「これが俺たちになんの影響があるのかと聞かれれば

何もないと俺は即答するだろう」

高校バスケ界に、キセキの世代と呼ばれる選手たちがいる。

洛山高校は毎年IH、WCに出場する強豪校の1つだ。京都に位置するその高校は、万年上位を獲得し、優勝回数も他の学校よりも桁外れだ。しかし去年から、洛山はIH、WC共に優勝し、その力は他の高校よりも頭一つ分ほど離れていた。その理由こそが、現在騒がれているキセキの世代と呼ばれる選手たちだ。
キセキの世代は中学の時から力を発揮していたが、チームメイトに恵まれていなかったのか、キセキの世代たちが別の学校でバラバラだったからか、連勝するということはなかった。それが去年、全員が洛山に進学してからすべてががらりと変わったのだ。トリプルスコアは当たり前。相手の戦意消失なんて毎度のこと。東京都不動の三大王者と言われる秀徳、泉真館、正邦も破れ、強豪校である桐皇、海常、陽泉でさえも、倍近くの点数差で大敗している。負けるだけだったらただ良かった。しかしその負け方は、酷く心を折るようなものだ。まるで遊び感覚のように、まるでちょっとした賭のように。時には点数をそろえ、時には手を抜きわざと点数と入れさせ。消えた仲間達は数知れず。
そんな洛山の独擅場になりつつあった高校バスケ界。そこに舞い込んだのは思っても見なかった騒動だった。
黄瀬涼太。すべての始まりは彼だった。
あるテレビ番組。それは高校バスケ界を取り上げる企画を行っており、そこには当時バスケをしていた芸能人を招いてバスケについて話をするというものだった。ちょっとした気まぐれでみたその番組は、正直何をしているんだと問い詰めたいものだった。内容にはあまりふれたくない。ただいえることは、黄瀬涼太がキセキの世代に対しての宣戦布告をしたということだ。その番組が視聴率を獲得し、なおかつ批判の電話が殺到したのは言うまでもない。キセキの世代は、その最強さ故にある意味信教化されており、ファンというか取り巻きが多いのだ。高校生の女の子たちにとっては同年代でかっこいい、なおかつスポーツがすごい男子など、格好の的なのだから。無論、その番組は高校バスケ界を取りあげたことにより、キセキの世代が出ると期待(確信)していた人も大勢いた。だからこそ、批判が殺到したのだ。
正直、その番組は高校バスケ界、としているが実際はキセキの世代しか特集していない。他の有望な選手など紹介されされなかった。キセキの世代は現在2年。3年の選手には実際1年の時から活躍した人だっている。キセキの世代とか黄瀬涼太とか関係なしに、酷い番組ではあった。しかし、そのことについては誰もふれず、ただキセキの世代を批判したことについてだけが、話題にあがった。
そしてそんな騒ぎから数日が立って。
黄瀬涼太率いるチームとキセキの世代の生放送対決が放送されると発表されたときには正直首をかしげるしかなかった。

俺は、その番組をくろちゃんねるという掲示板に書き込みをしながらテレビで見ていた。内容は、正直頭をすり抜けていったかのように覚えていない。ただ、黄瀬涼太率いるチームが、何年も前にキセキの世代と言われていて、今のキセキの世代が2代目である、ということだけは頭に残った。そのことは3Qの半ばで発表され、ちょうどキセキの世代が逆転されて点数負けしている時だった。掲示板が酷い騒ぎになったのは言わずもがな。
すべてが終わり、結果としては2代目が負けた。得点差は10点以上だった。その後、なぜか2代目はすっきりしたような顔をしていたのが、酷く違和感を持った。
俺は2代目と同年代だ。中学の時にバスケを始めてから、なにかとキセキの世代がいた。試合をしても、彼らのいる学校に勝つことはなく。高校に入っても手は届かない。いくらがんばっても彼らにはかなわず、いい成績はほとんどでない。たとえ準決勝、決勝まで進んだとしても洛山にぼろ負けするのは目に見えている。それはこれまで行われた試合のDVDを見れば嫌でも分かる。
だからなのか、2代目が負けたのが、黄瀬涼太たちが勝ったのが、酷くつまらなかった。
学校に行けば、その番組で盛り上がる。すごい試合だったと誰もが歓喜する。バスケ部でもその話題は上がり、熱が冷めることはない。
だが、俺は不思議で仕方がなかった。
なぜそこまで盛り上がるのだろうか。
なぜそこまで喜ぶのだろうか。
たとえ2代目が番組で負けようとも、俺たちが優勝できる訳がないのに。
スポーツ選手だったら誰でも、試合で優勝したいと願う。だから全力で練習に励み、暑いなか身体を動かし、寒い中身体を温める。それはすべて、試合で優勝するため。
2代目キセキの世代が改心したから?黄瀬涼太たちが勝ったから?初代キセキの世代が登場したから?
それがどうしたの?
勝った初代キセキの世代は、すでに成人済みのいい年の大人たちだ。それが急にしゃしゃり出ただけじゃないか。
2代目が負けてなにが変わるの?それは公式戦でもなんでもないただのエキシビションマッチ。2代目がそこで負けようとも勝とうとも、高校バスケ界になにも影響はないだろう?
2代目が改心?元々俺たちを見下す人間が、簡単に改心できると思っているの?あくまで彼らがすごいと思ったのは初代であって、高校バスケをしている人たちじゃないんだよ?
この番組になんの意味があった?なにもない。ただの身内だけの盛り上がりを流しただけだ。
初代は何がしたかったのだろうか。大人達がいい気になって高校生を負かして、何になったつもりなのだろうか。高校生がやっているバスケに、なぜ出てきた?初代として見過ごせなかった?それってなにかいいことあるの?ただの自己満足じゃないの?
そんなくだらないことに、巻き込まないでほしい。淡い期待を持たせないでほしい。

所詮キセキはキセキ。手の届かない所にいる天の存在。俺たちの心を砕く、心なき悪魔。



ねぇ、初代キセキの世代さんたち?あなた方が高校生だった頃、中学生だった頃、周りを見たことがありますか?学校内だけじゃない。キセキの世代内じゃない。それ以外の学校に、選手に、目を向けたことはありますか?





2013年9月2日

inserted by FC2 system