ポケモンと生活

オリジナルトレーナーとポケモンしかいません。1-5まではネームレス。6-は名前も出てきます。非公式設定も混じっていますので注意


おかーさん!フシギダネどこいるの!?
バタバタと2階から階段を下りる音がする。それはこの家の子供で、今日はこの町の子供たちが集まる学校の日だ。気に入りの服に身を包んで、いろいろな物が入ったカバンを持っている。子供は家の中を走り回り、母親に怒られていた。
今日はポケモン連れて行っていい日なのに!
子供はそういいながら家の中を見回す。父や母の手持ちポケモンたちの中で、体がそこまで大きくないものたちが家の中でくつろいでいる。ちょうど朝食時なこともあり、ポケモンフードを食べているものもいる。ポケモンは10歳になったら持つことを許される、パートナーのような存在だと人は言う。子供の中で何名かはそのポケモンと一緒に旅に出る。地域によってはほぼ全員が旅に出たり、逆にほとんど出ない場合もある。それはきっと地域によるものなのだろう。この家では、父親は旅に出なくて、母親は旅の経験があった。でもどちらも、数の差はあれどポケモンと一緒にいる。
この家の子供は7つ。いまだポケモンを持つことは許されていないが、いずれパートナーとなるポケモンがいた。しかし残念ながら今日は見つけられないようだ。
母親の遅れるわよ、との声に諦めたのか、カバンを持って家の扉を開いた。いってきまーす、という元気な声が家の中で響いて、家の外で数人の子供の声が響く。
家の中での子供の声が聞こえなくなって、ポケモンたちと母親だけが家に残った。
ふるふると背中を振るわせると、それに気が付いた子が足元からのそりのそりと出てきた。同じように背中を振るわせて、日の光を浴びると気持ちよさそうに鳴いた。
その動きに気が付いたのか、庭への扉が開いて子供の母親が、私のパートナーがやってきた。手にはポケモンフードの入った入れ物が2つ。
ゆっくりと体を起こして、床に置かれたポケモンフードに口をつけた。それをみて、鳴いた子も私よりも一回り小さい入れ物に頭を突っ込んだ。
この子は生まれて2つになる。卵のときから、あの子供が抱えて育てた、私の子供だ。私の手を離れるのはさみしいが、子がパートナーの子供と一緒にいるのはうれしい。
いつか子供も旅に出る。子供はパートナーに似た。10になったら子供は外へと行くのだろう。険しい道のりもあるのだろう。楽しい出会いと、悲しい別れがあるだろう。時には挫折することもあるだろう。それでも、世界を見ることはいいことだ。新しい発見がある。私がパートナーに出会えたのも、こうして今長閑に過ごしているのも、パートナーが旅に出てくれたからだ。
ポケモンフードを食べおえて、私は再び日光浴へと戻る。最近天気が悪かったこともあり、日の光は久々だ。それは子も同じ。足元で子もつぼみに光をためていた。うとうとし始めると、家の中にいたポケモンたちも庭に出てくる。ぱたぱたと走り回るものもいれば、まるで私に身を預けて寝始めるものもいる。家の中でパートナーが家事をしている音を聞きながら、私はゆっくり目を閉じる。
2020/11/2




