許されないこと

D2

ザーザーと雨が降っていた
静かな部屋にいた僕には、その音しか聞こえない
時々聞こえる足音は、部屋の前で止まることなく通り過ぎる
今聞こえる足音も、部屋の前を通り過ぎる。
しかしその足音は、ある程度扉をすぎた後、何度も引き返していた。
「ジューダス」
ノックもなしに開いた扉からは、過去に一緒に行動した彼・・・スタンに似た顔が見える。
しかし今目の前にいる彼はスタンよりも髪が短いく、幼い
「なんだ、カイルか。どうした」
カイル-スタンの息子
お節介なのも多少父親似か
それとも母親似か
とりあえずバカなところは父親に似ているのだろう
もっともカイル本人は、その父親の事をあまり覚えてはいないのだろうが
「あのさ・・・」
もじもじしながら何度も口を開けたり閉めたりを繰り返す。
はじめは何の話かと思ったが
時間が過ぎることによって、口に出されるだろう言葉が頭に浮かぶ
それは、もうすぐつく場所でのことを指していて
「クレスタには行かないぞ」
そう言い放つと、カイルは驚いたような顔をした
だが、次には表情が変わっていた
「なんで!」
2人の間にある机が思いっきりたたかれる
その音になにも反応せずに、じっとカイルを見た
「知ってるだろう。僕は彼女に会ってはいけない。」
なぜ、かなんて聞かずともわかるはずだった
あのとき、カイルは真実をしった
僕の正体、結末
それでもなお、彼女と会わせるか
「でもフィリアさんやウッドロウさんには会ってるじゃん!母さんにもあのときっ」
後方で、ばれないように。
フィリアの時は目の前で話をしてしまった
だが、2人と彼女では話が別だ
彼女と1度会ったときは、彼女はカイルに目がいっていた
だから、僕には気づかなかった
それでいい
カイルも、ロニも知らないことがある
それは、もし話してしまえばどうなるか目に見えてしまうこと
彼女と僕の関係
それがつながれば、必然的にやつともつながるから
「駄目だ。」
決心は、決して揺るがない
揺るがしてはならない
「なんで!」
「・・・お前は知らなくていい」
知ってしまえば、後悔する
知らない方がいいと、思う
「ジューダス!」
「何度も言わせるな」
椅子から立ち上がり、カイルの横を通り過ぎる。
「たとえ向かったとしても、僕は彼女と会わないし、話すこともない」
彼女とはもう会わない、話さない
もし、ふれてしまえば・・・

――「さすが王国期待の客員剣士様ね。下々の者とは握手もできないってわけ。」――

初めて出会ったときの印象はお互い最悪で。
なれ合うつもりもなかった
そして、彼女にはあの真実を教えるつもりはなかった

――「拳のツボを刺激すると、少し楽になるわよ。ほら。」――

少しの間だけだった
神の眼を取り戻すだけの間だったのに
なぜか、気づけば

――「嘘・・・でしょ・・・」――

気づけば、彼女に真実を話していた
話すつもりはなかったのに
気づけば彼女に話していて
決して、許されることはないのに。
あのときの彼女の驚いた顔は、今でも忘れない。

「・・・すまない」
決して、許されることではない
知らなければ、それでよかったはずなのに
それでも話してしまったのは、自分のわがままな気持ち
だから、僕がこの場にいることは決して知られてはならない
彼女にだけは

2010.08.03.

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