知らぬ空へと羽ばたく鷹

6

花宮先輩も卒業し、中学の最高学年。あの年まであと1年となった。現在のバスケ部のレギュラーは俺を含めた3年5人。ベンチには1年と2年を中心にいれてある。レギュラーが全員3年生なのはちょっとした監督の気遣いだろう。去年までずっと先輩たちがスタメンやレギュラーで、俺の学年の部員はほぼ公式戦には一切出れていないから。
今年になって入部する生徒が減った。それはもちろん去年の全中の試合が原因だろう。それでも入ってくれた子達には感謝しかない。だからといって手加減もなにもせずに前と同じようにやっていくけれど。
主将は何故か俺になった。花宮先輩直々の指名だった。監督に聞いても大丈夫だろう、と言われてしまってそのままずるずると主将の仕事をすることになってしまった。ミニゲームやらなんやらにレギュラーのメンバーと一緒に参加しながらも後輩に目を配る。こういったときには鷹の目は本当に便利だ。よそ見をしているとは思われないし、なにより全員の行動がしっかりと見れるから対策もできる。でも、それでもこれには欠点があった。去年まではまったく気が付かなかったことだ。
1日の練習が終わって3年が我先にと帰って行く中、軽く身支度を調えた状態で座り込む。今日はレギュラー対その他での試合を行った。PGとして動いていた俺は、今まで通りに動いていたはずだった。鷹の目で回りを見ながら視線をそらさずにボールを回す。きっと、それがいけなかったんだろう。投げたボールはそのままレギュラーの真横を通り過ぎた。一瞬、なにが起こったか分からずに目を見開く。結果としてそのボールは相手チームに取られる。なにをしてるんだ、と取れなかった奴が言ってきた。とりあえずごめん、と謝っておいて再度ボールを放る。そこで気が付いた。彼らは自分にボールがくると思っていない。マークされていなければ多少来るとは考えているが、俺の視線の先を見てどこに行くかを考えているのだ。だから俺が視線を向けてから投げなければボールは取れない。そこまで理解して、俺は鷹の目を使うのをやめた。ボールのスティールなどの時には使うが、パスの時には使うのをやめた。やったところで受け取れないのなら、やらない方がいいという判断だった。でもそれは、戦力ダウンも明かだった。
ふう、とため息をつくとボールを片づけていた後輩たちがいくつかのボールを手に取ったまま近づいてきた。なにかと思ってみてみると、後輩たちは視線をあちこちに飛ばしながらも口を開いた。

「あの、先輩。えっと・・・」
「うん?どうした?」
「これから練習してもいいですか?1時間だけでいいんです!」

自主練習をしたいという後輩の言葉。言ってきたのは1年のPGだった。現在、2年にPGがいない。いてもいいはずだが、去年は俺と花宮先輩がいたということもあってPGになろうと思った人がいなかったのだ。それに辞めていった人も多かった。だから俺を除けば唯一のPG。後ろにはベンチ入りを果たしている後輩たちがいた。
監督は、と視線を巡らすと帰ろうとしている副主将と会話をしているのを見つけた。まぁ、多少くらいなら平気か。何かあれば俺が仲介に入ればいいだろう。

「わかった。いいけど、無理するなよ」
「はい!」

元気な返事と共に後輩たちが駆け出す。5人の内SGの1人はハーフコートからの3Pを達成させようとボールを手に取る。残りの4人はPGの指示で動き始めた。2on2かなにかでもするつもりだろうか。シュートの精度を上げようとしてボールを持ったまま走っていた。がんっ、というゴールにボールが当たる音と、ネットをくぐる音が聞こえてくる。今年の後輩は練習を一生懸命にやるなぁと、他人事のように感じていた。俺の去年や一昨年といえば、今吉先輩や花宮先輩と共に行動しているのがほとんどで。レギュラーだったから仕方がないということもあるが、同年代や後輩の練習を見ることなどほとんどなかった。だからこれがどこか新鮮で。

「高尾」
「はい?」

声を掛けられて振り向くと、副主将がそこにいた。何かよう?なんて聞くと彼は眉間にしわを寄せた。

「今日のボール回しなんだよ。去年とまったくちがうじゃねーか」
「うん?あーそうだった?」
「ごまかすなって。去年と同じように回せよ」
「・・・無理っしょ」

彼の言葉に少し考えてから返答する。去年と同じように回した結果が今日の試合だ。先輩たちはどうやって俺のボールを取れていたんだろうか。たった半年もたっていないのにもう忘れていることに少し笑った。

「ボール取れなさすぎ。」
「それはこれからやってけばいいだろ」
「お前はいいけどさ、残り3人が出来る?」

副主将でありSGである彼は言葉に詰まった。彼は1年の時に同じクラス同じ部活ということ親しくなった人物だ。副主将になったのは俺の推薦だったりする。口は悪いが言い奴だ。花宮先輩よりはわかりやすい。

「無理だと思ったからパスの仕方を変えたんだ。大丈夫だって!全中にはいく」
「あたりめーだろ。俺らの最後の試合だぞ?お前はともかく俺は初めてなんだから」
「わかってるって!お互い頑張ろうぜ」
「ふん。」

彼はそっぽを向くと後輩たちの所に歩いていってしまった。正確にはSGである後輩の元だ。2年生の彼はおそらく来年、レギュラーとして試合に出ることになるだろう。だからこそ、彼は頻繁に指導をしている。SGと聞いて真っ先に浮かぶのがあのエース様で、未練が残ってるんだなと再確認。再会は全中の試合の日まで大事に取っておく。昔は沢山やられたけれど、今年はそう簡単に負けてやらない。こちらからしてみれば相手の手の内は大抵把握出来てる。だからといって帝光中のキセキの世代に本気で勝てるとはあまり考えていないけれど。無冠の五将がいても勝てなかったのに、なんて。ただの言い訳。
監督のそろそろ上がれ、という言葉で全員が練習を止めた。片付けて身支度を調えて体育館を出た。遅くなってもまだ明るい空を見上げてあと何ヶ月、と心の中で数える。全中の試合が終わったら受験に切り替えなければ。秀徳を受けたいと思っているが、スポーツ推薦が取れなかったときのことを考えると勉強をしておかなければいけない。成績は別に悪くないけれどやって損はないはずだ。

「高尾ー帰るぞ」
「おう」

過去、3人と、2人と先輩と歩いた道を、今度は同年代と一緒に歩く。2人とも関東に行ってしまってここ最近は連絡も取り合っていない。IHとWC、暇があったら見に行こう。なんて。実際行くことは出来ないんだろうけれどももしいけたらいいなと考えた。





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「おい、1年と2年」
「はい」
「お前ら主将のプレー見ろよ」
「え?」
「1年後半からレギュラーとして動いてきたあいつは俺たちと格段に違う力を持ってる。あのパスを受け取れるのだって限られてるしな」
「あのパスって、主将が無意識にやってるあれですか?」
「そ。試合に出たいと思ってるならあのパス受け取れるようにしておけ。俺の権限で公式戦、出してやる」
「本当ですか!?」
「出たかったら取れるようになれよ」
「はい!」

2012.11.17


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