真夜中になると、一斉に電気が消えた。ほんのり廊下や部屋を照らす豆電球と、とある場所だけで煌々と光る明かりだけになる。最初は怖かったけれど、今ではなれたものだ。
カーテンを閉めて、布団の中に潜り込む。手元にあるスマホロトム(ロトムは入っていない)を開いて、いつものようにSNSを覗く。そこには、僕の知らない世界がある。ここ最近気になっているのは、定期的にキャンプカレーを作っている人物だ。その人のポケモンと一緒に、色々な種類のカレーの写真が上がっていた。今日はカレーと一緒に、においに釣られた野生ポケモンが写っていた。たしかそう、ピクシーだ。月からやってきたと言われているポケモンで、山のなかで生息していたはずだ。この人は、どこでキャンプをしているんだろう。
写真に、色々な人がコメントしていた。カレーについて、ポケモンについて。中にはその人と同じくポケモンと一緒にいる人、ポケモンと離ればなれの人、沢山の人がいた。それを見ながら、世界の広さを知る。中には異国語も混じっていてまったく読めなかった。
世界はたくさんあって、僕のいる地方とは別のところにも、たくさんの人とポケモンがいるらしい。直接見ることはできないから、こうしてネットの世界で見ることが、僕の楽しみだ。
ネットはどこまでも繋がっている。この機械1つで、他の地方と簡単に繋がることができる。昔は、連絡するにも一苦労で、ココガラなどの鳥ポケモンに手紙を持たせていたらしい。今でも一部地域では使われているみたいだけど、僕のところではまったく見かけない。スマホロトムで、声1つでほかの人に繋がるからだ。
そんな世界で、僕の知る世界はほんの米粒程度に小さい。この地域の、この町の、この病院しか知らない。テレビの向こうで、ジムチャレンジが盛り上がっている。SNSの向こうでたくさんの人が毎日のようにポケモンと出会っている。すべて、僕のしらない世界。
僕も、ピクシーに会ってみたい。会って、戦って、捕まえて、冒険にいきたい。キャンプをして、カレーを作って、ジムチャレンジをして、チャンピオンと戦って。やりたいことだってある。でも、僕にそれが出来るだろうか。
そこまで考えて、ぶるりと身震いした。布団を被ってはいるけれど、夜なのもあって冷えてきたのだろうか。毛布でももらった方がいいかなとおもって視線をスマホロトムからそらして。
「……うわあああぁああ!」

「夜に大声を出しちゃいけません!」
「はい、ごめんなさい」
僕の声に気がついたナースさんが慌てて部屋に入ってきて目の当たりにしたのは、びっくりしてベッドから転がり落ちた僕と、ベッドの上に置き去りにされた電源のはいったスマホロトムだった。
かくして僕は夜中ではあるけれど部屋の外で怒られていた。スマホロトム没収、とも言われてしまったけれど、懇願してどうにかそれは解除してもらった。
30分くらいして解放された僕は再び布団に潜り込んだ。そうしてから顔だけ布団から出して、テレビ台の隙間を凝視する。
ケテケテ、と表現していいのかわからない声が聞こえて、ゆらりと隙間から目が覗く。先程、僕の目の前に出てきた姿と一致した。
「お前のせいだぞ」
僕がそういうと、ポケモンは再度笑って、姿を闇のなかに消した。病院はお化けが出るってよく聞くけれど、まさかこんなに身近にポケモンがいるなんて!そう思えば、怖い暗闇もどこか楽しく感じた。
僕の世界はとても小さいけれど、そんな小さい世界にもポケモンがいた。
2020/11/5



