再び会えるかな

ポケモン(赤緑青/FRLG)

さくさく、と雪を踏む音だけが響く。
なんで、カントー最強のジムリーダーの俺がこんなことをしているんだろう。
場所は、カントー・ジョウトで一番高い山であるシロガネ山。
雪が降り、辺り一面は白一色。
寒さに強く、レベルの高いポケモンが多く生息し
強いトレーナーでもあまり立ち寄らない。
強いトレーナーと言えば、俺の中では奴だけだ。
ぷつん。
気づいたら奴との連絡は一切つながらなくなった。
家にも戻らない。
一体どこに行ってしまったのだろうか。
最後に話したのは、いつだった?
俺がまだチャンピオンの時だったか?
それとも、その後おじいちゃんに図鑑を見せにいったときか?
違う、最後に会ったのは・・・
俺が、ジムリーダー試験を受けたあとだ。
あのとき、奴は珍しくマサラに戻ってきてて・・・
いつも無口だから、俺が一方的に話すことばかりだったけど
それは、俺たちがトレーナーとしてマサラを旅立つ前からだったけど。
自分から話すってことをあいつはしなかった。
小さい頃からそうだった。
・・・本当に?
奴が話さなくなったのは、いつだった?
歩いてきた道の足跡は、すでになくなりつつある。
今日も、ここでは雪がひどく降る。
まるで、なにかを遮るように
洞穴があった。
見つかりそうで見つからない、ひっそりとした場所に。
雪をしのぐにはちょうど良い。
炎タイプは持っている、だけどここで出すつもりはなかった。
中に入ると、一面が闇だった。
洞穴ではなく、ただの洞窟の入り口だったのか。
フラッシュを覚えているポケモンは、生憎持っていなかった。
こんなことだったら連れてくるんだった。
しばらく立ち止まり、あたりを見回す。
目が慣れて、うっすらであるが中の様子が分かる。
この程度ならば、進める。
先ほどの雪道よりも随分進みやすい。
それは当たり前なんだが。
少し入り組んではいるが、だからといって行く手が阻まれることはない。
近くには雪解け水かなにかで出来たであろう滝が流れている。
何故、俺がこんなことをしているのか。
それは奴のせいだ。
いや、接点はないはずだ。
幻覚なのでは?などと多くの者は言う。
このシロガネ山にいる、亡霊を。
時々この山に訪れる者がいる。
それは、おろかにも自ら足を踏み入れる者
どうしてなのか分からないが迷子になり、入る者
しかし、大体の-頂上に登った-者が、必ず行ったのだ。
“亡霊がいた”
信じないにしても、その噂が広まりすぎてもあまりよろしくない。
場所も場所だから、俺がこうしているのだが。
俺は、幽霊や亡霊なんてものは信じない。
シオンで奴と会ったとき、奴は俺の後ろの方を見ていた。
片手には、不思議なスコープを持って。
まるで、何かが見えているように。
だけど、しんじない。
だから、自然に思った。
亡霊は奴では?なんて。
まぁ、奴がこんな場所にずっといるはずはないんだが。
どうせジョウトやどこかでバトルでもしてるんだろ?
出口だろうか
唯一の明かりが見えた。
また、あの寒い所を歩かないといけないのか。
多少の厚着をしているにしても
どちらかというと温暖であるマサラで育った俺にとっては辛い。
でも、だからといって戻るわけにも行かないから。
その光に向かって進んだ。
近くまで行って、そこが外でないことに気が付く。
雪が、降っていなかった。
なのに、明るい。
外ではないのだろうか、誰かがフラッシュをたいているから明るい?
足を踏み入れる。
そこはまた別の空洞となっていた。
明るいために端まで見える。
ここは行き止まりのようだ。
数歩、足をすすめる。
「だぁれ?」
急に背後から聞こえた声。
しかも、この場所には合わないような・・・
「珍しいね、人がくるなんて」
後ろを振り返ってモンスターボールを構える。
そこには、1人の少女の姿。
俺より数歳年下だろうか。
黒いワンピースを身にまとっている。
「・・・あぁ、そっか。グリーンだったんだね、大きくなってたからわかんなかった。」
「俺の事を知ってるのか!?」
まるで、親しいように。
少女は俺のことをグリーンと呼んだ。
ジムリーダーだから俺の名前を知ってる人は多い。
だけど、少女はなんといった?
「うん。久しぶり。でも、どうしてここにきたの?」
「久しぶり?」
「あれ、あー・・・わすれちゃってるんだ。しかたないよ。」
とてとて、と俺の横を過ぎていって
奥にあるすこし高めの台の方まで少女は進んでいった。
「会いに来たの?“彼”に。」
誰のことだ、なんて考えることはなかった。
あぁ、そうだ。
俺が一生懸命になることなんて、奴の関係することだけだから。
「私も会いたいの。でも、たぶん彼に会えないよ。見えないし、触れられない」
それはそうだろう。
だって奴は、行方不明でどこにいるかわからないのだから。
でも、“触れられない”?
「きっと、まってるんだろうね。強い人。」
早く、来てくれるといいんだけどね。
少女の言葉は、たぶん普通に聞いてたらなにを言ってるかわからないだろう。
でも、分かった。
そうか、奴はもう
もう“この世”からいなくなってしまっていたんだ。
「彼は最強のトレーナー。でも、最強だから、いないんだ。」
自らを負かしてくれるトレーナーが。
俺が、奴よりも強ければこんなことにはなっていなかった?
「グリーンは駄目。グリーンじゃないトレーナーじゃないと。」
何故?
「グリーンも強いけど、ライバルだけど、グリーンは駄目。
だって、グリーンは同等だから。
同等じゃなくて、それ以上がいい。きっと」
ふわり、と少女は浮いた。
少女も、奴と同じだ。
「いつか分からない、けど来るよ。
グリーンよりも強くて、彼に勝つ人。
だから、待ってて?」
きっと、それが終われば彼も私もグリーンに会うよ。
ふっと、少女は消えた。
明るかった洞窟は、既に闇に包まれている。
まるで、さっきの事が夢であったように。
ボールに入ってるポケモンたちが心配してる思いが伝わってくる。
まっすぐと、洞窟の奥へ進む。
そこには、ぽつんと置いてある、奴の鞄。
ボールはない。
きっと、奴と一緒だろう。
「・・・まだ、俺はお前に勝ってないのにな。」
再戦の申し込みもまだだったのにな。
なんで、こんなにも早くにいなくなった?


