知らぬ空へと羽ばたく鷹

5

白い天井。薬の匂いが漂う部屋。ぼうっとする頭で自分がなぜここにいるのかを考える。おそらくだがここは救護室だろう。その部屋のベットで俺は横になっている。
試合中、黒子のマークをしていてスティールを阻止しようとして頭に激痛が走った。おそらくあのときに頭をなにかにぶつけられたのだろう。単純に考えて肘だと思う。それで気を失って、声を聞いた。花宮先輩と、黒子の声を。
試合はもう終わっただろうか。4Q目の出来事だったからすでに終わっている気がする。ま、終わっても終わってなくても今から参加は出来ないし勝敗は決まっているんだろうけど。
息を吐いて体をベットに沈める。救護の先生が居ないためか、酷く静かだ。無音の部屋にただ1つ、俺の呼吸音だけが聞こえている。

「目、覚めたん?」

ドアの開く音が聞こえ、さらに人の声が聞こえた。その方向に視線を向けると、そこに居たのは去年卒業した先輩だった。体を起こそうとした俺を止めて、今吉先輩は冷たいペットボトルを俺のおでこに乗せた。冷たくて思わずペットボトルをつかんだ。大丈夫そうやな、と先輩は言って近くの椅子に腰掛ける。なんで居るんだろうと一瞬だけ考えて、そういえば見に来ていたんだと思い出す。にしても何故ここにいるんだろうか。

「花宮がこれへんから代わりにきたんや」
「・・・だからサトリって言われるんですよ」
「心外やなぁ」

高尾は顔に出やすい、なんて言われて思わず毛布を顔の半分まで被る。俺はそんなわかりやすい人間だろうか。そりゃ感情は頻繁に表に出しているけれど。
先輩は俺に渡したものとは別のペットボトルを持っていて、口に含んでいた。俺が倒れてからずっとここにいたのだろうか。それだったら大変申し訳ない。だって先輩は高校生でバスケ部だ。そっちの練習も少なからずあるのに。確かに今日は休みだと言っていたが、だからといってここに長くいられるはずがない。

「もう少ししたら帰るか。駅までなら送るで」
「あーはい。ありがとうございます」

こっちの気持ちを知ってか知らずか、先輩は気ままにそう言った。



_____________


帰り支度をすませ、ベットから起き上がろうとした瞬間、ノックが聞こえた。俺に用事がある人間でノックをするひとは滅多に居ない。俺は今吉先輩と顔を合わせてどうぞ、と答える。するとドアが開き、そこにいたのはさきほど試合をした帝光中の黒子テツヤと

「・・・あ?」

キセキの世代の1人。青峰大輝だった。何故ここにいるのか少々問いたい所だが、口には出さない。というか今日の試合に居なかっただろ・・・

「どうも。」
「確か高尾と試合しとったよな?」
「はい。黒子テツヤです。」
「しっとるかもしれへんが、こっちが高尾和成。ワシは今吉翔一、桐皇学園高校の1年や」
「はい。こっちはチームメイトの青峰大輝です」
「・・・どーも」
「よろしゅう」

"初めて"出会う青峰。本来、今吉先輩と青峰は高校で先輩後輩の関係になるはずの人間だ。あと2年すればそうなっているはず。でもこんな所で対面していいのだろうか。一歩間違えれば青峰が桐皇に来ない可能性もあるのに。・・・そういえば今吉先輩の最後の試合、結局優勝出来てなかったんだよな。WCに関しては1回戦で誠凛に負けてるし。
それはともかくとして、なんで2人がここに来たんだろうか。

「えっと黒子、君?何か用?」
「怪我の具合はどうかと。僕にも非があると思いましたので。」
「なんもないで。頭は頑丈やからなぁ」
「ちょっとせんぱーい?なんか含んでませんか?」
「なにもないで?」

本当か?そうやって遊んでるから花宮先輩に嫌われちゃうんだよー。なんて思うけど口に出したら怒られそうで。口に出して無くてもばれてそうだけど。

「良かったです。高尾君に何かあると緑間君にあわす顔が在りません。」
「」

今、彼はなんといった?というか何故緑間の名前が出てくる。まさかそうなのか!?そうなのか!?思わず目を開いて黒子を見てしまう。黒子は相変わらずの無表情で、それがどこか懐かしく感じる。

