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ポケモン(赤緑青×BW)

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 せっていを かえる   

初めて此処にきたのは、一体いつだろうか。
何年も前か、それともつい最近か。
時々、気が付くと自分は此処にいる。
1人・・・いやモンスターボールに入った彼とともに。
この真っ白な部屋は時々見覚えのあるものが浮かび、消えていた。
それは、初めてポケモンを貰った時。
それは、初めてバッジを手に入れた時。
そして、初めて殿堂入りしたとき。
懐かしき記憶が、それによって呼び起こされる。
でも、もうその時を感じることは出来ないだろう。
自分しかいないこの空間に、新しい色が加わった。
自分よりも、色鮮やかなそれはあたりをきょろきょろと見回していた。
どうやら自分の姿に気が付いていないようだ。
僕は微笑むと、彼に近づいた。
「やあ」
久々に出した声に、彼は驚き、振り向いた。
僕と同じように帽子を被った少年だった。
「誰?」
「誰だと思う?」
怪しむような彼の言葉に、僕は笑った。
そして、僕は彼の背後に浮かびものを見つけた。
「君は、どんな冒険をしているの?」
ぽつん、ぽつんと何もない部屋に浮かび上がる。
それは、彼の記録だった。
僕と同じような冒険をして書いたレポートの数々が、浮かんではきえる。
「それが君の冒険?」
僕は目を細めた。
彼は、僕とは違う人と出会い冒険をしていた。
僕のいた場所では見ることのなかったポケモン。
そして新しいタイプのジムリーダー。
知らぬ団体と緑髪の青年。
彼も、僕と同じように沢山の人に出会ったようだ。
600をこえ、さらに増えるであろうポケモンたちは
彼に一体どんな体験をさせているのだろうか。
僕はその記録から目を離し、彼を見て、聞いた。
「君は知っているかい?」
知るものだけが知る数々の出来事が浮かんで、消えた。
「こんなにポケモンが増えるまでにあった冒険を。」
だいぶこの空間にもなれて、望めばある程度の記録を見ることが出来ていた。
だから、彼に見せる。
僕たちと同じような少年や少女が、僕たちと同じように冒険をしている風景を。
知らない地域で、未だ見ぬポケモンたちとともに。
「ここまでに至るまでに、忘れられかけているものたちを。」
昔、いろんな場所で出会ったトレーナーたちが、その記憶に浮かび上がった。
いろんな人がいた。
でも、それはどんどん消えて、居なくなっていった。
「古き物は、皆捨てていく。新しい物へ乗り換えるために。」
沢山のポケモンが記録された、自分だけの図鑑を取り出した。
「僕たちはこれを集めるために冒険に出たはずだ。そう、全てはそれが始まり。」
僕の手には、2つの違う図鑑。
1つは、初めての冒険で。
もう1つは、数年後の別の僕が冒険したもの。
そして、記録の少年少女たちも、違う図鑑を持っている。
ポケモンを見つけて、捕まえて、倒して、記録していく。
そう、僕たちは全員、博士に図鑑を完成させることを頼まれて冒険を始めた。
それを忘れ、戦いに、コンテストに、力を入れる人も少なくないけども。
「君は知っているかい?ポケモンが493匹だった時代を。」
3人の少年少女。
彼らは、シンオウで、神話と戦った。
3つの湖にすむ3匹のポケモンから作られた赤い鎖。
それに苦しむは神話のポケモン。
そして裏の世界にいる1匹のポケモン。
少年たちは、そのポケモンたちを苦しめるギンガ団と戦った。
「君は知っているかい?ポケモンが386匹だった時代を。」
ジムリーダーの子供と博士の子供。
2人の少年少女は、陸を増やすことを目的とするマグマ団と
海を増やすことを目的とするアクア団に出会った。
そして、それぞれ2つの団体のボスは、大雨を降らすポケモンと
日照りを起こすポケモンを呼び起こして世界を混乱させた。
ある場所では日照りで地面が乾き、ある場所では大雨で陸が沈んだ。
そして、塔にいるポケモンは怒り、嘆き、ある場所での決着を行った。
「君は知っているかい?ポケモンが251匹だった時代を。」
ロケット団の復活を願う残党たち。
彼らは湖のポケモンを、ある村でまったりするポケモンたちを苦しめた。
ごく普通の少年少女と、盗みを働いた少年は。
旅をして、ロケット団を止めている時に、伝説のポケモンたちと出会った。
塔にいて崇められるポケモンを
世界を回り、焼け落ちた塔で1度死を迎えたポケモンを
海を司る神とも言われたポケモンを
16人のジムリーダーと出会った彼らは、最終的に山の頂上へと上った。
「君は知っているかい?ポケモンが151・・・いや150匹だった時代を。」
懐かしい記憶が蘇る。
僕は、ジムリーダーを倒しながらロケット団との戦いに巻き込まれ
結局は壊滅まで追い込んだ。
それで得られたものなど、最終的にはなかったが。
ただ1つのモンスターボールを手にとって放つ。
そこには、宙を飛び回り、あのポケモンの姿。
「始まりは、150のポケモン達。君の冒険までにこの子たちを原点に全てが始まった。」
ポケモンは、小さく鳴くと真っ白な部屋を飛び回る。
「君は、これからも沢山のレポートをかく。」
いまも、こうして。
見えないのに、いろんな場所でレポートが書かれる。
それは、バトルをするまえか、交換するまえか。
それとも、ちょっとした休憩か。
「でも、僕はそろそろ書けなくなるから。」
いつからだろうか、自分の冒険のレポートの音が聞こえなくなったのは。
気づけば、1つ、また1つと記録は消えていった。
そしてそれは、自分がきえる予兆でもあって。
「でも、君たちがそうして冒険できるのならば僕はうれしいよ。」
ゆっくりと、自分が消えるような感覚に陥る。
彼が驚いているような顔をする。
「まっ・・・!」
「僕はそろそろ限界だけど。もう1つの冒険がまだ残ってる、そして未来の冒険も」
ポケモンは再び鳴いた。
いくつも浮いていた記録は1つ1つ消えていく。
まるで、すでにロードが出来ないことを表すように。
すでに、その記録が存在しないように。
「知らない子が増えても、知ってる人はきっと覚えていてくれる。
それなら、僕は・・・僕たちは消えない。」
君がそうしていることが、なによりの証だから。
「つないで欲しい。僕が消えないためにも。これからも。」
ポケモンは、真っ白な部屋を飛び回って僕の元に戻ってくると、小さく鳴いた。
ああ、自分はもう居なくなるんだ。
最後に、君の冒険が見れてうれしかったよ。
消えゆく意識の中で、ふと、沢山の人々のことを思い出した。
博士、8人のジムリーダー、四天王、ライバル
そして、冒険した151のポケモンたち。
君たちは、別の場所で、地域でまだ活躍し続けるんだろう。
僕はそれを、影から見守ろう。


・・・あぁそう言えば彼の名前も聞いていなかったし名乗ってもいなかった。
いずれ、また会えるだろうか。

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  せっていを かえる

2011.07.05.

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