夢うつつ

2

赤に黒がかかったような髪色を持つ少年と、前髪で片目が隠れた少年。彼らはひたすら長い石段を上っていた。すでに数分上っているが、未だ頂上は見えない。少年達は息切れし、汗を垂らしながら上っていた。
「あっちー、まだつかねぇの?」
「山の上に建っているからね」
汗をぬぐい、適度に水分を取りながらも少年達の足は止まらない。上りはじめてから10分ほどが経過した頃か、ようやく頂上を示す鳥居が見え、少年達の足は知らずに速くなっていく。
頂上までたどり着くと、赤髪の少年は崩れるように座り込んだ。もう1人も息を切らしているが、足はしっかりと地面についている。
「タイガは休んでていいよ。俺はちょっと挨拶してくるから」
「おー・・・?」
座り込んだ少年をおいて、片目を隠した少年は奥へと進む。鳥居をくぐった先には小さいがきれいな拝殿があった。少年はそれを横目で見ながら、右側にある社務所へと歩く。L字型のそれは、授与所も兼ねているようで、窓口が見えた。少年はそのまま社務所の入り口まで行き、扉をたたく。少しして扉は開き、中からは赤髪の青年が現れた。着物に身を包んだ青年は、少年の姿を見ると、中へと招く。少年もなれたように履物を脱いで中へと入った。広間に案内され、冷たい麦茶を出されると、少年は一気に半分まで飲んだ。
「今日はどうしたんだい?」
「今日は弟と一緒に来たんだ。お参りに」
「そう。でもすぐそばに別の神社があるだろう?」
青年がいう神社はここよりも住宅に近い位置にある神社だ。ここよりも新しめの神社は毎年夏になると祭りを行い、正月やそれ以外にも人がにぎわう。こちらは古い神社だが山の頂上付近にあるがためか、あまり人はやってこない。くるとすればよほどの物好きだろう。
「ここが良かったんだ。でも弟はばてちゃって鳥居のそばでへばってるよ」
「一緒にここに来ればよかっただろう?」
「動けなさそうだったから」
少年がこの神社にくるようになったのは1年前の出来事が原因だった。少年は運がいいのか悪いのかは分からないが霊感があった。ふらりとでかければ、知らずに方には妖が乗っていたり、知らない人に話しかけられてみればそれが幽霊だったり・・・その事件は数知れず。そんな幽霊沙汰には困らない少年はある日、偶然青年と出会った。霊に知らずに引き寄せられた少年と、霊退治に来た青年。それは山の中の寂れた社の目の前でのことだった。それからなにかと少年は青年に助けてもらうようになり、今に至る。少年はずっと青年からもらっているお守りを身につけていた。
「それで?今回はなにがあった?」
「ここに来る度に事件があるって思わないでください」
「へぇ?今日は何もないんだ?」
「何もないよ。お参りって言った。」
「そうだったね」
あまり気にしていなさそうな青年に、少年はふてくされた様子を見せる。コップに入った氷が、音を立てた。少ししてから、少年はぽつりぽつりと話し始めた。
「・・・引っ越すんだ」
「どこに?」
「詳しくはきいてない」
「そっか。」
青年は短く返事をしながら相槌を打つ。外から2人の騒ぎ声が聞こえるようになっても、少年は言いたくなさそうに言葉を紡ぐ。
「外国、なんだって」
「外国?」
「うん。仕事の都合で、いつ戻れるか分からないって」
握られたコップの水滴が、手を伝って台に落ちる。ぬるくなり始めたそれは、未だ半分のまま減っていない。
「タイガと一緒にいられるのも僅かだから、一緒にここに来たくって」
「そう」
青年はそこまで聞くと立ち上がり、広間から出て行く。少年はきょとんとしたままその後ろ姿を見送った。少しして青年が戻ってくると、手には五角形の何かが握られていた。青年が戻ると同時に社務所の扉が開いた音がした。青年は手に持っていたものを少年へと手渡す。
「これは?」
「絵馬だよ。2人でお願い事書いて結んでおいで」
「お金ないよ?」
「別にいいよ。こっちに戻ったらまたおいで。そのときにね」
「・・・ありがとう!」
少年が絵馬を持って手元に寄せると同時に戸が開く。
「タツヤ!勝手にいなくなるなよ!」
「挨拶してくるって言ったはずだけど」
少年達はわいわいと言い合いをしながらも、一緒に笑っていた。それを見ていた青年と、先ほど入ってきた人もまた、その様子を見て笑っていた。

「元気っすねぇ」
「お前も昔はああだったんだぞ?」
「いつの話っすか」
2人が絵馬に何を書こうかとペンを持ったまま話をしているのを、2人は麦茶を飲みながら見守っている。
「そりゃぁ俺は最後にここに来たっすけど、それでもずいぶん前のことっすよ?」
「僕にとってはつい先日のことだよ」
「むう」
不満そうな声が聞こえて、青年は思わず笑った。それによって再び不満の声が上がる。
「悪い悪い。」
青年はくすくすと笑いながらも返答する。少しして2人が絵馬を書き終え、外へ絵馬をくくりつけに走り出す。青年らはそれを見送ると、2人を下まで送るように支持をだす。その言葉によって不満そうな声はとぎれ、戸が再び開いて閉じられた。3人の声が外から聞こえる中、青年は懐から何かを取り出した。それは一瞬で姿を変えると、開けっ放しの窓から解き放たれ消えていった。

2013.8.11-2013.9.1

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