3.
地面が揺れる。正しくは僕が乗っている船が揺れる。カイナシティを出発した船は、ミナモシティに向かうためにたくさんの人を乗せて進んでいた。船の甲板ではポケモントレーナーたちがバトルを繰り広げていて、そこにはたくさんの人がいる。それも気にはなるけれど、それよりも僕は船から眺める外の光景に目を奪われていた。
「すごい!」
日の光に照らされて海が光り輝く。時々見える水ポケモンたちは、船と並走したり、逆に船から逃れるように姿を消したり。そして空には、キャモメたちがたくさん飛んでいた。船内で販売されている、水ポケモン用のフードを空に投げれば、キャモメたちはうまくそれを口に入れる。海に落ちてしまっても、それは海の中にいるポケモンたちが一瞬で食べてしまった。僕の住んでいる場所は海の多いホウエン地方の中でも内陸に位置しているので、こんなにも広い海、そして多くの水ポケモンたちはすごく新鮮だった。
帽子が飛ばされないように手で押さえながらも、手すりから顔や体を出しちゃいけないという約束も忘れてしまいそうなくらいには、僕が見ている景色はとってもきれいだった。
「がう!」
「わかってるよグラエナ!でも見てよ、すっごい景色だよ!」
足元にいたお父さんのポケモンであるグラエナに注意されても、僕は海から目が離せなかった。
「ポケモンの言うことは素直に聞いておくものだぜ、おぼっちゃん」
その声と一緒に急に襟元を引っ張られ、僕の体は一瞬宙に浮いて、そして地に足が付いた。振り返ると僕よりは大きくて、お父さんよりは若い男の人がいた。お姉ちゃんと同い年くらいに見える。そうして、僕は約束を破って手すりから身を乗り出しそうになっていたことを思い出した。グラエナも最初は男の人に警戒していたけれど、すぐに僕の足元に来て座り込んだ。
「落ちたらそのまま海の藻屑になるのが関の山だ。グラエナじゃ、海の中まで追いかけられねぇしな」
男の人はそういうと、連れて歩いていたエネコロロの頭をなでた。首元にはピンクのスカーフを巻いていて、すっと背筋を伸ばしていてきれいだった。
「ご、ごめんなさい」
「ちゃんと謝れるだけよしとするか」
バカなことをしてポケモンの心配かけさせるなよ、と男の人は言った。その言葉に僕は頷きで返した。そして、エネコロロを連れて、船内へと男の人はいなくなった。それを見送って、はっとなってグラエナを見た。
「ごめんね、グラエナ」
「がう」
しゃがんでグラエナを撫でれば、べろりと手を舐められた。くすぐったくて、思わず笑ってしまった。
「ねえ、もうすこしだけ海を見てもいい?今度は危ないことしないから」
僕がそういうと、グラエナはもう1つ鳴いて、海の方へと視線を向けた。それにつられて同じ方向へと振り向く。
「あ!」
思わず両手で手すりを握る。海の向こうに、とっても大きい島があって、その上にたくさんのキャモメがいた。なかにはもっと大きい、ペリッパーもいる。島の近くにはぽつぽつとなにかが浮いていた。
「たくさんいるね!」
キャモメたちは島の上で毛繕いをしたり、手にいれたエサを食べたりしていた。ペリッパーはあの大きな黄色いくちばしで加えてそのままひと飲みだ。ちゃんと教えればあの口の中に荷物を積めて配達もしてくれるけど、野生だとそのまま飲んでしまう。いつだったかのテレビで、海のゴミを食べてしまって病気になっちゃったポケモンの特集をしていた。
すこし別の場所に行けば、普段見ることのないポケモンと出会える。それが、なんだかうれしい。
ばさりと強い風が吹いた。目をつむると同時に、頭の上を冷たい風が通った。
「あ!」
僕の声でグラエナも気が付いたのか空を見上げた。僕の被っていた帽子が空を飛ぶ。手を伸ばしても届かない距離まで飛んで行って、そのまま海へと落ちていく。
「あ、あー……」
お父さんに誕生日プレゼントで買ってもらった帽子。赤と黒の帽子はぽちゃんと海へと落ちてしまった。しばらく眺めていたけれど、海に落ちてしまったものは戻ってこない。さすがに船から海へ降りるわけにもいかないし、それは水ポケモンを持っていても同じだ。
「お父さんに謝らないとだね」
「がう」
手すりから手を放して、グラエナを連れて客室へと向かう。怒られたくないな、と思いながらも、船の中へと続く扉を開いた。

少年の背後で、とあるポケモンが帽子を咥えた。ぶんぶんと振り回し、ある程度水を飛ばすを咥えたままポケモンは飛び出す。ポケモンはそのまま、さきほど少年が見ていた島へと降りた。多くの同胞たちに囲まれて日光浴を楽しむと、ぶるぶると島がゆれるのを感じ取り、全員で飛び立った。少年が島だと思っていたものは、潮を一吹きし、海へと潜っていった。
2020/12/9 



