知らぬ空へと羽ばたく鷹

番外編1:ハロウィン

半年通っているいつも通りの道を歩く。そうすれば誰かしらが声を掛けてきて、俺はそれに答えた。後方から来た友人が見てみて、なんて言いながら肩を叩く。俺はその友人の姿を見て、思わず笑った。似合ってる?なんて言われて笑いながら頷く。どうしてそんな格好してるんだ、制服に似合わない、等と言うことは多々合ったが、それは別の友人が口にしていた。
学校に着いて教室に入れば、すでにいたクラスメイトが近づいてくる。そして友人の服装を見て笑ったあと、手を出した。その後に綴られる言葉を聞いてから、俺は鞄から袋を取り出して渡す。そして今度は逆に俺が手を出した。友人は申し訳なさそうに2つの飴を俺の手においた。
10月31日。世間に疎い人ならばなんの行事か分からないだろう。でも、きっと行事名を言えば誰でも分かる。そんな日。元々はキリスト今日の万聖節という聖人を崇敬する日の前日に行うもので、ケルト歴の大みそかに当たる。また、お盆とも言われているが、生憎と外国の文化には疎いから仕方がない。日本ではアメリカなどと比べると大々的ではないが、土日などには仮装した人が街中や電車に現れたという。経済効果ではホワイトデーを上回り、そこそこ皆が楽しんでいる行事である。

「高尾ー!」
「あーはいはい。代わりになにくれる?」
「高尾にはこの!苦いと好評のチョコをあげよう!」
「苦いのかよ。俺左手に持ってるそのクッキーがほしいなー?」
「なぬっ」
「高尾のお菓子はまじで貰ったほうがいいよ」
「ぐぬぬ・・・仕方があるまい。受け取れー!」
「あざーす!俺もプレゼントフォーユー!」
「ちょっなにこれすごっまじで!?」

クラスメイトの大半とのお菓子交換。行事に一体どこのような関係があるのかは分からないけれど、楽しんだもの勝ちだから結局これでいい。最終的にはチョコ、クッキーといった多くの洋菓子が手元に残った。さすがに和菓子を持ってきた人はいなかった。チャイムが鳴って担任が入ってくると、何人かの人が家から持ち出した物を身につけて先生に言った。

"トリックオアトリート"と。


__________


お昼は友人たちとお菓子の食べ合いを行って、放課後はいつも通り友人たちに別れを告げる。そのまま今日も通常通り行われる部活に参加する。何人かはお菓子を持っていたが、部活に来てから交換しようとする人は出てこなかった。着替えた後、先に来ていた部員とともにアップを始める。10月だから外を走る時は少し寒い。アップが終わる頃には全員がそろっており、レギュラーとそれ以外に別れての練習が始まった。
部活はいつも通りに行われた。すでに7時を回っており、部員もぞろぞろと帰宅していく。残って練習をしていた部員も部室を出て、最後に残ったのは自分だった。部室を出ようとして、部室の鍵が無いことに気が付く。そういえば俺が持っているのではなかった。となると最初に部室を開けた人が持っていることになる。辺りを見回してもないようなのでとりあえずスペアを借りてこようと思って外にでた。ほうっと息を吐けば少しだけ白くなった。この寒さならもう冬と思ってもいいかもしれない。

「おせぇ」

急に声を掛けられて思わずビクついた。何かと思うとすぐ隣には花宮先輩の姿があった。

「へぁ!?なんで先輩ここに?」
「どっかの馬鹿が部室の鍵を持って帰ったって連絡が来たから閉めに来たんだよ」

先輩の手にはスペアの鍵があった。部室の鍵は部員全員が開け閉めするのに使用する鍵の他、先生側で管理するスペアがある。俺はそれを借りに行こうとしていたのだ。

「えっと、すみません。俺待ちでした?」
「来たら電気が付いてたからな。」
「あー・・・すみません」
「いいから退け」
「はい」

ガチャガチャとドアに鍵が閉まる。きちんと扉が開かないことを確認した先輩は俺に向けて鍵を投げつけてきた。どうやらこの鍵を返してこいということらしい。俺は鍵をしっかりと持つと、誰もいない、薄暗くなっている校内を駆けた。
ぎりぎりまだいた日直の先生に鍵を渡して帰路につく。昇降口で待ってくれていたらしい花宮先輩が一緒だ。たわいのない会話をしながらの帰り道でふと部活のせいで忘れていた行事を思い出す。

