知らぬ空へと羽ばたく鷹

番外編3:練習の一コマ

「高尾、これからしばらくシュートの練習でもしよか?」
「・・・え?」

中学1年としてのバスケを始めて間もない頃、ふと思い立ったように、主将である今吉先輩は言った。その言葉に思わずバスされたボールを落としてしまうほどには動揺していたと思う。パスしてきた同年代に謝ってからボールを拾い投げ返す。

「どういうことですか?」
「そのまんまや。ちょいとシュート率あげよっか」

部活が終わり、チームメイトたちがぞろぞろと帰りだした時間帯に、俺は今吉先輩と一対一で対面することとなった。実際は同じ部屋に花宮先輩もいるが、こちらには興味を示さずに帰り支度をしているから、実質今吉先輩と一対一。
にっこりと笑う今吉先輩。彼から言われた言葉が提案ではなく強制に聞こえるのは気のせいだろうか。

「別にコンボガードになれといっとる訳やないから」
「さすがにPGとSGの兼用は厳しいです」
「わかっとるって」

コンボガード、ポイントガードとシューティングガードを両立してプレイするという特別なポジション。今まではポイントガードが自ら得点を取りに行くのはチームプレーができないという評価だったけど、NBA選手が成功を収めてからは認められつつある。といってもその選手は主にSGで俺とは逆なんだけど。

「レイアップだけでもええんやけど、今のチームやとSG弱いんや。高尾と同い年で入ったSGは初心者やし」
「それで俺にSGをさせたいからシュート練をしろと?」
「そういうことや」

まぁ確かにバスケではオールラウンドであることを求められることも多い。SFになる選手はもってのほかだ。時々ポジションの概念が曖昧になって選手によって変えている人も見るけど。それはともかく、実際先輩にもSGはいる。俺が今更練習したところでその先輩を超えられるか、と言われれば微妙だ。なら今後のことを考えてPGを磨いた方がいい、と思う。それに加えて同い年のSGは初心者ではあるが筋はいい(らしい)。彼を鍛えた方がずいぶんましだ。

「本音いったらどうですか」

同室にいた花宮先輩は視線だけをこちらに向けて言った。思わず花宮先輩の方を見るが、彼は興味なさそうに言葉を続けた。

「俺の時は本音だったでしょうに」
「せやったか?」
「まどろっこしい言い方ではありませんでしたよ」

猫かぶりの言葉遣いで花宮先輩はにやりと笑う。それに今吉先輩は肩をすくめた。

「どういう意味ですか?」
「2週間後、任意のチームでのトーナメント戦するんだよ」
「?」
「まぁワシと監督のノリで去年からしとるんやけどな」

説明としてはこうだ。どうやら去年、今吉先輩が2年で主将になった時から、任意で好きなチームを組み、トーナメント戦を行うというちょっとしたミニゲームを定期的にやっているらしい。3on3の試合だそうだ。ほとんどの公式戦ではスタメンや主要なメンバーしか出ることはできないから、試合形式で少しでも全員にゲームをさせたい、というのが表向きな理由。本当の理由は教えてくれなかった。

「そんで必ず1年を含んだチーム作らんといけないんよ」
「それで俺に入ってほしい、がPGがかぶるのはまずいと」
「そういうこと」
「まぁ、外が弱いのも事実なんやけどな」

どうやら今吉先輩がPG、花宮先輩がSFで入るから俺にSGで入ってほしいらしい。というかこの3人でチーム組む予定だったんだ・・・。昔じゃ絶対あり得ない組み合わせだ。

「まぁ・・・そんくらいだったら」
「おおきに」
「でもなんで俺がSGなんすか?」

体格からすれば今吉先輩がSGや、PFになっても問題ないはずだ。おそらく俺よりもオールラウンドで動ける。しかも昔の試合で3P打ってた気がするし。

「3Pは秀徳の十八番やろ?」

にっこりと笑ってそう言われて、俺は思わず言葉を失った。先輩、それは秀徳じゃなくて緑間の十八番です。

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「どうしてこうなった・・・っ!」
「諦めが肝心。ほら走った走った」

なぜか俺は近くの中学との練習試合で、SGとして試合に出ていた。PGは今吉先輩で、SFは花宮先輩だ。CとPFは3年の先輩たち。俺PGのはずなのに、と肩を落としても花宮先輩に諦めろとたたかれるだけだった。
理由なんて思いつかない。少し前の3on3で全勝したからといって、元々いたSGの先輩をのけて俺が入れるはずはない。・・・が、今そんなことを考えても意味がないので取り敢えず試合に集中することとする。

2013.8.21


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