ねこねこ

アニマル化

「みゃーじさん!みゃーじさん!」
ちょこまかと足元にうずくまるように近寄ってくる、何倍も小さなやつを足蹴にしないように気を付ける。それだけでも貴重な睡眠時間は失われていく。その光景を飼い主はいつもにこやかに眺めているだけ、もう一匹の猫は標的が自分でないことに安堵して日向で寝ている。食ってしまおうかとも考えるが、家にいる以上餓えることもないのでその必要はない。
足を少し上げて頭を入れたのを確認するとそっと足を下ろす。そのまましっぽでくるんでしまえば、鳴くこともやめておとなしくなった。それが落ち着くからなのか、圧迫されているからなのかは知らない。ただこれでおとなしくなるということは過去の経験から学んでいた。飽きたら動き出すだろうと考えて、眠りに入った。



「そいつ苦しくねーの?」
「え、さぁ?でもこれでおとなしくなるし……」
真っ黒な毛並みの猫の足元に、同じく黒っぽい塊がうずくまっている。俺たちとは違い、何周りも小さい彼は、たびたび俺や黒猫の足元へと入り込む。つぶさないようにと俺はよけていたが、目の前の森山は押しつぶさないように器用に彼を挟み込んでいる。
「伊月―、苦しいか?」
「……」
「おい、伊月?」
「……はっ、何ですか?」
そんな挟まれている小鳥の伊月は、話を聞いていなかったようで森山の足の間から顔をのぞかせた。
「……そうは見えねぇな」
「だな」
「え?え?何ですか?」
「いや、なんでもねぇ」
間抜けに鳴いた伊月はきょろきょろとしたあと再び顔を森山の足元にうずめた。やはり落ち着くらしい。
「鳥って、親の足元で暖を取ったりするから、それと同じ原理なんだろうなぁ」
「森山が親みてぇなもんか」
「宮地だってそうじゃない?」
「鳥なんて食う対象だろ」
「……そういや宮地って野良だっけ」
「まー、食えるもんはなんでも食うって感じだっただけだけど。」
「外怖い」



「あれ、高尾は?」
俺よりもさらに大きい犬……大坪と木村が散歩から帰って来たらしく部屋へと入ってくる。この家は大型だろうが小型だろうが室内飼いをしており、急に出てこられると正直驚く。それは寝ていた猫の緑間も同じのようで、のそりと起き出した。
「俺の足元」
「高尾は宮地が好きなんだなぁ」
「ただの習性だ。おら高尾、どけ。そろそろ飯だ」
「んー……」
足をどければ、再び俺の腹目がけて埋まろうとする。それを遮るように起きれば、高尾はぴーぴー鳴きながらついてくる。
「ったく、なんで今日は緑間じゃねーんだよ」
「だってしんちゃん、今日の運勢は最悪だから近づくなって」
「木村ぁ、あいつつぶせ」
「さすがにあんな高い場所には登れないぞ。宮地たちと違って」
「ほら、はやく行くぞ。緑間も降りてこい」
「はい」
すたん、とほぼ天井から床までの高さぶんある上り台から、緑間は軽々と降りてくる。それを見た高尾がパタパタと翼を広げ、ちょっとだけ宙に浮いた。しかしそのまま飛ぶことはできず、床へと落ちる。
まだ子供、かつ飛ぶことにも慣れていない高尾は、まだ宙を飛ぶことはできない。逆に緑間は、数週間前までは上に登っても降りることはできなかった。どちらも単純に、まだ子供だからという理由で。
高尾はそれが嫌なようで、なんどもチャレンジをしては失敗を繰り返す。その様子を、この家に2年ほどいる俺らはただ眺めるだけだ。
「遊んでねーで行くぞ」
するり、と少しだけあいた隙間から部屋の外に行けば、大坪が前足を使って扉を広く開けた。そうして最後に緑間と、高尾が遅れてやってくる。
あらあらと飼い主が俺たちに気が付いて、それぞれの食事を出しにかかった。高尾の飯だけはすでに小屋の中にそのまま用意されていたらしく、高尾は飼い主に抱えられて小屋へと入った。
俺は部屋の隅に置かれているソファに乗って丸くなる。
食事が出るまで、あと数分。

2016/03/24

アニマル化がやりたかった。
ただ動画で鶉が猫にくっついてるのを見て思いついたネタ。単発。




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