「先輩」
「あ?」
「トリックオアトリートです」
「ああ、ハロウィンか。」
「はい!お菓子をくれないと悪戯します!」
「部活終わりに元気だな」

先輩はそう言いながら鞄から板チョコを取り出した。なにかと思って見ているとパキンと一部が折られて。気が付けば俺の口に入れられた。どうやら無理矢理入れられたらしい。何するんですか、と言おうと思った瞬間、思わず口を押さえた。

「出すなよ」

当たり前だと首をたてに振る。しばらく口の中をもぐもぐさせて空にしてから、俺は言葉を発した。

「苦っ!うあーこれ口に残るんですけど・・・なんですかこれ」
「カカオ100%チョコレート。」
「ぶっ、確かに俺お菓子って言いましたけどこれですか!?」
「んだよ、てめぇが言い出したんだろ」
「言いましたけどー」

先輩の事だから持ってないって言って終わらせるかと思っていた。まさかお菓子をくれて、なおかつそれが苦いチョコレートだとは思いもしなかったが。これ、言ってきた人全員にやったのだろうか。それはそれで恐怖だが。

「で?」
「はい?」
「トリックオアトリート」

先輩に言われて思わず目を開いた。あれ、案外そういうことする人だっけこの人。いやまぁ出会って半年だから多少は性格を知っているつもりだったけれど。

「なんだよ」
「あーいえなんでもないです!どーぞ、俺特製のパンプキンケーキです!」
「は?手作り?」
「妹と一緒に作ったんです。味の保証は一切いたしません」

初挑戦だったから上手かどうかはわからないので、と一応言っておく。言い訳かもしれないけど本当のことだし。ちなみにケーキと言ってもマフィンだ。カップケーキでも通じるし語呂がいいのでケーキと言っておく。先輩はそれを少し見た後鞄に入れた。俺はそれを身ながら朝には多くのお菓子が入っていた袋を覗く。たった今花宮先輩にお菓子を渡して、残ったのは1つだ。会えるかなーなんて淡い期待でいたが結局会うことが出来なかった。どうしようかな。手作りの場合、早めに食べて貰った方が嬉しい。賞味期限が存在しないから後になるほど相手には渡しづらい。・・・ああ、そっか。

「花宮先輩は今吉先輩の家知ってます?」
「あ?知ってるけど」
「良かった!ならこれ届けてくれませんか?」

最後の1つを取り出して袋ごと渡す。中身は花宮先輩と同じものだ。

「今吉先輩にだけ渡せなかったんですよ。お願いします!」
「はぁ?自分でいけよ」
「俺、今吉先輩の家知りませんもん。それに今日は家族でハロウィンのケーキ食べるんで早く帰らないといけないですよー」
「しらねぇよ。」
「おねがいしまーす」

無理矢理先輩に押しつけて一足先にと駆け出す。ちょうど別れる道の所まで走って後ろを振り向く。

「絶対渡してくださいねー!」

なにか返事をしようとしていたがそのまま道を曲がって少し走る。会えたら自分から渡したかったのは本心だ。でも時間も時間だし、今吉先輩の家によったらいつ家に帰れるか分かったものじゃない。母が作ったケーキがあるのも本当。妹が待ち遠しそうにしているのが目に浮かぶ。なので先輩。苦手意識持っているのは知っていますけど、ちょっとお願いします。

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「そんできたんか」
「来る気なんてねぇよ」
「でもいまここにいるやん」
「ちっ、とりあえず渡したからな」
「ちゃんと受け取ったで。所で花宮」
「あ?」
「トリックオアトリート?」
「ふざけんな」

2012.10.31


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