知らぬ空へと羽ばたく鷹

10

目の前にいる懐かしき相棒は、昔よりも少し幼く、白い制服に身を包んでいた。それがどこか新鮮で、違和感だった。
すでに赤司の姿はない。一体どこに行ったのかは分からないが、もしかしたら他のキセキの元に行ったのかも知れない。相棒は、緑間真太郎は俺の正面に立って、手には兎のぬいぐるみを持っている。久々の再会で、何を話さそうか口を開いては閉じる。なんでこうも緊張しているのか。

「高尾」
「なに?」
「赤司の言ったことは気にするな。」
「え?」

緑間の言葉に、俺は最初反応出来なかった。なにを言っているのか理解出来なかったからだ。少しして赤司の言ったことを思い出す。キセキの世代が同じ高校に進学するということ。別に気にしてないけど、とは言ったが緑間はそれに耳を貸さなかった。

「どのみちそこに進学する予定は誰もないのだよ」
「どゆこと?」
「黒子はすでに誠凛に行くと言っているし、他もそれぞれ推薦が来ていてそれを受けるつもりだ。無論、俺も秀徳を受けるし、赤司も洛山を受けるだろう」

その言葉で、赤司にからかわれていたのだと理解する。なんでそんなことをしたのかは分からないけど。
ずっと立っているのもあれで、俺はなんとなく近くにあったベンチに腰掛けた。少し間が空いて、隣に緑間が座る。

「どのみちお前は秀徳をうけるのだろう」
「あったりまえじゃん!」
「人事を尽くすのだよ。俺は先に行っている」
「もちろん。真ちゃんの相棒は俺だけだしぃ?」
「なにを馬鹿なことを。下僕の間違いだろう」
「ひっでー」

けらけらと笑いながら、なんだか懐かしいな、なんて思う。去年の試合では会えなかったし、試合中はまったく接点が無かった。それなのにこうして昔通りに話せているのは、どこか不思議な感じがする。昔とは違った先輩、後輩、環境で育ったが、結局俺は昔となにも変わっていないということか。それは緑間にしても同じことなのだろうけど。
それからどれだけ経ったのか。数分かもしれないし1時間かもしれない。ふと俺の携帯が鳴った。誰からかと思って相手を確認すれば、同じチームメイトからの電話だった。出ようとは思ったが、まだ緑間と話したいという気持ちもあった。出るかでないか悩んでいると、それを察したのか緑間が促した。通話ボタンを押すと、慌てた声が聞こえる。

『やっと出たな!』
「なに、どした?」
『監督が全員招集かけた!急遽駅まで来いだってさ』
「うえっ。今日は何もしないって言ってたじゃん」
『しらねーよ。俺らも急いで向かってるからお前も来いよ』
「はいはーい。了解しました」
『んじゃな』

ぷつん、と一方的な電話はすぐに切れた。どうかしたのか、という緑間の問に、招集が掛かった、とだけ伝える。少し間が空いて、それならしかながないな、と立ち上がった。それにつられて俺も立ち上がる。

「次会うときは秀徳なのだよ」
「・・・ああ。待ってろよ?」
「ふん。」
「あっ、鼻で笑っただろ今」
「早く行かないといけないんじゃ無かったのか」
「あ、やっべ。じゃぁな、真ちゃん」

鞄を持って、駅の方角へ向かって駆け出そうとする。その前にと、足を止めて緑間の方を向く。

「まったな!」
「・・・ああ」

緑間から挨拶が帰ってきたのを確認してから駅へと駆け出す。駆けだした後、緑間がふと笑ったのを俺はしらない。

**



全中の試合も終わり、無事に帰還した俺を待ち受けていたのはもちろん高校受験だった。今までは部活に打ち込んでいたのだから、と両親も教師も受験の話を頻繁にだす。バスケをしていたからスポーツ推薦を利用すれば進学は楽だろう、と言ったのは担任だ。その時すでに秀徳高校に進学したい、ということは両親には伝えてある。特待を取れば、という条件の下、それは許可されている。ただ反応が芳しくないのは学校側だった。学校側からすれば出来れば過去に進学経験のある学校に行かせたいらしい。その方が教師とすれば楽だし、今後その学校を進学する生徒にとっては情報がより多く得られて有利だからだ。それでも俺は意志を覆すことはなかった。
秀徳はバスケの名門だ。バスケでのスポーツ推薦枠は広いが、その分条件は厳しい。なおかつ地方からとなったらさらに厳しくなるのは目に見えていた。だから正直一般試験で受けるつもりだった。運が良ければスポーツ推薦、ダメだったら一般で、というのが俺の考えだった。
だから、バスケ部顧問から呼び出しをくらい、なおかつ秀徳からスカウトが来ている、と聞いたときは度肝を抜かれた。断る理由が無いためにそれを了承して数週間後。

俺はなぜか秀徳高校の門をくぐっていた。

2013.2.26


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