「あら、こんな場所で何しているの?」
「・・・ハロルドか」
もう日が暮れ、辺りの街灯がつき始めた頃。
ファンダリアにある宿屋の一室に2人はいた。
仮面の少年、ジューダスとピンクの髪の少女、ハロルド。
もっともジューダスは今、仮面を外しているが。
仲間にはばれてしまった正体。
当時ハロルドはその場にはいなかったが、天才科学者でソーディアンを作った者だ。
図書館の本を全て読破して、ジューダスの正体なんてすぐにばれていることだろう。
「部屋寒いわねぇ。いつからそうしているの?」
「さあな」
部屋の窓は全開。
ファンダリアは雪に覆われる地だ。
窓を開けていれば体や部屋が冷えるのは当然。
それなのに彼はずっと外をみていた。
「カイルたちが捜していたわ。部屋にいないって」
「・・・それは何時間前のことだ?」
「部屋捜したのは1時間前だそうよ」
「・・・そうか」
「すれ違いってことね。カイルたち下にいるわ、用を聞きに行ったら?」
「いや、たいしたことではないだろう」
「ま、そうかもね」
ハロルドとの会話の間、ジューダスは外を見るのをやめて彼女を見ていたが
話が終わるとまたすぐに外に目を向けた。
「何を見ているの?」
「別になにも」
「じゃぁ窓閉めなさいよ、寒いわ」
「部屋に戻れ」
「いや」
「・・・。」
彼は彼女に言葉で勝てるとは思っていない。
いや、天才である彼女に勝とうとすることじたい無謀なのだ
それとも彼女の場合なんでも力ずくで通してしまうのか
そんなわがままはハロルドの元の時代、天地戦争時代でソーディアンチームとの会話で理解し
そしてその現場を見たことによって確信となっている。
だからなのかジューダスはその言うことを聞き、窓を閉めた
そして近くにある椅子に腰掛ける。
「・・・で、何のようなんだ?」
「ちょっとこの薬をね、飲んでもらいたいの♪」
「断る。そして帰れ」
「いやん、嘘に決まっているじゃないの」
「お前の嘘は嘘に聞こえない」
「大丈夫よ、この薬はロニに試すんだから」
「・・・そうか」
そこでロニをかばうようなことをしないのは
もしかばったらそれが自分にくるのが分かり切っているからだ。
一度寝込みを襲われることもあったし、実際に血を抜かれている者もいる。
誰も進んで実験体になろうとはしないだろう。
「ま、本当の目的は、ちょっとイクシフォスラーの試運転につきあってほしいってことなんだけど」
「また改造したのか」
「もちろん」
その前に改造したのは確か孤児院に行ったときのような気がしている。
何回改造すれば気が済むのか
彼女も彼も気づいている。
この戦いは、すべてがなかったことになるということを
それなのに、毎度毎度彼女はイクシフォスラーの改造を続ける。
何のためか、なんて本人以外の誰にもわかりはしない。
「ちょっと、なにしてるのよ。早くいくわよ」
ドアの入り口まで進んでいた彼女は振り向いてそう言った。
彼はそれを見ると、いつものように仮面をかぶり、彼女の後をついて行くのだった
2010.08.03.