3人寄ればなんとやら

5

「おおお!りょーちゃん器用だね」
「そ、そうですか?」
「これがよく言う女子力……っ!」
「ちょっと1年男子―!あんたたちがそういうの出すと他の女子の魂が抜けるんだけどー?」
「いやいや、部長さん。俺なんてまだまだですよー!」
「ほう、ならば今そこに置いてあるものは何だね?」
「ハート型のフォンダンショコラです!」
「そんで桜井は?」
「パウダーでキャラクターを描きました!すみません!」
「最後に灰崎」
「パウダーまぶしてアイスのっけた」
「部長!今年の男子はレベルが高いです!」
「あきらめるな!今こそ女子力を見せる時だ!」
「片づけもパーフェクトな男子に勝てる気が、しな……い……」
「きゃー!先輩倒れないでー!」
あれから1か月。結局料理部に入部することを決めた俺たちは、主にお菓子を作りながら部活動に勤しんでいた。予想通り女子の多い部活だったが、男子も入部可能だった。女子ばっかりだったからどうなるかという不安は、いつしか消え去り、和気あいあいとした生活を送っている。リョウも骨折した足を地面につけられるようになったからか動きも多くなり、バスケはまだできないが好きなことをやっている。さすがに料理中は座ってもらって他の人が動いているが。
「男子が入るって聞いてどうなるかと思ったけど、なんの問題もなかったわー」
「かわいい女の子目当てだったらどうしようかなって」
「え、かわいいって誰のことですか」
「ちょっと灰崎、校舎裏にこようか」
「遠慮します」
クラスメイトにキセキがいないことも相まって、のんびりと時間は過ぎていく。体育館からは相変わらずバスケ部の声が聞こえるし、グラウンドに出ればサッカー部とかの声が聞こえる。バスケだけではなく、他の部活も力の入れようは半端じゃない。ここがのんびりしているのは、女子が多いのと、文化部であることが大きいだろう。
「ほら、全員片づけして今日は帰るよー!」
『はーい!』
皿にのせたものはその場で食べて、カップに入ったままのものは持ち帰って。いつも通りの部活だ。同じ学校だからキセキ関連にかかわるかとも思ったが、そこはマンモス校。すれ違うことはあっても会話もなにもない。そりゃあっちからしたら知らない人だから当たり前なんだけど。

「今日この後どうする?」
「課題やって帰りませんか?勉強のお伴はありますし」
「そうすっかー。まだ教室開いてたよな?」
カバンと、手元の紙袋に作ったものを詰めて、家庭科室を出る。それからまっすぐ1年の教室へと向かっていく。まだ何人かいるのか、教室には人影があった。扉を開けると、残っていた面々と目があう。
「よ」
「あれ、部活は?」
「終わったー。ちょっと課題してこーかなーって。吉野くんたちは?」
「俺らも。だが、しかし、終わらん」
教室の中には3人の男子学生がいた。全員が同じクラスではなく、1名は別のクラスだ。見覚えはない。吉野はこれでも一応バスケ部の人間だ。たしかSG。今は3軍でやっているはずだが、なぜかここにいる。ちなみにもう1人、西田もバスケ部だったはず。
「そっちの部活は?」
「あははー。無理、ついてけない」
「え、やめたんですか?」
「まーうん。」
3人が言いにくそうに顔をそらす。どうやらもう1人もバスケ部らしい。
「ほら、バスケ部の理念?ちょっとついてけなくてさー……」
「百戦百勝。勝つこと前提だっけ?」
「そー!それがあんまりねぇ。やめちゃった」
「傷心なの。慰めて?」
吉野と西田の言葉に、もう1人がついていけなさそうにしているが、気にしなくていいのか。そう思っていると、すっとカズが動いた
「しょうがないなー。では今日作ったフォンダンショコラを恵んでやろう。喜べ、ハート形だ!」
「男からのハート型なんていらねぇええええ」
「そこの君もどーぞ!」
「あ、ありがとう」
がさごそとさっき作ったカップにはいったフォンダンショコラが出てくる。1人3個しか作ってなく、そのうちの1つは食べているため、数が足りないが、カズがこちらを振り向いた時にリョウが1つ同じものを取り出し、俺は面倒だったので袋ごと渡した。全員から1つずつ抜いて、3人へと渡す。
「俺らも混ぜて!」
「いいぞー。ちなみに今は数学の課題だ!」
「数学ぅ?あんなの授業中に終わるだろ」
「え」
「しょーちゃん、顔は怖いけど頭いいんだよ」
「顔が怖いは余計だ」
3つほど机といすを持ってきて、3人が囲んでいる机のそばにつける。そうしてからカバンから残っている課題を取り出す。授業で終わらなかったら課題、なんて言われていた範囲は終わっているから、追加で出されたものだけだが。カズもリョウもそうらしく、出てくる科目は大体同じものだ。
「あ、そうだ、波木。紹介しとく。同じクラスで男子唯一の料理部の、高尾、灰崎、桜井。3人とも、こいつも元バスケ部の波木。PGしてた」
「へー!よろしく波木君」
「よろしくー。つか料理部って」
「結構楽しいよ?こうしてお菓子作ることも多いしね」
見るとすでに吉田は食べていた。使い捨てのスプーンを持ってきておいて正解だった。
「勉強もできて料理もできる。勝ち組だよなぁ」
「たしか運動もできるぞ。聞く話だと桜井もできるんだろ?」
「一応は。でもこの足なので……」
「くそ、俺らにもなにかを授けてください神様!」
「願うならまず手を動かそうなー」
「うぬぬ」

前とは違う日々が過ぎていく。バスケも喧嘩もしない日々。それが少々つまらないと感じることもある。前だったら女子がいればナンパして遊ぶことも多かった。今じゃ女子がいる部活に入って、何事もなく過ごしている。これが心の変化がおきたせいなのか、それともそれほどバスケ部と、そしてバスケ部のあの人と関わりたくないと思っている結果なのか。バスケ部じゃないかぎり接点ができるわけないのに。
「灰崎ー、ここどうやってとくの?」
「あ?それ教科書のー……」
でも、こういう生活も悪くない。

2016/02/04

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