もういちどさいしょから

異聞録

夢を見る。いつもいつも、同じ夢だ。
少し前にこの地域を騒がした騒動は、いまだ鎮静せず。されど一部の者には過去のこととして葬り去られた。俺もまた、それを過去として葬った1人だ。いや、本当は葬ってはいけないだと思う。なんたって俺は当事者で、被害者で、加害者でもあるのだから。

体育祭1か月前、俺たちはペルソナ様という遊びを行った。これが俺たちのはじまりであり、喜劇で、悲劇である物語の始まりでもあった。
もしペルソナ様をしなければ、その物語に巻き込まれることはなかったんじゃないか、なんて少しでも考える自分が恨めしい。
この事件の犯人や、黒幕や、原因や……たくさんの真実と出会いながらも、俺たちは進んでいた。けれど、幕引きはひどくあっけないもので、結果としては何の解決にも至らなかった。俺たちの心には、きっと後悔が残っている。だけどその思いを全員が持っていると知っているから、誰も口には出さないし、感情に身を任せることもしていなかった。
体育祭も終わり、学年が変わったころには、8人がバラバラになっていったのは、わかりきったことだった。クラスが変わっただけではなく、同じクラスでいても、まるで腫物に触れるかのような関係になっていて、それを修復する気も、使命感も持ち合わせてはいなくて。しばらくたてばそれも日常に変わっていくのだろう。

「藤堂、話がある」
「……ん?」

ある昼休みの時間、再び同じクラスとなった南条が声をかけてきた。その時の俺は食事を終え、記憶の彼方にあった課題をやっていた。
ペンの動きは止めずに南条の方へと視線を向ける。ここでふと、南条と顔を合わせるのも久々だなと思った。それくらい、俺はあのメンバーとの交流を絶っていた。

「稲葉が」
「稲葉?」

突然稲葉の名前が南条の口から出され、思わず手を止めた。南条と稲葉はあまり相性が良くなく、なにかと言い合いをしていることが多かった。

「全員で園村の見舞いに行かないかと声を駆け回っている」
「……」

行くか?そう聞かれ、俺は少し考えた後、行く日付を聞いた。返ってきた答えに俺は、"行きたいけど行けない"と思わせるように、予定を告げて断った。

あの後、彼らが本当に見舞いに行ったのか、誰が行って誰が行かなかったのか。それを聞くことはなかった。それは俺が彼らとの交流を完全に断ち切ったことを意味し、進学も誰とも出会わぬ場所にしたからだった。
卒業の日、校門の所に南条らの姿があった。車が止まっており、その種類からそれがおそらく南条のものであることは想像がついた。周囲には見知った顔がいくつかあったが、俺は声をかけることもなく、学校を後にした。
そうして誰もいない家に帰って、ベッドに倒れるようにして体を預けて、

目が覚めれば、カレンダーは1年以上も前を示していた。


毎日の習慣である予定の確認をして少し頭を抱えた後、こんな非科学的なことあるはずがない。と思考をめぐらせて、そういえばペルソナも非科学的だということを思い出して、さらに頭を抱えた。
過去に戻る、という行為はまるで、あの別世界に飛ばされたときを思い出すが、あれと同じような前兆もなにもなくというのはどこか引っ掛かりを覚える。しかし、ここでずっと悩んでいたところで解決策はなにもなく、ただ時間だけが過ぎていく。そこで仕方なく授業の準備がされているであろうカバンをもって、居間へと向かうこととした。着替えは、無意識的に行っていた。

学校までの道のりを歩いていると、後方からの足音とともに、肩を叩かれた。

「おっはよーなおりん!」

それはゴーグルがトレードマークである上杉によるもので、朝からテンションが高かった。

「おはよう」
「あれ?なおりんテンション低くない?もっと上げていこうぜ!」

上杉はそういうと俺の横を通り過ぎ、一足先に校舎へと姿を消した。その様子を見て、俺はそっと溜息をついた。本当に戻っている、と。


あれからあの時と同じようにペルソナ様を行うことになり、再びフィレモンとであったりとあの時と同じ順序をたどっている。再びあの結末になってしまうのか、それとも"前回"の記憶を持っている俺がいることでなにかが変わるのか、それはいまだにわからずにいる。けれど、少なくともあの未来のように、バラバラになった……俺が自ら断ち切った関係が戻っていることにひどく安心していることも事実だった。

「藤堂?どうかした?」
「……いや、何でもない。いこう」

これを幸運と思うか不幸と思うかは人によって違うだろう。人生は、戻ることはできないのだから。しかし、もし、やり直す機会があったら、皆はどうするのだろうか。聞いてみたい半分、聞きたくない半分、といったところか。けれど、俺は少しだけ、これを幸運に思う。俺のせいで崩した関係が、再び戻るのならば。俺はもう、自己犠牲も厭わないだろう。それが周りにどう影響するのかは、考えないこととする。

2014/08/05

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