4
負けた。あっさりと。いや、いままでずっと順調に勝ち進んできたのがおかしいのだ。多くのコーディネーターはきっとここよりも前で1度挫折を経験している。だから、私は遅かったのだ。
ポケモンコーディネーターにとって、ホウエン地方のコンテストというのは、トップを目指す上で避けることのできない重要な課題だ。数多の地方があるなかで、一番の盛り上がりを見せ、そして数多のトップコーディネーターを生み出した。そしてその最難関とも呼ばれるポケモンコンテストマスターランク。ホウエンのミナモシティで行われるそれは、ホウエン各地にあるコンテストでノーマル、スーパー、ハイパーと突破したもののみが挑むことができる。そこにパートナーと1年かけてたどり着いた。事前の準備はぬかりなかったし、コンディションも問題なし。あとは会場ですべてを出し切るだけだった。そして、出し切った、はずだった。
「……ごめんね。うまくできなくて」
「ぐるぅう」
故郷から連れてずっと一緒にいるパートナーの頭をなでる。毛艶も問題なし。ポケモンにはなんの非もない。悪いのはポケモンのすべてを引き出せなかった自分。
慢心していたつもりはない。けれど、きっとどこかで油断があったのだろう。考えれば考えるほど落ちていくテンションに気が付いていながらも上げることができない。
灯台の下から海を眺めて、ちっぽけだなと、そう思う。
「お前、今日のコンテスト出てたやつだろ?」
ふと、後ろから声をかけられてふりむく。そこには私よりは少し年上のように見える青年が一人。青年は嫌な目つきでこちらを見てから、ふっと笑った。
「なんか勘違いしてねぇ?」
「はぁ?」
青年はじっとこちらを見ながら今度は明らかに嘲笑った。
「俺よりちょっと下でマスターまで行ったって聞いたからどんな奴かと思えば……お前本当にトップコーディネーター目指してるわけ?」
「あ、あたりまでしょ!」
青年の言葉に思わず立ち上がってこぶしを握った。目指しているから、コンテストに出て、マスターランクまで上り詰めたのだ。なのに何も知らない初対面にあれこれ言われる筋合いはない。
「君こそなんなの。急に出てきて」
「トップコーディネーターっつうのはマスターランクで優勝すれば終わりってほど簡単な世界じゃねぇぞ。」
青年はこちらの話していることなんて全くの無視で、口を開いた。
「あくまでマスターランク優勝は通過点だ。お前が対戦した残り3人も、マスターランクでの優勝経験はあれどトップコーディネーターじゃない。有名どころのルネシティのジムリーダーだって、有名なコーディネーターとされてはいても自らトップとは言いだしたりしねえ。お前はマスターランクでの優勝だけを目指した。そりゃあそれより上を目指してるやつらに勝てるわけがねえよ。ただリボンが欲しいだけなら、さっさと実家にでもかえって家事手伝いにでも転職することだな」
青年はそれだけ言うと満足したのか、選別だ、と何かを投げよこした。とっさにキャッチして青年に視線を向けると、青年はすでにこちらには背を向けて去ろうとしているところだった。
声をかけようとして、ふと青年の言っていた言葉を思い出す。私は、マスターランクの先を見ていただろうか。マスターランクで優勝すれば、トップコーディネーターになれると思った。青年の言っていた人だって、私からしたらトップだ。でも、きっとあの人本人はそう思っていなくて、日々精進しているのだろう。ここで、終わりじゃない。
私はここで終わると思っていたのだろうか。優勝の先とは、なんだろう。
近くでずっと見ていたポケモンが、私の足元にすり寄った。無意識にポケモンの頭をなでる。この子はきっと、バトルのほうがすきだ。なのに私の夢に、わがままに付き合ってバトルとは正反対のコンテストに出てくれている。一緒に、コンテストの世界で戦ってくれている。
「わたしは」
私は、コンテストで優勝してすべてを終わりにはしたくない。でも、優勝できずに立ち止まることもしたくない。優勝した先になにがあるかはわからないけれど、今はただ、ひたすら前に進むだけ。たかが1回目の挫折で、付き合ってくれているポケモンたちに無様な姿は見せたくない。そして、無駄に喧嘩を売るようなやつにも。
「ねえ!君名前は!?次にあったときはもっとすごいパフォーマンスを見せてやるんだから!」
今度こそ声を上げて、張り上げるように青年の背中へとぶつける。青年は背後からもわかるように肩を震わせて、笑っているのを隠しもしない声色で言った。
「お前が諦めなきゃいずれわかる」
青年の背後が見えなくまるまで見送って、私は再度海を振り返った。
「……ひろいなぁ」
すでに日は暮れ始めて、灯台が光を灯す。暗くなることでより一層海の向こうの地平線との境目はわからなくなった。

