ソロデビュー

IDOLM@STER

いかがでしょうか、と問えば、彼はいつも緊張なんて知らないように言う。
「はっ、楽勝だぜ。」
現在、彼のデビューのためのオーディションに参加している。おそらく他の部屋には別のアイドルたちがいることだろう。無論、この部屋にも彼以外の男性アイドルがいる。しかし彼はそんなことも気にせず、オーディションの台本を眺めていた。今回のオーディションは、歌と、ダンスで競われる。今度の新人たちが集う音楽番組、その出演権をかけてであった。天ヶ瀬冬馬は、それをもって世間へと現れる。今回のオーディションで失敗は許されない。とは言っても、私も、そして彼自身もこのオーディションで落ちるとは思っていない。
「マネージャー、飲み物買ってくる」
私が行きましょうか?と問えば、この部屋息苦しくてたまんねぇといって彼は出て行った。緊張が全くないということは正直安心する。相手のペースに飲まれることがないからだ。
彼は、このオーディションで勝つ。
その確信を得て、ひっそりと笑った。

黒井社長の見る目は正しい。昨年のProject Fairyにおいても、そして今回のJupiterも。しかしFairyは961プロから脱退、現在は765プロにソロでいるという。それ以降、彼女らが表舞台に立っている様子は見受けられない。765プロは、案外無能なのかもしれない。もっとも、だからといって黒井社長の、961プロのすべてが正しいとは言わないが。
「まだ始まらないっすか」
飲み物を買いに行って戻ってきた彼がつぶやく。番号順ですので、もう少しかかるかと思いますよと返せば、彼はめんどくさそうに缶のふたを開けた。
彼が飲み終えた頃だったろうか、彼の番号が呼ばれ、彼は返事をして控室をでた。私はそれを見送ってから、今この場にいるアイドルの名前と顔を合致させる。いずれJupiterの脅威となるかもしれない彼ら。どうか彼らが黒井社長に目をつけられないように、しかしJupiterの阻害因子とならないように、ただ私は彼らの情報を得て報告するしかできない。
天ヶ瀬冬馬は無事このオーディションをクリアした。彼のデビューが決まった瞬間でもあった。彼はこのようなことは当たり前だと言いながらも、心の奥底ではうれしいはずだ。だから私は彼を誉め、ねぎらい、影へと徹した。彼はトップになる資質がある。私はその阻害をせず、守らなければならない。
「マネージャー。帰ろうぜ」
私は彼の言葉にうなずくと、車をだした。向かう先は無論、Jupiterの2人がいる961プロだ。天ヶ瀬冬馬のデビューを待ってから、彼は2人とJupiterになる。
Jupiterとしての活動は、もうすでに始まっている。

2015/08/26

マネージャー≠プロデューサー



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