3人寄ればなんとやら

4

「そういやバスケ部入るのか?」
ありがたいことに3人そろって同じクラスになっていることを確認し、さらにキセキが1人もいないことを確認して嬉しさあまりにガッツポーズを決め、それをカズに見られて爆笑されたという事件はおいておいて。のんびりと教室の一角で椅子に体重をかけていた俺は、ふと思い立って聞いた。
カズはもともと秀徳のバスケ部。1年でスタメンを取ったという青春をバスケに掲げたような人間だ。リョウもまた、1年でスタメンを取っているから同様だろう。今は骨折で部活をするという状況ではないが、2人はどうせバスケ部に入るのだろうと思っていた。それに比べて俺は正直入りたくないというのが本音だ。同じようにたどれば虹村さんにぼこぼこにされ、黄瀬が入ったら退部しろと赤司に言われる……そんなわかりきっている地雷に自分から飛び込むほど愚かではない。1からやり直す前はふつうに社会人をしていたんだ。今更はっちゃける必要も感じない。
2人は俺の言葉に顔を見合わせると、はっきりとバスケ部に入るということを口にはしなかった。
「僕は怪我が治らないと動けませんし……」
「俺もなぁ……バスケはしたいけど……」
カズのその言葉に、朝疑問に思っていたことをそのまま口にだす。
「キセキ見つけらんねぇのとなんか意味あんのか」
「あれ、やっぱり気づいた?」
俺の言葉に、カズはへらりと笑った。
「俺ね、全色盲なの」
「は?」
「性格には1色覚でM錐体だけがある状態なんだけどね?まぁ簡単に言えば色がわからないってこと。」
「よくわかんねぇけど、モノクロ世界ってことか?」
「そうそう!」
カズはそういいながらケラケラと笑った。それを見ながら隣でリョウがあわあわと慌てている姿を見て、お気楽にするようなものじゃないのだなとは感じた。しかし本人はまったく気にする様子はない。
「だからどうしようかなぁって。できるっちゃできるけどさー、もし色がわからないことでなにかあったら困るじゃん?」
実際、色覚異常の人間は多くいる。とくに遺伝子の関係で男に。今はやっていないらしいが、小学生の時に検査をした人も多いはずだ。だからといって、それで何かが問題になるわけではない。車の免許が取れないなどという話も聞くが、実際取ることはできるらしい。だから本当は、カズもバスケをすることはできる。本人もそのことに気が付いているだろう。しかし、スポーツ選手などにはまれになる条件として「色盲ではない者」などと記載されていることがある。それを考えると、カズの言っていることも一理あるのだ。
「……、ま、どっちでもいいけどよ。俺はバスケやんねぇし」
「え」
「え?やらないんですか?」
「めんどくせぇ。1軍いりゃぁ内申点はいいけど退部されたら元も子もねぇし」
「退部は確かよそ様に喧嘩売ってたからじゃなかったっけ」
「なんでカズが知ってんだよ」
「何年キセキと一緒にいたと思ってんだよ。3年以上だぜ?色々聞いちゃった」
「……リョウもか」
「はい!すみません!」
「……いいけど」
そっか、バスケやらないのかーとカズがつぶやく。俺たちの前には一応と置かれた学校のパンフレット。中には部活一覧も記載されている。リョウはそれをそっと開いた。
「やらないとしたらどこに入るんですか?」
「あー、どうすっかなぁ」
バスケ部に入らない、とは言っても、だからどうするのか、という問題もある。別に入らないで中学を卒業するというのも1つの手だ。
「リョウは?」
「えっと、僕もバスケは無理かなと。なので料理部にでも入ろうと思ってます」
「料理!俺も少しくらいならできるぜ」
「僕、料理は好きなので」
「部活入ってりゃなんか食えるのはいいとこだよな」
「好きなもの作れるしな」
「唯一の欠点は女性ばかりということですが……」
そうつぶやくリョウ。俺とカズはお互いで目を合わせた。おそらく考えていることは同じだろう。バスケ部は却下。リョウとカズのことを考えれば運動部もあまりよろしくない。ただ1つ考えるとすればカズが料理の色がわからないということだけだが、すでに何年もその身体で生活していればなれるというもの。女子の中にリョウを1人だけ入れても正直問題はまったくなさそうだが、どうせ遊んで過ごす3年間だ。多少自由気ままでも許される。
「んじゃ、俺も料理部にしようかなぁ」
「え」
「料理できれば自炊が楽だしな」
「え」
「んもう、なんで驚いてるのさ。俺たち運命共同体だろ?」
「いえ、それは遠慮します」
「えっ」
「運命共同体、ってのは遠慮するが、料理くらいできてもばちは当たんねぇしな」
「よっし、そうと決まれば部活見学だ!」
「え、えええ!?」
慌てだすリョウを横目にパンフレットをしまうと、カバンをもって教室を出る。帝光中は入学式の日から1週間は部活動見学が行える。入学式当日からというのは、それほどまでに部活に力を入れているからだろう。慌てて追ってくるリョウを確認しながら、のんびりと廊下を歩きだした。

2016/01/16

inserted by FC2 system