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せっていを かえる
真っ白な部屋。
どこか、Nの部屋を連想するここはただこの部屋に唯一ある時計の針の音だけがむなしく響いている。
一体、いつ自分はここにきたのだろうか。
辺りに外に出るための出口は見あたらない。
ただ、真っ白な部屋に1人で立っていた。
いつも一緒にいる彼らの姿もない。
ここはどこだろうか?
「やあ」
ふと、声が聞こえた。
自分1人だけがいると思っていて、そして新しい音に驚き振り返る。
俺と同じように帽子を被った人が、そこにいた。
「誰?」
「誰だと思う?」
彼は、そう言って笑った。
色のない部屋で、彼はとけ込むようにそこにいた。
「君は、どんな冒険をしているの?」
ぽつん、ぽつんと何もない部屋に浮かび上がるもの。
それは今までの冒険の記録。
今まで書いてきたレポートの数だけ、浮かび上がった。
いろんな人と、交換や対戦をした記録。
皆と一緒に冒険した記録。
それが、浮かび上がり、消えていく。
「それが君の冒険?」
彼は目を細めて、それを見た。
沢山の人と出会った。
冒険の中で多くのトレーナーやジムリーダー、四天王にチャンピオン。
草むらにいる沢山のポケモン。
そして、プラズマ団とN。
二度と会えないようであえる皆の姿が、浮かび上がって消えていく。
Nと別れてから、新しい場所に行った。
そして、新しいポケモンたちに出会った。
冒険の中で見ることのできなかったポケモンたち。
それは、どれも新鮮で。
600を超えるポケモン達は、いつも自分に新鮮な感情をくれた。
「君は知っているかい?」
彼は、見たままに話し始めた。
「こんなにポケモンが増えるまでにあった冒険を。」
彼はそう言ってふわりと、別の記録を取りだした。
俺と同じような少年や少女が、俺と同じように冒険をしている。
知らない地域で、未だ見ぬポケモンたちとともに。
「ここまでに至るまでに、忘れられかけているものたちを。」
多くのトレーナーが浮かび、そして消えていく。
それは、イッシュでは見たことのないトレーナーたち。
似ていても、それは確かに違った。
「古き物は、皆捨てていく。新しい物へ乗り換えるために。」
そして、出てきたのは自分の持っている物と似ているようで違う、図鑑。
「僕たちはこれを集めるために冒険に出たはずだ。そう、全てはそれが始まり。」
彼の手には、2つの違う図鑑。
そして、先ほどの記録の少年少女たちも、違う図鑑を持っている。
ポケモンを見つけて、捕まえて、倒して、記録していく。
そう、俺たちは全員、博士に図鑑を完成させることを頼まれて冒険を始めた。
いつしか、その冒険の理由はすり替えられているけれども。
「君は知っているかい?ポケモンが493匹だった時代を。」
マフラーをつけた少年少女が、2匹の巨大なポケモンを相手にしている。
赤い鎖がポケモンを縛り、苦しんでいた。
そこで笑う、男性。
少年たちは、険しい顔をしながらもモンスターボールに入っているポケモンとともに、歯を食いしばる。
ゆがんだ時空は、全てを飲み込もうとしている。
「君は知っているかい?ポケモンが386匹だった時代を。」
2人の少年少女が、天候を変えるポケモンと、大きな竜のようなポケモンを見ていた。
そこは、日照りと大雨が同時に発生しその中心で緑のポケモンが吼える。
唖然としているのは2人の男性。
3匹のポケモンは、お互いに叫び争っていた。
「君は知っているかい?ポケモンが251匹だった時代を。」
少年が、大きな鳥ポケモンと対峙していた。
少女が、青いポケモンと対峙していた。
少年が、渦に隠れたポケモンと対峙していた。
そして、彼らは、山の頂上にいる少年と対峙していた。
全員が微笑み、そしてポケモンたちも歓喜の声を上げた。
「君は知っているかい?ポケモンが151・・・いや150匹だった時代を。」
そう言って少年は、どこからもなくモンスターポールを取り出した。
そして、そのモンスターボールは音もなく開いて、出たのは。
「始まりは、150のポケモン達。君の冒険までにこの子たちを原点に全てが始まった。」
ポケモンは、小さく鳴くと真っ白な部屋を飛び回る。
「君は、これからも沢山のレポートをかく。」
いまも、こうして。
いつものレポートを書く音が、聞こえた気がした。
だが、辺りを見回してもいくつも浮かぶ記録だけが目に入った。
「でも、僕はそろそろ書けなくなるから。」
すっと、少年は実体がなくなるように。
「でも、君たちがそうして冒険できるのならば僕はうれしいよ。」
ゆっくりと、少年の輪郭は薄くなって。
「まっ・・・!」
「僕はそろそろ限界だけど。もう1つの冒険がまだ残ってる、そして未来の冒険も」
ポケモンは再び鳴いた。
いくつも浮いていた記録はその声で1つ1つ消えていく。
まるで、すでにロードが出来ないことを表すように。
「知らない子が増えても、知ってる人はきっと覚えていてくれる。
それなら、僕は・・・僕たちは消えない。」
彼は、姿が消えているのにもかかわらずに、変わらない笑顔を俺に向けた。
「つないで欲しい。僕が消えないためにも。これからも。」
ポケモンは、真っ白な部屋を飛び回って少年の元にたどり着いて。
一緒に、消えた。
残ったのは、最初と同じ自分だけ。
少年は、一体なんだったのだろう。
でも、どこか懐かしいようで
近くにいるようで遠くにいる人だった気がする。
また、少年に会えるだろうか。
「 !」
呼ばれて、俺は振り返った。
先ほどの真っ白な家はではなく緑のある場所。
俺の冒険の出発点。
そこで、それをともにした彼らが、待っていた。
それを見て、俺は笑って走った。
空は青く、あの部屋にいたポケモンが飛んでいるような気がした。
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せっていを かえる
2011.06.30.