琴の音

Fate

音が鳴った。彼女の言葉に首を横に振った。彼女は悲しい顔をして、私の手を握った。穢れた手だ。きれいな彼女の手にはふさわしくない。そう伝えれば、彼女は貴方もきれいですよ、と笑った。
音が鳴った。彼の手をはねのけた。武器と武器がぶつかった。変わっちゃいねぇなと、相変わらずの口の汚さで、彼は言った。君も、変わらないなと私はつぶやいた。
音が鳴った。主の言葉に、私は答えなかった。彼女は私を見て、死んでもなんとかは治らないか、といった。未熟者と一緒にするな、と私は言った。
音が鳴った。涙を流す後輩に、私はなにも言えなかった。先輩は変わりませんね、と彼女は泣きながら微笑んだ。
音が鳴った。酷い鏡を見ているようで、憎悪に苛まれる。お互い様だ、と鏡は言った。昔の自分はこうだったかと、すでに失われた記憶が揺さぶられた。
音が鳴った。私の近くを、妖精が走り回った。彼女はふんわりと白いワンピースをなびかせて、私の手に触れた。しかたないなぁと、彼女は言った。お姉ちゃんだからね、と彼女は私の前で笑った。

ふと、見慣れた空が目に入った。広がる荒野と、軋んだ歯車が視界を埋める。長い間見続けた剣が荒野を埋め尽くす。血にまみれた手が、使い慣れた剣を握った。なぜ剣を握ったか、はてさて、先ほどなにかを見た気がしたが、それがなにかは思い出せず。消耗しきった身体は、動くことをやめていた。だからか、まるで生前のように。ゆるりと目を閉じた。

「大丈夫。弟を守るのはお姉ちゃんの役目だもん!一緒に死んであげる」
妖精がそうって私に手を差し伸べた。彼女が一番つらいはずなのに、そうった表情は見せず、私を抱きかかえた。見た目だけを見れば、それは逆であるはずなのに。弟として、ただ姉にすがった。

「あんたは、じいさんの夢を叶えたんだろ?」
まるでうらやましそうに、鏡は言った。それは、私と鏡は根本が一緒だったから。私たちの始まりは、あの大災害であり、そして養父の言葉だった。あの言葉で、私たちの標は定まった。

「先輩、お願いですから、自分を大切にしてください」
後輩はそうって涙を流した。君がそれをいうのか。と問えば、だからこそです。とまっすぐ私を見た。私は君の先輩ではない、と続ければ、いいえ、いいえと彼女は言った。たとえ貴方が何を言おうとも、先輩は先輩なんです。涙を流したまま、彼女は私の胸へと飛び込んできた。

「あんたは私のアーチャーでしょ?マスターの言うことには従うのよ!」
主はそういって、すでにない令呪が合った手の甲を見せた。すでにマスター契約は破棄されている、と伝えても、私のアーチャーであることに変わりはないでしょう?とさも当然のように彼女は言った。敵わないなと、私は両手を挙げた。

「手前の心臓は俺がもらい受けた。だからか、やな因果が結ばれちまったようだな」
やれやれと、彼は槍を収めながらそういった。何度目か、数えるのもやめたほどの邂逅を経て、まるで腐れ縁のように、私と彼は出会った。こちらがありありと嫌であると示すと彼もまた、同じような顔をしてみせた。けれどすぐに、諦めたように溜息をついて。止めだ止めだ、と手を振った。

「私は、貴方のセイバーではない。けれど、同一の存在でもあります。貴方のセイバーの気持ちは、私にもわかります。だからこそ。」
共に参りしょう。彼女はそう言って、手を差し伸べた。けれど、何故か手は動かず、その手をとることは叶わなかった。それでも、彼女は笑みを浮かべて、大丈夫ですよ、と言った。必ず、迎えにきますから。
彼女はそう言って、私を抱き留めた。

___音は、鳴らなかった。

2018/09/17


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