「思い切ったなぁ」
「それは肯定ということで良いんですか?」
「ええで?なあ高尾」
「えっと・・・まぁ、はい」
「しっかりせえな。にしても珍しく静かやなぁ青峰」
「うるせ。つかまだ桐皇にいんのかよ」
「やっぱり落ち着くからなあ。再来年はまっとるで?」
「しらね」

とりあえずベットからでて座る。つまり目の前にいる黒子と青峰もまた、俺たちと同じ昔の記憶を持つ者だということだ。
そこから少し話をして、結果として得た事といえば。キセキの世代の5名とマネージャーである桃井さつき、そして黒子テツヤは俺たちと同じ記憶を持っているということ。つまり試合の時に色々言ってきた黄瀬涼太も記憶があるということだ。だからあんな事色々いえたのか。そして黒子が花宮先輩に対しての視線がどこか怖かったのもそれが理由だろう。過去に黒子の先輩がバスケが出来ないほどの怪我をさせられているから。といっても今回は俺が負傷者なんだけど。
どうやら俺が退場してから色々と動きがあったらしい。黒子を下がらせ、2Qと同じメンバーになった帝光に対し、花宮先輩たちは頻繁にラフプレーをしかけにいったらしい。結果として俺よりも重傷のけが人を1人出したという。俺の時には非を認めたららしいが、その時は知らない振りをしていたようだ。その怪我人は病院に運ばれており、どうなったのかはまだわからないという。先輩たちは今年で引退だから良いが、その学校でバスケをする俺たちの評判がだだ下がりなのは分かり切っている。それを1年でどうするかも問題だ。

「長いはまずい。そろそろ帰るとするで」

救護室を出て外に。俺の鞄は何故か青峰が持っていた。意味が分からない。受け取ろうとしても何故か今吉先輩に止められた。確かに頭は打ったが、問題はないらしいのだからそこまでしなくてもいいのに。

「つかなんで今吉サンたち一緒にいんだよ」
「そういえばそうですね。同じ学校でしたっけ?」
「うん?あー今回だけね。前は関東だったのに気が付いたら関西だよ?びっくりした」
「ワシも後輩に他校の生徒が来てびっくりしたわ。まさか一緒になるとはおもわへん」
「ふーん。俺たちは前とかわってねぇしな」
「そうですね。赤司君も変わらず2年で主将になりましたし。」

2年で主将と聞いて思わず笑う。相変わらずやばいやつだな。驚きだ。俺にしては最大の天敵だからあまり知りたくないけど。あのときの屈辱は忘れてないんだぜ?
駅まで4人で歩き、近くまで来てやっと鞄を返してもらう。帰る方向がバラバラの為、駅で別れることとなった。

「1人で帰れるん?」
「平気ですって。」

今吉先輩の言葉に笑って返す。それに1人じゃないし。鷹の目を使ってみれば、ちょっとした死角になっている場所に見える見覚えのある人影。案外優しい所あるんだよね。

「あ、そうそう。黒子」
「はい?」
「真ちゃんに伝言。"来年の全中で会おう"って言っておいてー」
「自分で言えばいいじゃないですか。番号教えますよ?」
「いいのいいの。本番で対面したほうが面白いじゃん?あ、俺が言ってたって秘密ね」
「はぁ・・・わかりました。」
「来年っつーと俺たち総出になるぜ?」
「望むところ!まぁちょっと厳しいけど、帝光と当たるまでは負けずにやっていくよ」
「今までの成績超えてええんで?」
「あーそれはちょっとどうでしょう。1回戦敗退はもういやですけど」

今回は1回戦で帝光と当たって敗退。でもその前はベスト8にまで上り詰めた。さすがである。俺はベンチで見てただけだけど。

「次回、またよろしくな」
「はい。」

そう言って別れを告げて改札まで。そこで俺の肩に掛かっていた鞄がなくなる。どうしてこうも鞄がなくなるのか。取った本人は何も言わずに電車に入る。俺はそれを小走りで追った。

2012.11.6


inserted by FC2 system