シロガネ山。
カントーおよびジョウトのバッジを全て持ったもののみ入ることを許可する。
-----トキワシティジムリーダー グリーン-----


「貴方が、最強のトレーナー・・・」
「・・・。」
すべてのバッジを手にしてようやくここに入ることが出来て。
まさかあえるなんて思わなかった。
3年前にロケット団を壊滅にまで追い込んだ、トレーナー
すっとモンスターボールが構えられ
2匹のポケモンが、シロガネ山頂上でバトルを開始した。





「おっはよー!グリーン。」
カントーマサラタウン。
少年少女が朝から外に出ていた。
マサラにいる、数少ない子供だ。
「朝っぱらから元気だな。あれ、あいつは?」
とげ、なんて言われる髪型をするグリーンと
「まだ布団。早く出てくればいいのに。」
茶髪で赤のスカートであるリーフ。
「リーフ、放っておけ。その代わり俺たちが先にポケモンいただけばいい。」
「そっか!」
そして
「・・・なんでそうなった?」
「よう、ねぼすけ。」
「おはよう。」
帽子を被り、いまだ眠気が消えていない少年
「・・・おはよう。」
3人の冒険は、未だ始まってはいない。
「ほら、さっさと目を覚ませ。いくぞ?」
「んー・・・」
少年2人がマサラにある研究所へ向かう。
それを少女は見ていて。
そして、帽子の少年ではなく、グリーンに
「ね、会えるって言ったでしょう?」
聞こえないようにつぶやいて、笑った。

2011.01.13.

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