距離が測れない

IDOLM@STER

「あ」
「あ」

事務所の入り口で、扉を開けようとした長身の男性と、制服に身を包んだ青年。ばったり、という言葉がふさわしいかのように、偶然2人は顔を合わせた。

「おはようございます」
「おはよう」

すぐに言葉を返したのは制服の青年、冬馬だった。どうやら学校帰りにそのまま寄ったようで、学ランに身を包んでいる。といってもすでに夏服のために上はワイシャツだが。男性はラフな格好をしているが、冬馬の挨拶で気が付いたかのように扉を開いた。扉があくと、涼しい風が肌にあたった。中に入れば相変わらず山村賢がいた。プロデューサーは相変わらずいない。2人は挨拶をすると思い思いに事務所のソファに腰を落ち着ける。
冬馬にとって目の前にいる男は初めて見る人物だった。おそらくアイドルか、アイドル候補生なのだろう。いまだ冬馬には会っていないアイドルが多すぎた。しかし、名前を聞くタイミングもわからなかったためか、カバンから音楽プレイヤーを取り出すと耳につけた。一緒に楽譜も取り出し、音へと耳を傾けた。今度のある番組のゲストで他のアイドルグループと1曲披露することが決まっていた。Jupiterとして久々の主演であり、他のアイドルとの協調性も問われる。
冬馬はそのまま目をつむった。目の前に同じ事務所の男がいることも気にせず、音楽へと意識を向けた。

「あれ、もしかしてJupiterの?」
「わあー!ほんもの!」

冬馬が音楽に意識を向けている間に、事務所には人が増えていた。目を開けると、目の前にいた人間は3人に増えていた。

「こんにちは」
「こんにちは!」
「どうも……」

3人のうち1人、金髪の少年は冬馬が気が付いたことがうれしいのかすぐに近寄ってきた。

「はじめまして!Beitのピエール!よろしくね、冬馬!」
「同じくBeitの渡辺みのり。よろしくね」
「鷹城恭二だ。」
「……Jupiterの天ヶ瀬冬馬。よろしくお願いします」

イヤホンを外しながら3人と自己紹介を交わす。そういえばCDデビューが決まったユニット名だったかと記憶の中から掘り出す。見た限り、ピエール以外は冬馬よりも年上だろう。

「冬馬、今日はお休み?」
「いや……今日はボイトレがあるから」
「Jupiterは毎日忙しそうだよね」
「まぁ、学校もありますので」

ぽつりぽつりとBeitと冬馬の奇妙な会話は続いた。お互い距離を測りかねているのだろう。山村はそれをニコニコしながら見ていた。助ける様子は全くない。
そうこうしている間に、再び扉が開いた。目線をそちらに向けると、そこにいたのはJupiterの伊集院北斗だった。

「チャオ。早いね冬馬」
「学校が早く終わったからな。まだ翔太はきてねーぞ」
「それじゃあ、翔太が来るまで待機かな。」

北斗はそういうと、冬馬たちの方へと足を向けた。

「こんにちは。Jupiterの伊集院北斗です」
「こんにちは!ボク、ピエール!」
「渡辺みのりです。よろしく」
「鷹城恭二だ。」
「よろしく。確か、Beitだったっけ?CDデビューが決まったんだよね。おめでとう」
「ありがとう。でもまだまだこれからだからね。がんばるよ」

北斗は3人と言葉を交わすと、声をかけられたようで山村と一言二言会話をしてから再度冬馬へと向き直った。

「下に翔太とプロデューサーがいるみたいだよ。」
「もう出るのか?」
「そうなるね」

冬馬は北斗の言葉にうなずくと、楽譜やプレイヤーをカバンにしまって立ち上がった。すぐに行ってしまう様子でピエールが残念そうな声を上げた。

「どうせまた会えるだろう」
「えー」
「あはは。それじゃ、またね」
「失礼します」
「冬馬!北斗!またね!」

冬馬と北斗は山村にも挨拶をすると事務所を出ていった。それをBeitの3人は見送る。

「話には聞いていたけれど、忙しそうだね」
「再デビューって、DRAMATICSTARSと同時期っすよね?」
「CDはね。ライブとかは移籍してからすでにやってるみたい」
「冬馬たちすごい!ボクたちも負けられない!」
「ああ、そうだな」
「ふふ。早くCDが出るといいね」

2015/08/16


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