三騎士パラレル

Fate

雰囲気でご覧ください。

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子供の悲鳴が聞こえる。痛い、痛いとうめく声が聞こえる。手をのばした。けれど手をのばす力がなかった。だらりと落ちた手は誰かをつかむことはしない。ただ穢れた天井を見つめて、地獄の終わりを願った。
時間の感覚など、とうの昔に失われていた。声が聞こえ始めてどのくらい経ったかなど、もう覚えていない。
「__大丈夫か?」
隣から聞こえた声に視線を迎えると、自分と同じ布きれに身を包んだ少年がいた。彼と出会ったのは、いつだっただろうか。
「___、___」
「ああ、いい。無理にしゃべるな。無理矢理魔力を流されてんだ。オレとかならともかく、アンタにはきついだろ」
飲めるか、と水の入った入れ物を渡される。けれど手は伸ばせず、ただぼうっと見つめるだけとなった。其れを見て、彼はだよな、とつぶやいた。
「___でいいのでは?」
「いや、男同士で?」
「別に私は気にしませんが・・・・・・そういうことなら」
目の前の入れ物が消え、次の瞬間には目の前に金髪の少女が現れた。そうして顔が近づいてきて、やられることを理解した。身をよじったが、それよりも早く口の中に水が注がれる。抵抗する暇もなく、水は喉を通っていった。
「大丈夫です。この地獄はもうすぐ終わります。私たち3人がいればきっと___」
少女が言った言葉の全てが耳にはいることはなかった。けれど、それと同時に与えられた手へのぬくもりが、どこか安心させてくれた。



「___、」
「お、気がついたか」
ふと意識が戻ったとき、いつもの声は聞こえなかった。足が浮いていてどこか不安定で、目を開ければ目の前には蒼い髪が見えた。抱えられている、そう気がついたとき思わず体がのけぞった。
「おっと、危ねぇだろうが、落ちたらどうすんだ」
少年がそう言うが、こちらは落ちても構わなかった。もっとも、そのあと起き上がれる自信はないが。
「起きたのですね。もうすぐここから出られますよ」
「出口は?」
「こちらに。私がこじ開けるのでついてきてください」
「こじあけ・・・・・・オレがやろうか?」
「問題ありません。」
2人の会話を聞きながら、地面を見る。久々に見た地面は、草花のない、荒れた地だった。少年に抱えられ、しばらくすると塀が見えた。とある一面は、強固なワイヤーが張り巡らさせており、それを一瞥した少女はそのまま近づくと、手を添えて力を入れた。本来ならば固くて動かないそれは、まるで柔らかい素材で出来ているかのように、ブチブチと音を立ててちぎれていく。残ったのは、人が通れるほどの穴だ。少女は警戒しながらその穴をくぐり抜けると、こちらに、と合図を送った。
穴の先は、先ほどの景色とは全く違う、森に囲まれた地だった。先ほどの世界とは、まるで別世界のようなそれは、これが夢であるような錯覚を覚えさえた。
「ほら、いくぞ。」
「私たち3人なら大丈夫ですよ。さ、行きましょう」
少年が私をかけ直して、少女が手を差し伸べた。きっと、受けてきた仕打ちは同じであるはずなのに。私には2人が天使に見えた。


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「セイバー、おやつが出来たぞ」
「いただきます。おや、ランサーは?」
「釣りに出ると言っていた。今日の夕食は魚の予定だ」
「ふふ、アーチャーの料理は絶品ですから。何でも大歓迎です」
あの地獄からの脱出のあと、私たちはあの森からも逃げだし、遠くはなれた地にきていた。正直、ここがどこかなんてわかりはしない。2人に導かれるまま、たどりついた土地で、ただただ生きていた。
来たばかりの頃にはおんぼろだった小屋も、改良を重ねに重ね、いつしか雨風以外も防ぐようになった。
3人での奇妙な生活が始まって。いつの間にかそれが普通になった。2人はきっと、本来の家族がいるはずなのに。ある時、私は2人に聞いた。本来の帰るべき場所があるのではないかと。2人は目を合わせて、笑った。
『アーチャーを置いて、いなくなることなんてしない』
それに、もう行方知れずになって長いですから。好きなようにやれるから、オレはこっちの方が性に合ってるしな。
そうか。とつぶやけば、2人はさも何事もなかったかのように話を変えた。私に、同様の質問はしなかった。それがどこか、私を安心させた。
私には、あの地獄にいた以前の記憶はない。私の始まりは、あの地獄だった。その前になにをしていたのか、家族はいたのか、そういった情報は、持ち合わせていない。だからといって、困ったことは1つもない。それはきっと、2人の配慮のおかげなのだと思う。
「もどったぜー」
「おかえりなさい」
「大漁大漁。ちょいと釣りすぎたか?」
「使い道はある。氷の入った箱があるからそこに入れてくれ」
「あいよ」
ランサーが魚を詰めている間に、お茶とおやつを用意する。といってもおやつはすでに半分ほどはセイバーの口の中だ。それに気がついたランサーが早々に戻ってきて、まるで奪い取るかのようにおやつを口に入れた。
「別に焦ることはありませんよ。」
「いや、全部食べる気だっただろ」
「そんなことはありません」
「オレの目をみて喋れよ。おいこら、目をそらすな」
2人のやりとりを眺めながら、思わず顔がにやけた。年齢だけで見れば、おそらくは私よりもちょっとだけ年上。実際の年齢はわからないからあくまで感覚だが。そんな彼らと、こうして穏やかな日々を過ごす。いつまでこれが続くのか、いつまでも続けばいいのに。そう思えば思うほど、世の中そんなに甘くないと考えさせられる。そう、私たちの生活は、もうすぐ終わりを告げる。
3日前、とある手紙がこの小屋に届いたからだ。



