知らぬ空へと羽ばたく鷹

9

3Qの開始時、コートや帝光中ベンチはどよめいた。どういうことなのかとベンチにいる未来の後輩を問い詰めたくなる。高尾のチームは総入れ替えを行っていた。先ほどまでいた選手はSG1人だけ。PGの高尾はベンチにいるが、他の3人の姿はなかった。

「この試合、捨てたのか?」

疑問を口にだすと、隣にいたうさんくさい同年代が否定した。

「少し違うで。来年を視野にいれたんやろ。今居るのはSG以外1年2年や。」
「はぁ?」
「PGも・・・1年やね。ベンチにはSGの2年がおるから、あとで入れ替えするんやろうな」

ベンチに目を向けると、確かにもう1人、ユニフォームを手に戸惑いを隠せていない選手がいた。高尾がそれを笑いながらなだめているのが見える。
コートでは紫原のDFから逃れたボールがコートに入るたびに歓声が上がっていた。入った選手やチームメイトが一団となってよろこんでいる。そんな無邪気な様子が中学生らしかった。

「ええなぁ。高校じゃこんなことあらへん」
「喜んでる暇あんならDFに回れってなるな」
「せやな」

走り出す青峰に必死になって張り付く選手。身長の差が20cmほどあることからそれがPGなのだろう。平均身長と言われながらも周りが大きすぎるが故に小さく見える、高尾のような選手だ。もっともキセキにも赤司と黒子がそれに当てはまるのだろうが。
そんな黒子はベンチで桃井となにか話しているようだった。声もなにも聞こえないが、様子を見ると試合を見ながら2人で微笑んでいた。それはどこか楽しそうで、嬉しそうな表情だった。






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「おつかれ」
「次よろしくな、高尾」
「もちろん」

3Qが終了し、入れ替わりで俺と2年SGが入る。これで最後の試合となるとどこか感情深い気がする。前の中3の最後は緑間にボロボロに負けたんだよなぁ、と思い出して思わず笑みがこぼれた。といっても俺が笑っていることはいつものことなのでそれを気にする人はいない。

「・・・よし。次Q、黒子が・・・背番号15の奴がはいると思う。気が付いたら居なくなってるしボールは不自然に曲がるから対処しづらいと思うけどキセキなんてそんなもんだ。そいつは俺がマークするから、4人は好きなようにやれ」
「えぇ!?」
「なんとかなるって!・・・って。ありゃ?」

ふと帝光ベンチの方に視線をむける。そこにはふてくされる黄瀬と慰める桃井。そしてそれをまったく気にせずに準備する残りのキセキの世代の姿があった。どうやらラスト、黄瀬は出てこないらしい。めずらし。OFが弱くなるかと期待したくなるが、どうせ青峰と緑間がいるし、なによりもサポートで黒子が入るから大して変わることはないだろう。なにかあれば紫原がはいればいいわけだし。

「あー、まぁどうにかなるかな」
「先輩」
「ん?ああ、いくか。楽しんでいこうぜ」
「はい!」

コートに入ってふと緑間と視線があう。あった瞬間、緑間の視線が不自然にずれて思わず笑う。何々、そんなに俺のこと気になるのー?なんてちゃかしてもみたいが、生憎と試合なのでそうはいかない。緑間から視線をずらして、すぐ側にいた黒子へと視点を合わせる。

「ラストよろしくなー」
「どうしてこうも良く当たるんですかね」
「そりゃ黒子が見える人が限られてるからだろ?」
「・・・そうですね。」

ブザーが鳴った。それが最後の試合の合図だった。


**


結果は言わずもがな。俺の中学バスケ部時代はこうして終わりを告げた。あの時のような酷い惨敗ではなかったし、どこかすっきりとする試合だった。試合が終わって泣き出す後輩たちをなだめてから、会場を後にした。皆で食事をしてから帰ろうという話を断って(おそらくお疲れ様会か3年を送る会でもするつもりだったのだろう)俺は一人、懐かしい東京の町を歩いていた。ジャージであるが故に活気のあるところはさけ、昔わりと行ったストバスへと足を進める。試合やったばかりなのに、なんて思いながらもその足は止まっていない。

