夏。

IDOLM@STER

「あっづー」
「あはは……すみません。」
315プロダクション内にて。赤い眼鏡がトレードマークの青年がソファーにてうつ伏せに倒れこんだ青年へと頭を下げた。
「なんでこんな暑いんですか……」
「昨日の夜からクーラーが壊れてしまっていて……。明日の朝には修理されるんですが」
「今日一日は我慢ってことですか……」
眼鏡の青年は唯一の安らぎである扇風機を寝ている青年へと向けた。寝ている青年は起きる気配はなく、力なくソファーに身体を預けている。
眼鏡の青年を山村賢、寝ている青年を、天ヶ瀬冬馬という。冬馬はJupiterというアイドルグループのリーダーを務めている。過去に961プロに所属していた経歴を持ち、一度は引退している。しかし今度は315プロにて返り咲き、一躍有名となった。すでにレギュラー番組も獲得し、それぞれドラマなどにも出演している。そのためか、プロデューサーと連絡は取るが、めったにこの315プロの事務所には戻ってこない。ましてや冬馬は高校生でもあるため、学業とアイドルのかけもちで忙しい身だった。
「あれでしたら一度家に戻ってはどうですか?」
「2時間後に近くで撮影。戻ってもゆっくりできない」
「あー……」
忙しいということは冬馬にとってはうれしい悲鳴でもあるが、少しでもゆとりがほしいと思うのは仕方のないことか。
「ちわーっす!!」
そんな会話をしている時に、315プロの扉は大きく開かれた。山村の目線が扉に注がれる。そこには5人の集団グループがいた。ぼそりと冬馬が「元気がいいな……」とつぶやく。
「あれ、今日は皆いないんすか?」
「ええ。皆さん出ていらっしゃいますよ。ああ、でも」
「珍しいですね。いつも誰かしらいるのに」
5人の集団グループ。High×Jokerという高校生アイドルグループだ。5人はそれぞれ事務所の中へと入ってくる。
「今日は合同練習があるんだよな」
「まだ、2時間ある……」
「げっ。早すぎたっすか?」
あたりを見渡す1人の少年は、扇風機が一か所を向いていることに気が付き、そちらに近づいた。
「循環させた方がいいっすよねー!」
「あ、四季くん、それは」
山村が止めようとしたが、四季と呼ばれた少年はそのまま扇風機に手をかけて、動きを止めた。他のグループの者たちがどうかしたのかと近づく。四季はわなわなと身体を震わせていた。
「と、」
「シキ―?」
「と、冬馬さん!?」
四季の声で少年ら全員がその方を向いた。ずっとソファで寝転んでいた冬馬はその声でゆっくりと身体を起こす。
「あっついのに元気だな……」
冬馬は髪をかき上げると立ち上がり、扇風機を少年らの方に向けた。
「同じ高校生ですが」
現役高校生チームのHigh×Joker。冬馬もまた、17歳という高校生であるため、ほとんど同い年にあたる。
「そーだけどそーじゃねぇよ。山村さん、上って今空いてるんすか」
「空いてますよ?15時からミニライブのレッスンで使いますが」
「ふうん。んじゃちょっと借ります」
「仕事前に呼びましょうか?」
「14時に声かけてください」
「わかりました」
冬馬はそういうと、カバンを持って事務所を出ていった。事務所の上はちょうどレッスン室であり、315プロのアイドルたちは基本そこを使って練習している。
「……、なんか俺まずかったっすか?」
「騒がしくしちゃったかな……」
「違うと思いますが……。」
四季と隼人が気まずそうな表情を浮かべるが、山村はあいまいに言葉を返した。

「……」
足音だけが、階段に響く。たどり着いたレッスン室には誰もいないようで、静かだった。少し乱暴に扉を開け閉めして中にはいる。
誰もいないことを再度確認してから、冬馬は壁を背にして座り込んだ。
そっと溜息をついて、頭を抱えた。
「ったく……」



「こんにちはー!」
勢いよく扉が開き、事務室に現れた1人の少年。すでにいるHigh×Jokerもメンバーの視線が扉の方を向いた。
「あれ、ハイジョじゃん。久々―!」
「翔太さん。」
「お久しぶりっす!」
御手洗翔太。Jupiterの1人であり、ダンス担当。年齢は14歳と幼いが、実力は大人に負けることはない。
「今日はハイジョだけ?」
「あ、いえ、冬馬さんもいるんすけど……」
ばつの悪そうな表情を浮かべる四季とHigh×Jokerのメンバー。翔太はそれを見て首を傾げた。
メンバーの1人、旬が代表して簡潔に何があったのかを翔太へと伝える。すると翔太は話を聞いてから笑い出した。
きょとんとする彼らを横目に、翔太は目に涙を浮かべながらも笑う。
「とーま君ってばほんとっ……。冬馬君は別に、君たちのことが嫌なわけじゃないと思うよ」
心を落ち着かせながら、翔太は話をつづけた。
「961プロにいたときって、ファンとの接点ってなかったんだよね。315プロに来てからサイン会とか出るようになってファンと関わるようになったけど……。それでもやっぱりおねえさんが多いんだよね」
「それとなんの関係が?」
「慣れてないってこと!男の、しかも自分と同い年の人にちやほやされることにね。だからどう対応していいのかわからないんだよ。その結果、不器用になっちゃうんだよねぇー」
翔太はそこまで言うと、山村に冬馬がレッスン室にいることを聞いて事務室を出ていった。おそらく冬馬のところに向かったのだろう。
残った面々はそれぞれ顔を合わせる。
「ええっと……?」
「……とりあえず、四季君たちの行動で冬馬さんを怒らせたわけではない、ということはわかりました。」
「うん……出るとき、気まずそうだったし」
「「「「「……」」」」」
5人(特にその中で3人)は目線を合わせると、にっこりとほほ笑んだ。

レッスン室が騒がしくなる1分前
(とーま君ってばあーゆーことしてるから近寄りがたいって言われるんだよ)(うるせぇ!)

2015/08/12

*呼称が公式と違いますが仕様です



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