その手紙を受け取ったのは、セイバーだった。私が近くの村で買い出しを済ませて戻ってみれば、その手紙をランサーと共に眺めていた。こちらに気がついて、とっさに隠そうとしていたが、後の祭り。私の目は、しっかりとその手紙の内容を視界に入れた。
「・・・・・・いつから?」
「かれこれ、1ヶ月になります。こちらが無視しているのは、あちらも気がついているようですね」
それは、魔術によって守られた特殊な手紙だった。魔術師が使う魔術は多種多様にわたるため、さらに言えば私に魔術の知識はあまりないため詳細はわからないが、おそらくそういったたぐいのものだろう。
「こりゃケナーズかベルカナでも使われたか?ルーン魔術の名残が残ってやがる。」
「ということは、そちらの家系が関わっているのは間違いないようですね。・・・・・・もっとも、私の家も関わっているようですが。」
2人が手紙を見ながらあれやこれやと話し始める。それを横目に、手紙の内容をゆっくりと理解した。
おそらく何度目かの手紙なのだろう。手紙を無視しないようにとの警告と、後日こちらに向かい、私たちを保護する言葉が書かれている。
本当にこちらを心配しているのだろう。
「・・・・・・会わないのか?」
そう聞けば、ランサーが明らかにため息をついた。
「あのなぁ。そんなことした日にゃめんどくせえことになるんだぞ。俺たちが”どういう存在”か忘れたわけじゃないだろ」
「それは、そうだが。」
「私やランサーの家系は、魔術に通じています。ただの失踪ならば、後継者も別にいますのでここまで捜索することはないでしょう。けれど、こうして何度も警告をし、今回にいたっては直接ここまで来るという。なにかしらの裏がある、と考えていいでしょう」
確かに、私たちはあの地獄で“人ではなくなった”。もしかしたらそれが、魔術を嗜むものにとって喉から手が出るほど欲しいものなのかもしれない。だが
「私たちが“ただの”人間に負けると?」
「「・・・・・・」」
2人は私の言葉に口を紡ぐと、それからにやりと笑った。
私たちは人間ではない。人という皮を被った、別の存在だ。だからこそ、たとえ魔術に通じていたとしても、こちらに敵うことはない。
「んじゃ、もしなにかあったら正面衝突だな?」
「ふふふ。まさかアーチャーがそういうとは思いませんでしたが、そうでしたね。私たちがあちらに負けるはずがない」

それから、いつか来る人物たちを待ちながら、変わらない日々を送っている。近くに誰かが来れば、ランサーのルーン魔術によって張り巡らされた結界が知らせてくれる。その時が、この日々の終わりだ。


