1st

IDOLM@STER

12月。某所。315プロダクション1stライブ。
14時からの第1部、19時からの第2部に分けられ、それぞれ2000名ほどがライブに参加する。来客数は4000人にも上り、チケットの応募数はその何倍。物販では参加数を超える人数が訪れた。
元961プロダクション所属Jupiterをはじめとし、現在デビュー済みの315プロダクションのアイドルがそう出現するこのライブは、Jupiterが移籍してから1年たったころであった。

「お、冬馬!」
「おはようございます。天道さん」

Jupiterのほか、DRAMATICSTARS、Beit、High×Joker、W、S.E.Mの6ユニットが今日、某所に集った。午前中の全員のリハーサル後、本番に挑むこととなる。Jupiter以外がリリースイベントで数百人のイベントで歌ったことはあるが、大きな会場では今回が初めてだった。天ヶ瀬冬馬に挨拶をしにきた天道輝も少し緊張した顔をしている。他のメンバーはすでに中にいるようで、それに続いて2人も中へと入っていった。

「おっはよー冬馬くん」
「おはよう」
「おはよう。俺が最後か」
「まだリハ前だから大丈夫だよ。」

Jupiterの控室に行くと、他の2名はすでにそろっていた。いまだ衣装は着ていないが、これからなのだろう。3人でリハ用のシャツに着替えると、ステージへと向かう。すでに照明や音響のスタッフが準備をしていることだろう。向かうと、すでにプロデューサーがいた。客席にも他のユニットがそろっており、ステージを眺めている。照明や音響のスタッフ、そして物販のスタッフなど、たくさんの人によってこのステージが成り立つ。そう感じるようになったのは315プロに入ってからか。何名かのアイドル候補生も、現在は裏方のスタッフに入っている。こうしてアイドルは表に立てて、ライブができるのだと考えると、自分たちだけではないのだと感じることができる。961プロダクションでは感じていなかったことだ。

ライブのリハーサルも進み、休憩が入ったころ。冬馬はプロデューサーに呼ばれた。他のスタッフがあまり来ないであろう場所まで連れて行かれると、そこにいたのは1人の男性。それはどこかで見たことのあるような姿であると同時に、ここ最近会っていなかった人物だった。

「765プロ!?」
「久しぶりだな、冬馬」

去年、Jupiterが961プロダクションにいたときのライバル。いろいろと突っかかったことも多くあったが、Jupiterが961プロを脱退してからはほとんど関わっていなかった。765プロダクションのプロデューサー。手を挙げた彼の手には袋があった。

「どうしたんだよ突然。つかチケットは送ったけど裏には入れねぇはずだぞ」
「偶然そちらのプロデューサーと会ってな。これ春香たちからの差し入れ」
「……どーも」

いつのまにか315プロダクションのプロデューサーの姿はなかった。2人で近くにあったベンチに座る。

「で?」
「ん?」
「何の用で来たんだよ。差し入れだけってわけじゃないだろ?」
「え、差し入れだけだけど?」
「はぁ?」

彼の言葉に、冬馬は首を傾げた。765プロのアイドルたちとは番組などで共演したり、フェスで対決することもあるが、その間、とくにこういったことは起きていない。おそらく765プロのプロデューサーが実質彼しかいないことも誘因なのだとは考えられるが、お互い切磋琢磨するというよりも競い合う相手である。

「アリーナライブ、来てくれたんだろ?」
「?ああ。天海からチケットが届いたからな。あんたらの実力を見るいい機会だった。」
「その礼もかねてな。」

先日、765プロダクションはアリーナにてライブを行った。今回の315プロのライブがシアターであるのを比べると、大きさはけた違いだ。

「ああ、それと」
「?」
「315プロ、Jupiterのライブだからな。見ないわけにはいかないだろ?」
「……ライブは315プロに入ってから何回かしてるけど」
「でも、315プロダクション総出だと初めてだろ?」
「……まぁ」
「Jupiterに仲間ができたんだ。見に来ないわけないだろ?」

彼はそういって笑った。その表情が少しまぶしくて、冬馬は顔をそらした。彼はある意味まっすぐだ。Jupiterがデビューする前、961プロにはフェアリーというユニットがあった。現在そのユニットのメンバーは765プロにいる。彼女らを受け入れたのも、ある意味彼の懐の大きさによるものだろうか。Jupiterも、冬馬も騙されていたとはいえ、765プロにはひどい言葉を言ったこともある。しかし彼はそのことを忘れているのか、今現在気にしている様子はない。彼が直接プロデュースしているわけではないが、765プロの竜宮小町だって、冬馬に敗れ、落ちたこともある。実力が勝敗を決める業界であるため、これは単純に実力の差があったということだが、多少なりとも尾を引いていてもおかしくないはずなのだ。
冬馬はそこまで考えて、言葉を発するのをやめた。いくら言っても、彼の思いは変わらないだろうし、言ったところで現状が変化するわけでもない。冬馬はセットされた頭を掻きながら、立ち上がった。

「冬馬?」
「ほんと、あんたってやつは……。」

彼に聞こえないようにつぶやいたあと、彼の正面へとたち、

「見てろよ765プロ!最高のライブを見せてやるぜ!」

その冬馬の表情を見た彼は、再び笑った。

「ああ!」





明るく照らされたライト。宙に舞うテープ。それぞれのユニットを示すペンライト、サイリウムの色。たくさんのファンの熱気。それを感じながらも、315プロダクションの1stライブは終わりを告げた。舞台裏で、それぞれが終わったことに涙を流しながら、喜びを分かちあっている。Jupiterもまた、3人で終わったことをねぎらいながら、泣き出す他のメンバーを慰めにはいる。舞台では翔太と北斗が思わず涙ぐんでいたが、吹っ切ったのか今はその表情も見られない。
そうしてライブが終わりを告げたころ、ふと冬馬はスマホを開くとたった1行だけメールを打つと、そのまま送った。それからスマホには見向きもせず、他のメンバーたちの場所へと混じっていった。






『こんにちは、本日もやってまいりました、765プロラジオ!今回は天海春香と』
『菊池真と』
『高槻やよいの3名でお送りします!』
『えへへ。今日はですね、ご招待されていたライブに参加してきました!』
『お仕事の都合で最初の公演しか見られなかったんですけど、熱気がすごかったですね』
『うっうー!私たちも先日アリーナでライブをしましたけどやっぱり違っていましたねー!』
『そうだね。そのライブとは!315プロダクションの1stライブ!私たち、お仕事でよく315プロダクションのJupiterさんとは何度か共演させていただいていまして』
『今回はそんなJupiterさんからご招待いただきました』
『アリーナライブにも来てくれていたんですよー!』
『Jupiterさんとは961プロにいたときから関わる機会もあったんですが、今回こうして315プロダクションとしてのライブが見れて本当に楽しかった。もっと見てみたいね!』
『そうだね。でも僕たちだって負けないようにがんばりますよ!』
『そうですよ!765プロも負けられません!』
『うんうん!では本日も負けずに頑張っていきましょう!765プロラジオ、スタートです!』
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From 天ヶ瀬冬馬
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見たか!765プロ!


「……ああ、最高のライブだったよ。」

2015/12/13

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