「珍しいってか?」
ミナモシティの民宿の一部屋で一息をついて、ポケモンを出せば、ボールの中から見ていたのであろう、首をかしげる様子を見せた。カバンからブラシを取り出してブラッシングをしてやれば、気持ちよさそうに目を閉じる。
「いいんだよ。張り合いのあるトレーナー人口が増えるのはいいことだからな」
コーディネーターの世界で、有名なトレーナーは何人かいる。その何人かが、世間からトップコーディネーターなどと言われる。バトルの世界で一番強いジムリーダーがトップジムリーダーなんて呼ばれるのと同じ理由だ。でも、それを他称されたらクリア、というほど世界は甘くない。あくまでホウエンが一番盛り上がっているってだけで、コンテストでいえばシンオウにもあるし、他の小さな大会だってたくさんある。トップと呼ばれて驕ればすぐにその地位は陥落する。まあ、ルネシティジムリーダーはバトルでもトップを張るので結構な高みにいるのは間違いないが、でも届かないわけじゃない。
ポケモンを鍛えて、磨いて、整えて、経験を積んで、可能性は無限大にある。データでは測りきれないほど、この世界にはたくさんの、俺を魅了するものがある。
ああ、だから。これだから
「これだからポケモンはやめられねぇよなぁ」
2020/12/9 



