再復活

IDOLM@STER

「みんな!最後までついて来いよ!」
Jupiterが961プロダクションを脱退したことは大きなニュースとなった。これからさき、フリーになるのか、それともどこかのプロダクションに所属するのか……ファンはJupiterが解散しないかと不安になり、業界もまた、彼らがどう動くのか注目していた。
元々、961プロダクションのいい噂は聞かない。よき人材を発掘し、才能を開花させることには優れているが、その過程で、多くの敵を作る。時と場合には、スタッフを買収することもある。だからこそ、元961プロダクション所属、という肩書だけでも、業界は彼らを遠ざけた。
しかし、そんな中、とあるプロダクションが、彼らを引き取った。315プロダクション。デビューしたアイドルはまだいない、弱小事務所だった。なぜ彼らがそのような事務所を選んだのか、それを知るのは当の本人たちだけである。その中でも、Jupiterは再び表舞台へと立ち上がった。
Jupiter復活ライブ
のちにそう呼ばれることとなる、小さな商店街でのゲリラライブ。当日の発表だったにも関わらず、そこには何千人ものファンが押し掛け、ある意味大混乱へと陥ったが、宣伝もなにもなかったそのライブで多くの人が集まったことは、Jupiterの純粋な人気度を示していた。
それから、正式に行った移籍後のライブで、チケット争奪戦になった末に三千人のファンの前で、彼らは再び舞い戻ったのだった。

「お疲れ様です。」
「お疲れ様―。プロデューサーさん、今日は来てたんだね」
「はい。普段、お任せして申し訳ないので今回こそはと。」
「他のアイドルのスカウトまでしてんだろ?休んでんのか?」
「ええ。そこは問題ありません」
「俺たちはセルフでもある程度はどうにかなりますから。無理は禁物ですよ」
「そうならないようには頑張りますね」
315プロダクション所属、Jupiterとなって早数か月。月日はあっという間に流れていき、彼らは961プロダクション時代と変わらない忙しい生活を送っていた。できるだけ学校を優先させる、という315プロダクションの方針で、ある程度は仕事を絞っているが、それでも業界の関係で仕事をしている時間の方が長い。961プロダクションでは学業を優先、ということは一切なかったためか、冬馬と翔太はどこか新鮮に感じていた。
そして新鮮に感じていることはもう1つ。プロデューサーという存在だ。当時、そして今もライバル関係にある765プロダクションのプロデューサーとしか関わったことがない彼らにとっては自分たちにマネージャーではなくプロデューサーが付くというのは少々違和感があるのだろう。移籍当時はギクシャクすることもあったが、今では打ち解けられたのか、ふつうに接している。
ちなみに765プロとはすでに和解し、共演などで互いに関わり合い、よきライバルとして関係を築いている。
「俺ら、これで上がりだけど、プロデューサーは?」
「この後外回りですね……あ、そうでした。来週の土曜日、ライブのリハーサルするとお話したんですが、時間が決まったので後でメールしておきますね」
「土曜日は、ラジオ収録が朝からあるけど、そのあと?」
「ええ。予定では午後ですね。午前中は北斗さんの撮影もありますので」
「そしたら僕と冬馬君が空きになるね」
「自主練でもすっか」
「さんせーい!」
「無理のない程度にお願いしますね」
315プロダクションという弱小事務所が、何千人もの人が入るステージを抑えられるのは、ひとえにJupiterという名前と、プロデューサーの働きの結果だろう。Jupiterはすでに1年ほどの活動歴を持ち、人気絶頂である。Jupiterだけのライブも何回か行われており、その都度、チケットは完売という勢いである。そしてプロデューサーもまた、新人だとは考えられないほどにあいさつ回りから仕事を探して来るまで、優秀な働きを見せている。
「それじゃ、またね、プロデューサーさん」
「お疲れ様でした」
「チャオ」
「はい。お疲れ様でした」
彼らはプロデューサーに別れを告げると、北斗の運転する車へと乗り込んだ。彼らの中で運転できるのは唯一北斗だけであり、帰りに公共の交通手段を使うよりは、気が楽という考えの元、彼らが3人そろって仕事をするときにはほとんど北斗の車での移動だった。
「こんなに短期間でライブ3回目かー。ちょっとうれしいね」
「商店街でのゲリラライブ、復活ライブ、そして今回のライブか。」
「プロデューサー曰く、今の間だけだろうってことだけどね」
前に北斗・冬馬がいて、後部座席には翔太がいる。翔太は前の座席の間から顔をのぞかせていた。
「本当は年に1、2回くらいできればいい方なんだろうけどな」
「でも、今年はゲストとかのミニライブも含めたら結構な数になりそうだよね。」
「ああ。エンジェルちゃんたちと何度も近くで会えるなんてとても幸運だよ」
「……、ま、その分レッスンもしっかりやってかねぇとな」
「もっちろん!北斗君も、頑張ろうねー」
「当たり前だろう?情けないところを見せるわけにはいかないからね」
「いったね?冬馬君も聞いたよね」
「ああ。覚悟しとけよ」
「……お手柔らかにね」
北斗は苦笑を交えながらもそう答えた。

3人の関係は、世間から見れば移籍してもしなくても変わらなかった。しかし、彼らは迷わず「変わった」と答えるだろう。961プロにいたときは、少なくとも同じユニットを組んでいたとしても一緒に頑張るよりはライバルだった。決められた仕事をそれぞれこなし、レッスンもただこなす、その時に一緒になる、トップアイドルになるためにはいずれ蹴落とすための存在。お互いがライバルだった。だからこそ冬馬は765プロのアイドルにたいして「仲良しごっこ」だなんて言葉を口にした。少なくとも、当時の冬馬はそう思っていたし、おそらく北斗と翔太も考えていただろう。
しかし、これまでの活動で、そして初めての敗北で、彼らは「仲良しごっこ」が悪い物ではないことを知った。だからといって今までとは正反対の「仲良しごっこ」をしていくことは難しいが、少しずつ、少しずつ彼らは変わっていった。ユニットメンバーであり、仲間であり、そしてライバルでもある。そんな関係。
そんな彼らが、再度出発した。過去には961プロから、絶対的王者として君臨した彼らが、新たに目指すものはなにか。
それは、彼らにしか、わからない。

2015/11/23

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