まさか、貴方がくるなんて。そうつぶやいたセイバーの目の前には、同じ金髪をなびかせた、長身の女性がいた。まるでセイバーが成長したら目の前の女性になるかのような、美しい女性だ。
「私がきたらおかしいのか」
「・・・・・・いいえ。少々想定外でしたので。後ろにいるのが、アルスターの者ですね」
女性の後方にはフードをかぶった男。ランサーと同じ長い蒼髪が風によってなびいている。
「おうよ。どうやら愚弟がここにいるようでね。面倒だったが師匠からの言付けもある。連れ戻しに来た。」
それで、愚弟はどこにいる?男の問いに、セイバーは無言にて答えた。これまで手紙を無視していたこともあり、2人はそれを気にした様子はない。小屋周囲の自然を見まわして、くるりと男が後ろを振り向いた。それがまるで合図だったかのように、セイバーの剣と女性の槍、男の杖とランサーの槍がぶつかった。
「戻ってくる気は早々ない、ってか?」
「さあな。だがただ連れ戻しにきた、ってだけじゃねぇだろ。キャスター」
「今更ながら現れた理由でも聞きましょうか、姉上」
「ふん。ただ家族を心配してきた、とは別の理由があることは伝えておこう」
「貴方から心配、という言葉がでてくることに驚きですね」
一触即発。4人が衝突をすれば近くの小屋が崩壊するのは目に見えていた。そしてここでなにか騒ぎを起こせば、ここに何かがある、と感づかせることにも繋がる。だからこそ、4人の動きはそれ以上なかった。しかし、互いに動きを見せれば、互いの武器が相手を貫く。
「あの、そこまでにしたらいかがですか?」
そんな状況は、別の場所から聞こえた5人目の声で霧散した。
「止めるのか、アインツベルン」
「ええ。少しお聞きしたいのだけれど、ここに私たちの大切な息子がいると思うんだけれど。」
銀の長髪をなびかせた女性は、そう言ってゆっくりと4人に近づいた。ランサーがくるりと体を動かし、セイバーの隣へと立つ。
「・・・・・・そうだ、と言えば?」
「会うことはできるかしら。無理に、とは言わないけれど・・・・・・」
「アインツベルン。ホムンクルスの製造で名高い魔術の一族が、彼になんのようだ」
「ただ、会えればと。私の大切な息子。生きていてくれただけでもうれしいわ。一目でも会えれば、それでいいの。欲を言えば、また一緒に暮らしたいのだけれど」
「あんた、魔術師だろう。それだけが理由か?」
ランサーの問いに、女性は首をかしげた。まるで、その質問の意図がわからないかのように。
「行方知れずだった我が子に会いたい。それ以外に理由なんてあるかしら?」
女性の言葉に、セイバーとランサーは言葉を失い、残りの2人はため息をついた。魔術師であれば、人ではなくなった、けれど魔術に通ずる者をそう易々と見逃すことはない。身柄が確保できれば、その身体を実験に使うだろう。それがセイバーたちの見解だった。そしておそらく、2人もその考えがあっただろう。しかし、アインツベルンの女性は、まるでそのことを考えていないかのような言葉を発した。裏で何を考えているかはわからない。女性の背後は、2人と同じようなことを考えているかもしれない。しかし少なくとも、セイバーたちには女性は“信用するに値する”人間であると判断された。
セイバーたちは武器を消した。それに併せて2人も武器をしまう。
「・・・・・・貴方が彼に会いたいという理由はわかりました。けれど、1つお願いがあります」
「何かしら」
「彼が“どういう状況”か。すぐにわかることでしょう。なので、あまり刺激しないでください」
セイバーはそう言うと、小屋へと続く扉を開いた。
「終わったかね?」
「ええ。終わりました。ここでの生活も、ずいぶんと満足していたのですが」
「別に、生涯の別れではなかろう」
小屋から現れたアーチャーは、来訪者である3名を一瞥する。そうして、君たちの迎えか、と口にした。
「ええ。ちなみ言えば、あちらの女性はあなたの迎えですよ。アーチャー」
「そうか。」
アーチャーは、アインツベルンの女性に視線を向けた。女性はアーチャーを見て、手を口元に当てて、ほろりと涙をこぼしていた。アーチャーはそれを確認して、一度視線をそらした。
「きっと、貴方にとってはそうではないのかもしれないが。___初めまして。生憎真名は思い出せなくてね。アーチャーと名乗っている。よろしくお願いするよ。」
女性はその言葉に目を見開いて、さらに涙をこぼした。


2018/08/22

ここまで書いて力尽きた。三騎士は幼少の頃に連れ去られてなんか実験体にされて本編で言うデミ・サーヴァントみたいな存在になっている状態。迎えに来たのはアルトリア(ランサー)とクー・フーリン(キャスター)とアイリスフィール。
この後アーチャーが冬木に帰って士郎や凛たちと再会したり、サーヴァントとして凛をマスターとして見いだしてその後セイバーたちも来てしっちゃかめっちゃかになっている間に聖杯戦争が始まる、という所まで考えました。
単純にセイバーとランサーに守られてるアーチャーが書きたかった。



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