ、も、もしかして……」
「おそらく彼女は普段通りのかかわりを望むだろう。通常通り関わったほうがいい」
「そ、それを聞いて普段通りって無茶だよ!?」




それはすでに過ぎたことであり、なにかができるわけではない。それでも、ちょうどこの時期に差し掛かって、死後に知った事実に悲しみを抱いた。親族ではないけれど、今更ながらなにかしたかった。今回のこれは、ただの足掻きだ。

「お、沖田さん……」
後ろからかけられた声に、私は足を止めた。おそらくエミヤさんから聞いたのだろう。ノッブは察してはいても詳細は知らないだろうし。
「お気になさらず。私が好きでやってることですから」
「でも……」
マスターは優しい。そして強い。だからこそ、マスターとして立っていられるのだろう。
「……ありがとうございます、マスター」
その強さが、うらやましい。


2019/02/10

最初は沖田さんがエミヤに精進料理を頼むだけの話だったのにどうしてこうなった。
うちデアでは土方さんいないし、実は冲田さんたちのイベントも茶々加入のやつしかしていません。解釈違い、あると思います。



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