「やあ」

ストバスに付くまで、その足は止まらないかと思っていた。しかし、横から聞こえた声で足は止まった。視線を向けると、そこには目立つような赤色があった。

「・・・なにか?」
「少し話がしたくて。いいかい?高尾和成くん?」
「別にいいけど、何か?赤司征十郎?」

赤色は、赤司は俺の様子を見て笑った。近くにあるベンチに赤司が腰掛け、俺はその隣に座るのがいやで立ったまま。

「今日の試合、とてもよかったよ」
「なに?嫌み?」
「いや?2Q目までにいた選手たち相手じゃ、君は本来の力が出せなかったようだからね」
「・・・?」
「無意識だったか?4Q目の試合、鷹の目を使ったパスを平然と使っていただろう?」
「・・・」

4Q目の試合を思い出す。確か、黒子のマークにずっとつきながら、後輩たちのサポートでパスを回したりはしていた。その時のバスは

「・・・あ」
「気が付いていなかったんだね。君らしいバスケだったと思うよ」
「なんでそんな上から目線?」
「当然だろう?」
「おいおい・・・」

素晴らしい厨二病をありがとう、なんて死んでもいえないけど。

「それで?それだけの話をしにきたんじゃないだろう?」
「ああ、これはあくまで思い立ったから言っただけだ」
「おい」
「本命は真太郎の事だよ」
「緑間?」

なんで緑間?とは思ったがまぁたしかに俺と緑間は親しかったし、一応両方とも記憶があるから接しようと思えば接せられた。今回はまだ全然話してもいないしあってもいないけど。

「君は今は関西なのだろう?高校はどうするつもりだい?」
「一応秀徳だけど?親には言ってあるし」
「なるほど」
「で?」
「ああ、実はキセキの世代の全員をスカウトしたいと言い出している学校があってね」
「・・・はぁ!?」

昔、キセキの世代は全員が別の高校に進学した。自分よりも強い選手を知らなかったキセキの世代はバラバラになった。その理由は分からないし、聞いたこともない。ただなんとなく、あんなキャラの濃い選手全員が同じ学校にいたらさぞ大変なんだろうなとは考えたことはある。

「前はテツヤがバスケ部を止めるきっかけとか色々あってバラバラになってしまったけど今はそんなことはなくてね。全員同じ高校にいくかもしれない」
「・・・ふうん」

それはつまり、あの時のように六校で競うこともなくなるということか。火神が誠凛にいたとしても、キセキの世代がそろった所に勝てるとは思えない。それになりより、緑間と一緒にプレイはできない。

「なんで俺に?」
「一応前は君に真太郎がお世話になったからね。秀徳に行くということは緑間がいるだろうと期待していたんだろう?」
「・・・別に?」
「真太郎がどうするかは知らないけどね。僕としてはもう少し、キセキの皆とバスケとしたいという思いがある」
「洛山にはいかないってことか」
「どうだろうね。一応スカウトは来ているから。それに洛山にはすでにレオたちがいるようだからね。」

無冠の五将の三人。昔と同じように今回も洛山が獲得しているのか。高校バスケについてはまだ情報を集めていないからわからなかった。そういえば結局無冠の五将相手に試合をしたのは一度もなかったか。花宮先輩との練習試合を除いては。

「ご親切にどーも。緑間がいようがいまいが秀徳にいく事に変わりはねーよ。」
「そうか。それを聞いて安心したよ」

一体なにに安心したのか。赤司はすっと立ち上がると俺に背を向けた。

「よければ二人でゆっくりと話をするといい。今後の話でもね」
「は?」

急になにを言い出すのかと聞こうかと思った瞬間、後方から来る視線に思わず振り返った。そのせいで赤司に聞くことは出来なくなったけれど、聞かなくてもすぐにわかった。

「・・・それ、今日のラッキーアイテム?」
「ああ、兎のぬいぐるみなのだよ」

そこにいたのは可愛らしい兎のぬいぐるみを持った緑色の長身なジャージ姿の中学生。昔、平日は毎日のように朝から帰りまで一緒にいた、高校時代の友人。

「試合おつかれさん。真ちゃん」
「ああ、久しいのだよ。高尾」

キセキの世代、かつ秀徳バスケ部エース、緑間真太郎がそこにいた。

2013.1.21


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