遠距離恋愛で5つのお題

2.声だけじゃ満足できない!

鼻歌を歌いながらなにかを製作する彼女。そして、それを何事かと思って見るメンバー。天才科学者、と呼ばれる彼女だが関係者は彼女が作る物に対しては恐怖しかないだろう。出会い頭に彼女の製作した機械が襲ってきたのは未だ記憶に新しい。
そして、それから共に行動してから分かった、食事に入れる薬品。彼女にとっては仲間とは実験材料でしかないのだ。生命の危機に陥らない分、良心的なのかもしれないが、そう思う人間は彼女の関係者にはいない。
だから今回も、被害者の筆頭であるロニを中心に、全員が機嫌の良い彼女を恐れた。
「ハロルド、今回はなにをつくったんだい?」
「んー、あれば便利なものかな。まぁ試作段階だしなんともいえないわね。」
顔を覗かせたナナリーがハロルドの作品を見る。手で持てる、コンパクトなものだ。ハロルドの返答に、何人かがほっとした。どういやら今回は命に関わるものではないらしい。
「小型通信機よ。持っている人同士で会話が出来るの。」
「へぇ・・・よくわからないが面白そうだね。」
「一応6つ作ってみたから皆に配ってくれる?」
「かまわないよ。」
ごそごそと側にあった袋からハロルドは持っていた物と同等の物を取り出した。全てぱっと見た限りではどこも違いはない。
「んじゃ、カイルたちにこれね。ジューダスには私から渡しておくから。」
そう言ってハロルドは側で剣の手入れをしていた少年の側へとやってくる。ジューダスは視線を一度ハロルドに向けたが、すぐに剣へと戻した。
「聞いてたでしょ?はい、これ。」
ハロルドの手には今現在カイルたちに渡されているであろう通信機。通信機、というものが世にはまったくないのにどうしてこんなものを製作したのか。ソーディアンは離れていても通信出来ているそうだからそれを応用されているのかもしれない。
「興味ないな。テストならカイルたちに渡したので十分だろう。」
「いいじゃない、せっかく6つ作ったんだから。」
ちょっとは協力しなさいよ、と彼女は言った。しかし、少年の興味はひかない。 「でもこんな側じゃ使っても意味ないけど。長距離も無理だと思うけどね」
「なんでこんなもの作ったんだ?」
「んー。あまり意味は無いわね。ソーディアンの通信の応用でちゃちゃっと作っただけだし」
まるで余った材木で椅子を作ったの、と簡単にいうかのように。どう考えても簡単にできないことを、彼女はいとも簡単に言った。 「あ、ジューダス!ハロルド!」
「カイルじゃない。通信機渡った?」
「うん!これで今からリアラと会話するんだ!」
嬉しそうな顔をした金髪の少年、カイルが小走りでこちらへと向かってくる。どうやらどのくらい離れてもはなせるのかを試しているのだろう。近くだと普通に声が聞こえてしまって意味がない。
「結果は報告してね」
「うん!」
ハロルドたちよりも少し離れた場所で、カイルは通信機に耳を当てる。
「リアラ?うん。・・・おー!本当に会話できるー!」
きゃっきゃっと少年特有の甲高い声で騒ぐカイル。
「成功してるみたいね。通話の距離の限度は分からないけど。」

あの喜びようでは、聞かなくても結果は一目瞭然である。しばらく会話を楽しんだカイルは、少し考えたあとすぐに先ほど来た方向へと引き返した。
「ありゃ?なにかあったのかしらね」
「さあな。」
少年は剣を研ぎ終えて鞘にしまう。前よりも減った剣の数は、研ぎ時間さえも削っていた。
「で、あんたは使ってくれないの?」
「使う理由がない。」
「なによそれー。ちょっとくらい手伝って貰ってもいいじゃない」
「お前の実験の成果はさっきカイルが証明しただろう。」
「むう。」
ふてくされた彼女を横目に、少年は言葉を続ける。
「それに」
「なによ」
「お前がここにいるのになぜ機械を使わなければならないんだ」
彼女をよそに立ち上がって少年はその場を後にする。通信機は、置きっぱなしで触れてもいない。彼女が追ってこないのを確認して、少年は背を向けたまま歩き出した。
「ふーん。通信機の声だけじゃなくて顔がみたいって事?」
カイルのあの行動も、声だけじゃなくてリアラと一緒にいたいがためだろう。声が聞こえて側にいるように感じたとしても、実際相手はその場にいないのだから。
「ジューダスって不器用なのよね、勝手に解釈しても文句いわせないわ」

2011.10.11

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