遠距離恋愛で5つのお題

4.ひとときの逢瀬がつらくなる

「これは夢かしらね」
「そうだろうな」

白く、そして黒く。そんな景色の中に、私たちはいた。彼は見覚えのある姿をしていたが、唯一、仮面だけがなかった。顔を隠すものがなくなっているからこそ、彼の表情はよくわかる。あの仮面も、隠しているようであまり隠れてはいなかったが。
彼はただそこに立ちながら、周りに関心を向けることはなくそこにいる。

「あら、あの世での再会かも、って思わないわけ?」
「ないな。僕はすでに死んでいるが、お前はまだだろう?もっとも、あの世では死んだあと若返るのならば話は別だが」

彼の姿は見覚えのある姿。聞いた話だと16歳だという。精神年齢は違うにしても、身体年齢は死んだ年齢。まだあどけない面影が残っている。そして私もまた、身体年齢23歳という姿。こんな若く死んだらやり残したことが多すぎる。記憶の中ではアトワイトに無理やりベッドに押し込まれたのが最後だ。だから死んではいないだろう。記憶が失われていなければの話だ。

「所説では天国だとか地獄とか言われるけど、ここは例えるならどこかしらね。天国にしては味気なさすぎだし、地獄にしてはなにもないわね」
「……」
「中間をとって煉獄かしら。でも煉獄は浄められたら天国にいくようになっているものだし、こんなところで浄めなんてできるのかしらね」
「……」
「あら、それ以前にあの世での時間間隔ってどうなってるのかしら。私たちじゃ1000年もの違いがあるのに同じ時間にいるっていうのは不思議な話ね」
「……」
「神の力をもってすれば時間も空間も移動できるっていうのは照明されたけど、それは現世の話であってあの世では別原理なのかしら。それとも神であればこちらにも干渉できる?バルバトスのように死んだ人間を生き返らせるということは可能なのかしら。でもそもそも生き返ったというのが語弊であって死ぬ直前に神が治療して助けたっていうのもあるのよね。死んだことが確認された人間を生き返らせるということは不可能だけど、神だったらできるのかしら。」



つらつらと言葉が出ながら、考えごとを繰り返す彼女を一瞥し、そっと溜息をつく。僕と彼女が出会ってから、まだ少ししかたっていない。いや、本当ならば出会ってすらいない。出会っていないのにお互いを覚えており、そしてこの空間にいる。このこと自体が非現実的でありあり得ない。ふつうであればどうやったらでれるのか、ここはどこなのかと不安を募らせるはずだ。しかし彼女はそれが好奇心を刺激したのか、いくつもの疑問が浮かんでは新たな疑問を生み出し、その思考は止まるところをしらない。
だからふたたび息を吐いてから、自分と彼女に起こっている変化に気が付いて、声をかけた。

「ハロルド」
「なによいま忙し」
「さらばだ。もう会うこともないだろう」

彼女が思考を止めて振り向いた瞬間、僕と、そしてハロルドの意識は暗転した。





目が覚めたとき、そこはいつもと変わらない自室だった。思い身体を起こすと、テーブルには1枚のメモが置かれており、時間になったら会議室にくるようにとあった。生憎、その時間は過ぎている。
けれどそんなことはどうでもいい。
再びベッドへと身体を沈め、目を閉じる。思い出すのは先ほどまでみていた夢だ。自分よりも年下の男と話す夢。見ることはないと、会うことはないと思っていた。だから彼と目を合わせることなく過ごした。これがただの夢で、ましてや幻覚であると思いたくなかった。自分はそんなに女々しかっただろうか。研究一筋だった自分に相手などいたことはないが、軍人としても、一個人としてもこんな思いをしたことはない。
彼は言った。もう会うことはないと。それは自分も感じている。実際、私と彼はあったことはない。1000年後に生まれる彼が、私と会うことなどできはしない。しかし、実際に私は彼と、彼たちと出会っている。それは夢でもなんでもない現実だった。
だからこんかいのことも現実なのではないかと、考えた。けれど、それはあまりにも、神が介入していないからこそ非現実的で起こりうることはないことだ。研究を重ねればできないこともないだろう。しかし今は天地戦争のあとの復興で忙しく、それをしているひまはない。やっても構わないが、私の心がそれを否定する。やっと見れる、空。外郭に覆われていない空を、私は兄と見たかった。兄はなくなり、それもかなわないが、それでもその願いは変わらず持っている。だから今は、それをかなえるために動く。そうしたら、今度は彼に会いに行く。今も合間合間にその研究は始めている。近いうちに必ず、会いに行く。
しかし

こんなにも、夢で逢っただけでつらくなるなんて、思ってもいなかった。


2015/12/18

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