5
「ああ、いいぜ」
ジムトレーナーからの申し出に即時に返答すれば、トレーナーはほっとする様子を見せた。
というのも、トレーナーの弟がこの度10才になり、旅に出るのだという。ジムチャレンジを希望しているが推薦元がなく、この度ジムリーダーである俺様に願い出たというわけだった。
ポケモンは?と聞けば今度ブリーダーから受け取ることになっているとの返答が返ってくる。
昨年、チャンピオンが初めて推薦状を書いたと話題になっていたが、ジムリーダーは意外と推薦状を書く機会は多い。各町にある学校の成績優秀者に書くこともあれば、こうした身内、知り合いに頼まれて書くこともある。無論、推薦状を書くということはその子供のやったことに責任を持つことにもつながるので、必ず会って話をしてから書くようにはしている。そして時にはポケモンの融通もする。ポケモンと出会う機会がなかったりする場合には、ジムで保護しているポケモンと引き合わせることもあるし、ブリーダーを紹介することもある。時には野生ポケモンとのバトルに付き合ったり、その時にポケモンを貸したり。これもすべてジムリーダーとしての仕事だ。
「ああ、今日ロビーで話してたのは」
「はい。もうそろそろいらっしゃると思います」
ふと、トレーナーが朝方受付で話していたことを思い出す。ポケモンの譲渡に関してはブリーダーが関わる場合は書類が必要になる。トレーナー同士の交換が簡単に行われるのとは違い、ブリーダーはポケモンの繁殖や場合によっては野生への帰化にもかかわるため、リーグ公認であるものしかいない。そのためいろいろ書類が必要になる。10才にならない子供が関わる場合には親族などの関係者が保証人となる。今回はこのトレーナーがその保証人となるのだろう。ただジムの仕事もあるためロビーの使用を希望していたのだ。それを承認したのは先週のことだったか。
「せっかくだし、推薦状も書くなら見に行くか」
そういって立ち上がればトレーナーはずいぶんと驚く様子を見せる。リョウタに少しの間のことを任せると、了承の返答が返ってきたのでそのままロビーへと足を向けた。
ロビーにつけば、すでに子供とブリーダーがそろっており、何かを話していた。成人はしているのだろうが、まだ年若い女だ。ブリーダーとして登録しているのであれば、オレさまよりは年上なのだろうけれど。
「さて、保護者もきたことだし始めるとしようか」
ブリーダーの視線がこちらに向いて、彼女はそのまま子供へと向き直って口を開く。
「譲渡の話をしたときにも伝えたが、これはデータでもない現実だ。バトルをすればポケモンは傷つく。手当をしなければそのまま死んでしまうこともある。けれどペットじゃない。ポケモンにはポケモンの意思がある。君には君の思念があるのと同じで、ポケモンにも思念がある。もしかしたらそれは君の思っていることとは全く違うかもしれない。それでも、君たちは隣に立つと決めた。互いに互いの命を預けるんだ。君の1つの判断がポケモンを危険にさらす。それでも、君はポケモンと一緒にいくかい」
「はい。それが、僕の選んだ道だから」
ブリーダーの言葉に、子供はうなずいた。随分子供にとって難しいことを話すな、とは思う。だがある意味、それはとても重要だ。ブリーダーはその返事にうなずき返して、手元にあったモンスターボールを1つ、宙に投げた。
「君とポケモンの、初めての出会いに祝福を」
ポケモンは周囲を見回して子供を見つけると、子供の周りをくるくると回った。子供はしゃがみこんでから、そっと手をだす。するりと、ポケモンが子供の腕に巻き付いた。
「初めまして。これからよろしくね」
「きゅうっ」
子供とポケモンは、ブリーダーから渡されたモンスターボールと書類を抱えると、ポケモンセンターへと駆け出して行った。それを追いかけるようにジムトレーナーも駆け出した。子供だけでは書類提出ができないからだ。
ブリーダーはそれを見送って、こちらを振り向くと軽く頭を下げてから近寄ってくる。
「此度はここを貸してくださりありがとうございます」
「トレーナーの誕生は喜ばしいからな。気にするな」
ブリーダーは再び頭を下げると、ところで、と一言咥えて。
「キバナさんで合ってますか?」
「……ああ。そうだ。」
いまのいままでオレさまだとわかっていたのか、わかっていなかったのか。ガラルじゃ有名だと自分では思っていたので、知らない人間がいたことに少し驚いた。が、子供に渡したポケモンがガラルの極一部、しかも発見率は極めて低かったのを思い出し、ガラルに在住はしていないのだと思い立った。しかもあのポケモンはガラルリーグでは認定されていないので、ジムリーダーやトレーナーは使用ができない。唯一の例外は挑戦者で、他地方からくることもあり、一部のポケモンは解禁されている。これまではワイルドエリアで発見されていたポケモンのみだったので、これでもずいぶん緩和されたものだ。
「とあるポケモンの引き取りをお願いしたいのですが」
「オレさまに?それはジムとしての保護の話か?」
「いいえ。あなたに。」
ブリーダーはそういうと、カバンから1つのボールを取り出した。中は見えなかったのでわからないが、時々カタカタと動いていることからなにかは入っているのだろう。
「先日のエキシビションを見たこの子がどうしてもあなたのポケモンになりたいと。一種の一目ぼれですね」
「そりゃあうれしいが……」
ブリーダーの言葉にありがたさは感じるが、現在リーグに登録していないポケモンも含めれば6匹以上は手持ちとして存在する。戦略の幅を、と思って増やすことはあるが、コンセプトもあるし、ましてやドラゴンタイプ専門なので(一部を除けば)専門外のことも多い。
歯切れの悪い言葉を返せば、ブリーダーもそれはわかっていたのか、特に押し付けるような様子はなかった。
「ドラゴン使いだと聞きました。」
「まあ」
「でしたら、ドラゴンの一途さも無論ご存じですよね」
「そりゃあな」
そこまで返して、まさか、とつぶやく。それにブリーダーはうなずくと、モンスターボールを宙に投げた。
「私も、この子の親も反対したのですが言ってきかず。終いには自力で逃亡してしまいそうだったので。___最初にカントー地方で発見された、ドラゴンの中のトップ。ドラゴンタイプの育成が極めて難しいといわれている理由の1つ。その幼体ではありますが、どうか受け取ってはくれませんか?」

「で、受け取ったと」
「しかたないだろ!あの子供が受け取ったときも近づきたくてしょうがなかったんだ!」
あのあと、結局ブリーダーからそのポケモンを受け取ってしまった。ガラルのリーグでは出すことはできないが、ちゃんと申請すれば育成できるし、非公式であれば戦闘にも出せる。
あきれたリョウタの視線は気にしないようにし、部屋の一角で手持ちと戯れているポケモンを見やる。初の育成になるのでどのように育つか、育てるかはまだ考えていない。いつかは欲しいと思っていたポケモンではあった。ずっと思っている、憧れのトレーナーの手持ちでもあるそのポケモンは、ワイルドエリアには生息していなくて。今年のチャンピオンに見つけました!と言われたが、欲しいというのはなんか年上として気が引けて。まさかこんな出会いになるとは思いもせず。
あの子供と同じように、とはいかないが、一から試行錯誤するのも、たまにはいいか。
2020/12/10 



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